物語 [ルミカが公園でおじさんに拾われ捨てられ再会する件]  

…これは、フィクションです、どこかで似たようなことがあったとしてもそれはあなたの勘違い…

冴子がアポも取らずに訪ねてきた。でも、要件はあのことだ。分かっている。ドアを開け入るなり、

「私、この年になって赤ん坊の弟とか妹なんかいらないんだけど…」

「・・・」

「年下の義理の母なんて、絶対嫌なんだけど・・・」

「大丈夫です。大丈夫、妊娠なんてしていませんから。それに、美人の奥様がいらっしゃるのに、ブスの私が、追い出して後釜に座る気なんて恐れ多い、とんでもないことです。大丈夫です。」

「庶務課の厚子があんたの母子手帳見ちゃったんだけど、顔を真っ赤にして報告に来たわ」
「なんかの、勘違いですよ。私、妊娠なんてしていないし」

「先月位、昼休みにトイレでゲーゲーやっていたのを経理の正美さんが見たって。しらばっくれないで、お願いだから堕してよ。」

「妊娠なんかしていません。社長とはそんな関係じゃないって言っているでしょう」

「じゃ、どんな関係なのよ」

「だから、冴子取締役から命令された配線図の案を見てもらったり、新素材や部品の特性を教えてもらったり、組み合わせのアイディアもらったり…社長はそういう話大好きで、目がキラキラするんですよ。少年ですよ、少年。知ってますよねぇ。」

「そのあとは…」

「だからそのあとはビール飲んで、ポテトスナックやら得意のカップ焼そばとか一緒に食べてると、眠くなるからそのまま寝ちゃうんです。社長も年だし清らかなもんです。心配ないです。」

「あんたの、ウソ話聞きに来たんじゃないの。何よ、ここに吊るしてあるエロい下着。こんなランジェリー付けてるくせに、私が付いて行ってあげるから、早い方がいい、明日朝、一緒に産婦人科に行こうよ」

「しつこいですねぇ、冴子さんみたいな美人には分からないかもしれないけど、不細工な女はせめてエロい下着でもつけていないと男に捨てられちゃうかもしれないって、いつも不安なんです。」と言いながら急いで洗濯物をハンガーから外してタンスにしまいだした。

「私と社長のこと認めてくれて、とても感謝してるんですよ。父親の恋人なんて本当は不愉快なのに、そのうえ年下で、部下のくせに…それなのに、優しく厳しく指導してくれて、おかげで先輩たちに虐められることもなく、一応エンジニアとしても認めてもらえました。

パートから正社員にもしてもらえて、給料も増えました。ボロアパートからここに引っ越してこれました。

でもね、万一妊娠していたとしても私の子どもですからね。社長の子どもだっていう証拠はないでしょ。冴子さんの妹っていう証拠もないし、私だけの子どもです。心配しないでください。」

「ふーん、女の子なんだ。社長はあんたのこと公園で拾ってきたって言ってたけど…それってルミカちゃん、まだ中学生だったんじゃない。お爺様が死んで、それで母が家を飛び出してそのままフランスで画家と同棲始めて、私も何だか分からないまま一緒にパリに連れられて行ってしまったから、お父様、大変なショックで…辞任するって…そんな心の隙をついて、あなた、自分の父親より年上の男を手玉に取るなんて、大した中坊よねぇ」

「心の隙に割り込んだって話ですね。野良猫みたいに私が…何度も聞きました。ちょつと違うと思うけど…社長は哀れな可愛い子猫を拾ったのに、すぐポイ捨てしたんですよ。もっといい猫になったら飼ってやってもいいみたいなひどいこと言って。だから私だって、頑張って、頑張ったんです。今でもカツサンドが美味しいと涙が出てくる」

「美人で、一流大学出て、仕事はスマートで、みんなに好かれて、出戻りだけど男たちがうんざりするほど言い寄ってくる冴子さんには分かりませんよ。とにかく今日は帰ってください。今日は社長も来てくれないから、1人飯してビール飲まなくちゃならないし、出張先に電話して社長に女が近寄ってきていないか探りをいれなきゃいけないし、冴子取締役から命令された回路設計のコンセプトも明日までにコスパを計算してパワポにしなくちゃならないので忙しいのです。妊娠していたら嬉しそうに報告に行きますって、残念ながらそこまで行ってません。もう、おかえりください。」

そう言って何度もぺこぺこと頭を下げながら、いきなり背伸びして下唇を軽く何度か吸って、冴子の首に手をまわし口を塞いだ。彼女の弱点は分かっている、どんなに気が昂っていても、ルミカに舌を入れられると力が抜けて大人しくなる。

そのまま玄関の方に押し戻し、手を放して「明日ね」というと「ルミカ、あなたのこと嫌いじゃないのよ、でも、これだけは譲れない。分かってね。」と言って帰った。

冴子常務はひどいファザコンだけど、社長とは本当の親子ではない。パリに住む画家が彼女の父親だ。社長も冴子さんも騙されていた。苦しんでいることはよくわかっているつもりだ。もし、社長と血のつながった子が生まれて、それが女の子なら、その子に父の気持ちが行ってしまうと不安なのかもしれない。

常務と私と社長とみんな仲良く愛しあえるなら、こんなプレッシャーなくなるのに、なにか作戦考えなくっちゃ…そうだ、私たちの隠れ家に常務にも来てもらってぇ…等と考えをめぐらすルミカだった。

・・・・・

蒸し暑い!あの夕方。
家を飛び出して、駅の方歩きながら、母から来たメールを開いたとき
…いろいろ誤解があったみたいだけど、とにかく不二夫さんに暴力、怪我をさせたのはいけない。あなたらしくない。早く家にもどってきなさい。そして謝りなさい。…
あの時、駅前で「お母さん助けて!」ってスマホしたら返ってきた返信メールは忘れられない。涙が止まらなかった。母はあの男の方が大事なんだ。私はもう捨てられたんだとはっきりわかった。スマホの電源を切って、そのまま電車に飛び乗って東京に向かった。

繁華街からすこし外れた公園に来て4日目だった。お腹も空いたし、ザキミちゃんとコンビニでパンを買って二人で食べたら、残りは60円。ザキミちゃんはゼロ円。

もうやるっきゃないし、でもドキドキして声が出ない。今度こそおっちゃんが来たら声をかけよう!と何十回も決心したのに、ルミカのお尻は公園のガードにくっ付いたまま。公園は何本かの街灯とその先に見える街中のお店の灯りだけ。

ザキミちゃんはさっき男の人とラブホ?に行っちゃった。・・・いいか、よく見とくんだよ、1回しかやらないから。こいつヤバい奴かどうか一瞬で見分けなくちゃだめだよ・・・そう言って小太りの中年のおっさんに走り寄り、笑顔で声をかけると、腕を組んで振り返り、ニヤッと笑いかけてそのまま行っちゃったザキミちゃん。今夜はとうとう独りぼっちになっちゃう。

ルミカは「今度こそ!」と言い聞かせて街灯りの方を見詰めた。公園の少し先にある高級そうなレストランから四人のおじさんが出てくるのが見えた。三人のスーツを着たおじさんがジャンパーみたいなものを羽織ったおじさんに「社長、社長!」と袖をつかんでペコペコ頭下げてた。それから肩を落として街灯りの方に歩いて行った。ジャンパーおじさんだけが公園の脇の道をルミカに向かってゆっくりと歩いてくる。
`社長か…それならヤバくないかもしれない…ルミカはザキミちゃんの教えてくれたことを頭の中で激しくシミュレートする。心臓がバクバク言っている。

・・・立ち上がった。
「あのう、私お腹空いてるんですけどお金もなくって」
おじさんはじっと私を見た
「あのう、泊まるところもなくって、良かったら泊めてもらえませんか?」

「家出?」
「はい」

「そっか、じゃあ付いてきなさい」といってスタスタ前を歩いてゆく。・・・えっ!ザキミちゃんこのおじさん、ヘラリ顔でないし、腕組んで歩かないよ。そんな雰囲気じゃないし、大丈夫かなぁ。

もう他のおっさんを探す気力も残ってないょ!お腹空いてるよう!泣きたいよう、おじさんの持っている紙袋から美味しそうな匂いがしているし・・・

おじさんは24時間パーキングの前まで来ると、そこに在った自販機でお茶を買った。それから、トラックみたいな大きな車(ルミカはその時まだオフロード車というものを知らなかった)の助手席のドアを開けて、乗れと顎で合図をした。

よじ登るようにして助手席に座るとおじさんも運転席に回って紙袋とお茶を渡してくれた。それは予想通りカツサンドだつた。

「食え」
「はい」
「うまいか」
「う、うまいです。こんなおいしいカツサンド初めてです。」・・・止まらなかった、ガツガツ食べた。食べながら涙が出てきた。・・・

「泣いているのか。」
「はい、嬉しくって。」
「家まで、送ってやろうか。」
「いやです。帰れません。お願いですから泊めてください。」

「そうか、これからちょっと遠くへ行くけど構わないか?」
「はい、このカツサンド美味しすぎです。こんな美味しいもの見ず知らずの人間にくれるなんて、あなたはきっといい人ですね」というが返事はなく。
車は走り出した。

「ところで、君の名前は?というかなんと呼べばよいの?」
「ザキミです。ザキミと呼んでください」
「ザキミちゃんは初めてか、家出は…そんな気がするが」

「初めてじゃダメですか」
「・・・」

「お母さんが結婚したおっちゃんがゲロで、いつか必ずあいつに犯られる。私の部屋に入ってきて抱き付いたり胸触ったりする。お母さんに言えないし。だから掃除機のホースで思っきり叩いて、叩いて、逃げてきたの。いつかは絶対あいつにやられちゃうこと覚悟してるけど、初エッチはあのゲロじゃなくて、おじさんにお願いしたいけど、カツサンド美味しかったし…私の処女買ってください。ダメですか?もう60円しかお金ないんです。」
おじさんは前を向いたまま返事をしなかった。

途中、小さな道の駅でトイレ休憩をした。人影はなく車は数台しか止まっていない。既に売店や食堂が閉まって暗かった。

トイレで鏡を見ると髪はゴワゴワ、ブラウスも薄汚れている。・・・こんな汚い女じゃ嫌われるよねぇ。泣いたせいか目の周りが黒いクマになっている。顔をごしごし洗って、汚れたハンカチで拭いた・・・車に戻るとおじさんがニッコリ笑いかけてきた。「ザキミちゃんキスしたことある?」「あります」(ほんとうは経験無いけど) 「じゃあ、おじさんとキスしよう」といった。

「はい!」ルミカはザキミちゃんのアドバイス通り、運転席にいるおじさんに飛びついて、首に手を回して唇を突き出し、目を閉じた。心臓の音がやかましい。
おじさんは唇をやさしく舐めて、下唇を吸ってきた。おじさんのなすままに任せた。体が熱くなった。

・・・めっちゃ、気持ちいい。キスってこんなに良いものなんだ。なんだかぼーっとしてくる・・・おじさんはルミカの腕を外して、

「ザキミちゃん、続きは別荘でやろう、おじさんはもう止まりません。」と言うと車を走らせた。ルミカはおじさんに膝枕してすっかり寝込んでしまった。

突然、ガタンガタンと車が揺れて目が覚めた。車は暗い林の中の山道を登っていた。しばらく行くと林道の少し開けた空き地の奥にログハウスがたっていた。車が玄関前の駐車スペースに入るといきなり照明が点いてまぶしい。ログハウスの窓にも灯りが見える。

家の中に入るとおじさん軽くキスをしてくれた。それから風呂に入れ言った。不思議なことに、すでにお風呂は沸いていた。「着てるものは全部洗濯だ。脱衣所の洗濯機に入れてスイッチを入れたらあとは自動だから…」「あのう、着替えないんですけど、どうしましょう」

「乾くまで、ザキミちゃんは全裸ですよ。」「きゃぁ!」ルミカは悲鳴を上げた。
風呂に入っているとおじさんも入ってきてシャワーをした。それから、ルミカの体を優しく洗ってくれた。母と二人で風呂に入っていたことを思い出させる洗い方だった。

おじさんはガウンを持ってきてすっぽりとルミカの体を包んだ、抱きかかえてベッドへ運び、唇、乳房、臍まわり、下腹部のまばらな繁み、そして割れ目に舌が入り込んできて。
ルミカの頭は真っ白になった。

「いれるよ、力を抜いて」とおじさんが言った。ギリッギリとルミカの中に入ってくる男のモノ。「痛い」「ほら痛いから力を抜いて」ゆっくりと少しずつ固いものが上下しながら入ってきた。

美味しそうな匂いがして目が覚めた。おじさんはキッチンで肉を焼いている。「おっ目が覚めたかい」とにっこり笑ってルミカを見た。

いつの間にか、ルミカは黒と緑の横じまのラガーシャツ?を着ていた。下はすべすべした肌触りのグレーのトランクス。大きすぎ。立ち上がってみるとシャツはワンピースみたい。

…寝ている間におじさんが着せてくれたのかしら、全然覚えていないけど、他に何をされていたのかも分からない。あんなこと、こんなこと…キャ、妄想しちゃう…

「今、何時ですか?」
「もうすぐ12時かな」
「ええっ、そんなに寝てたんだ」
「セックスの最中に寝てしまうとは、いい度胸しているよ」
「わたし、痛かったけど、おじさんに触られているのが気持ちよかったりして、だんだん分からなくなって…おじさん、わたし、本当にバージンだったんですよ、信じてください。」

「確認しましたよ。」とおじさんが言う。シーツにはオレンジがかったシミが広がっていた。「きゃっ!恥ずかしい」と言いながらしっかり見つめていた。
「おなかすいてるだろう。でもその前にシャワーしてきなさい。」

その丸太小屋(おじさんの別荘)で3日間セックスして食事して、寝て、またセックスをして過ごした。

3日目、初めてベランダに出た。森の木々に囲まれた湖が見降ろせる。おじさんはデッキチェアに裸で寝そべって、少し疲れている様子だった。ルミカはおじさんのガウンを纏って、男のモノの頭をやさしく撫ぜて固くして、唾液をたっぷりたらし、キスをした。

「おじさん、頑張って、疲れたでしょう。今度は私がやってみる。おじさんは動かなくてもいいからね」と言って、おじさんに跨ると手を添えながら男のモノを割れ目の中に入れ、ゆっくりと腰を振った。

しばらくすると入れたときの痛みが遠ざかって、気持ちが良くなってくる。体がもっともっと快感を引き出そうと腰が勝手に前後に動く。アッ、アッと声がでて仰向けに倒れ込んで、デッキチェアから床に落ちた。膣から外れたペニスから精液が飛び散って、ルミカの胸や顔にも落ちてきた。

・・・・・

「帰りたくないです。公園に戻るのもいや、ずっとこうしていたい。」

「家に帰りなさい。おじさんも仕事が待っているからここは引き上げなくちゃいけない。」
「帰ったら、怒られるし、ゲロ親父に犯られちゃう。考えただけでも吐き気がしてくる。おじさんの側にずーっと居たい。そうだ!愛人にしてください。お願い。」と言って涙を流しておじさんに抱きついた。
「おじさんの愛人になるには、それだけの値打ちちゅうもんがないとな。なるにはまだ勉強が不足だなぁ。修行が足りない。でも、ザキミちやんのおかげて、私の気持ちの整理ができたことは感謝している。ありがとう」と言って、おじさんはルミカの頭をポンポンとした。

「愛人の勉強なんて聞いたことないよ。」とふくれた。

「おじさんの愛人として皆から認められるくらいの、ザキミちゃんなら納得って思うくらいの女になってからだなぁ。今は、逃げ回っているところだからなぁ。もっと現実と立ち向かえるようにならないと、一度セックスしたくらいで愛人にはなれません。」そう言って、おじさんはルミカの手を自分の睾丸の袋に導いた。

「義理のお父さんが襲ってきたら、思いっきりここを握ってやりなさい。」「こう?」「いたた!イタイイタイ手を放して!」「ごめんなさい」「いや、その調子で、もっと力を入れて握ってやれば、君のお父さんも諦めると思うよ。そのくらい急所なんだ。」
「わかった」と言って、ルミカは睾丸の入った袋を軽く引っ張ったり、おじさんのモノを舐めたりした。変な形をしているけど、なんだか愛おしい。

「そろそろ、引き上げるぞ」とおじさんが言った。
ルミカは帰りたくない。「もう少し待って」と言って、まだ柔らかいおじさんのモノをルミカの中に押し込んで腰を振った。

「おじさんとお別れなんだね。私、おじさんと、この感じ、忘れないよ。」
おじさんのモノが膣の中で固くなっていった。

車のエンジンをかけておじさんは山道を降りかけた。
「おじさん、鍵を閉めないの?それに、電気もつけっぱなしだし。山奥でも不用心だよ。」

「いいんだ、おじさんが居なくなればセンサーが働いて自動施錠、電源も切れる。」

「えっ、それって私の部屋も自動施錠で、ゲロ親父が入れなくできるかなぁ。ゲロ親父を撃退できる、なんか武器みたいなものもあれば、帰れるかも。」

「少し、考えてみるか。乗りかかった船だ。」
「うん、お願いします。」

「一旦戻ろう、センサーやロックの部品があるから、プレゼントしよう。」と言ってまた戻った。いろいろな部品をいちいとりだしてルミカに説明してくれるが言っていることの半分も分からない。

「おじさん、私、難しいこと分からない。子ども科学館の理科クラブのレベルだから、もっと分かりやすく説明して」というと
「おお、リケジョだったか」と言って、笑った。
そして紙を取り出して、図面を書きながら改めて説明を始めた。

山を下りながら、ルミカとおじさんは部屋のロック、センサーの取り付け、模様替えについての話で盛り上がった。おじさんは東京の秋葉原にある電気屋の名前と地図を書いて、足りない部品はここに行けば手に入るから…と言った。おじさんがくれたデイバックにもらった部品と説明書き、記念にとラガーシャツとグレイのトランクスを入れて、おしゃべりを続けながらお尻に敷いていた角封筒も入れた。宛名に会社の住所と相手氏名が書いてあったし、別荘の表札と宛名が同じだったので、おじさんと会社の名前だろうと思ったのだった。おじさんは軍資金だといって10万円くれた。

おじさんと駅前で別れてから、スマホのスイッチを入れた。ものすごい数のメールとすこしの留守電が入っていた。
友達からのメールでは義父との近親相姦で妊娠して家出をし、山の中で自殺したことになっていた。…メールの初めの方は学校中大騒ぎだよ、死んじゃダメ!とか、あのときとっても痛いっていうけどどんな感じ?近親相姦ってルミカが誘ったって聞いたけどホント?妊娠しちゃったってホント? 私のお母さんつわり大変だったって言ってたことあるけどルミカはどうなの?
皆、こんなに心配してやっているのに返事くらいしなさいよ、それとももう死んじゃったのかな?高取山に入って自殺したらしいというチャット、えっキモイ、もう高取山公園には行けない。などとかってに盛り上がっている。…多分、悩みを打ち明けた香苗が皆に話をして、そこから妄想が広がったのだろう、私を死んだことにして楽しんでいる…もう、学校にも行けないと暗い気持ちになった。
そんな友達に交じって父の姉、伯母からも電話とメッセージが入っていた。

・・・・・

ルミカは家に帰る前に伯母さんに相談しようと閃いた。
伯母とは2,3年会っていないが、父が元気な頃は良く遊びに行った。正月にはお年玉をもらえてうれしかったことを思い出す。父からは家が貧しかったので、伯母さんは中学を卒業してすぐ看護師の学校に通い働きながら資格も取り、父の学費を送ってくれたと何度も聞かされた。母はそのたびにシスコン!と呼んだが、父は否定しなかった。

伯母に連絡を取って大きな駅に降り、教えられた17番のバスに乗った。指定されたバス停を降りて記憶をたどって行くと、見覚えのある古ぼけた「あいりんクリニック」の案内板を見つけた。確かこの看板の脇の道を行くと3階建ての診療所があって、その裏手に2階建ての大きなボロい家がある。もとは診療所だったその家で伯母は1人で暮らしているはずだが、街灯もなくて暗く、少し怖い気がする。
表通りに引き返して伯母の指定したファミレスで夕食を食べ、ドリンクバーをはしごして時間をつぶしていると、雨が降ってきた。しばらく眺めていたが、ふらっと外に出て空を見上げた。口を開けると雨粒が入ってくる。そのままぼんやりしていると背後から「ルミカちゃん?」と伯母の声がした。

振返ると、傘を持った白衣(本当はピンクのナース服)の伯母が立っていた。「久しぶりだねぇ。大きくなって、伯母さん見違えたよ。どうしたのこんなにずぶ濡れになって。
・・・お母さんが電話をくれたんだけど…何があったの?家出したの?・・・まあ、話したくなかったら言わなくていいから。」やさしい声だった。伯母は傘を差しかけた。「おばちゃん、おばちゃんのところに今日泊めてもらえませんか?」
「う~ん、汚くしているけど我慢できるかな?あんたずぶ濡れだねぇ、風邪ひいちゃうよ。」
「もう公園で寝たくないし…」
伯母は母に電話でルミカが見つかったので落ち着くまで預かると伝えて電話を切った。

父が生きている時、よく聞かされていた。伯母は中学を卒業すると直ぐに見習い看護師として働きながら准看の試験を通り、さらに正看になって、学費や生活費を稼いでくれた。おかげで大学にも行けた。足を向けて寝られない。すると母が、また貧乏くさい、お涙頂戴かい、聞きたくないわ、本当にあんたは二言目には姉ちゃん、姉ちゃん、シスコンなんだからと切り返す。そして時々激しい口論になる、それはとても恐ろしく感じた。あのころから母と伯母は仲が良くなかったように思う。
そういえば、父が倒れたときも伯母に連絡せず、死に目にも会わせないとか、伯母と母が火葬場でけんかしていた。

クリニックの裏手に回ると駐車場になっていて、その奥に見覚えのある庭の広い伯母の家があった。
「おばちゃんは仕事に戻らなくちゃいけないの、とりあえずお風呂に入って体温めてね。お腹空いてる?」
「いいえ、ファミレスで夕食済ませましたから」
「そう、今日は夜勤なの、人手不足でね、夜勤が多くて…風呂は沸かしてあるからね。着替えある?」
「あっ、はい」
「今日は、和室に寝てね、布団敷いておいたから」
「すみません」
「じゃあ、行くわね。」というと、雨の中小走りで出て行った。

・・・・・

「ルミカちゃん、ルミカちゃん」
「ああ、伯母さんだ、おはようございます。寝坊しちゃった。」
「寝坊じゃないのよ、私も今帰ったところ」
「さあ、お父さんにお線香あげましょうね」
振り向くと食器棚の上に仏壇があった。伯母さんは位牌の一つを指さして、
「これがお父さんの位牌よ。こっちがお爺さんで、この少し小さいのはおばあちゃん。」
「伯母さん、この位牌前に見たことがある。」
「そうねぇ、以前はあなたの家においてあったから、お父さんの3回忌の時に、あなたのお母さんが持ってきたから預かったのよ。」
言われてみれば、家にも食器棚の上に小さな仏壇が置いてあったが、扉は閉まったままで、手を合わせた記憶もなく、いつの間にか無くなっていた。
ルミカは伯母さんのまねをして、仏壇に向かって手を合わせ、線香を立ててリンを鳴らし、また手を合わせた。なぜか、気持ちが落ち着いた。

「本当なら、夜勤明けは休みなんだけど、人が足りないから遅番でお昼にはまた病院に行かなくちゃならないの、だから悪いね。起こしちゃった。」   ダイニングに行くと、女性が二人食事をしていた。伯母さんが「これが、私の姪のルミカ。こちらは看護師のケイちゃんと事務のミイちゃん。二人はこの奥に住んでいるのよ。二人とも可愛い私の姪に悪いこと教えちゃだめよ」
「婦長さんの姪御さんに悪いことなんか教えるはずないじゃないですか、良いことだけ教えますよ。」「それもダメ。ルミカ、この二人は要注意だからね。悪だから。」というと二人も意味深に笑い、ケイがミイの大きな胸を軽く撫ぜながら「婦長さん、心配しないで、大丈夫です。」と言った。ミイが「婦長さん、もう時間ですよ」と言うと「そうねぇ、ほら!ケイちゃん、その手、それがいけないっていうの。」
「アッ!いけない、つい癖で…」
「あんたたち、ルミカに手を出しちゃだめよ、まだ中学生なんだから」と言い捨てて出て行った。
「さあ、一緒に食事しましょうね。ここはねぇ、クリニックの看護師も事務員もみんな来て、休憩したりおしゃべりしたりするのよ。みんな婦長さんのこと好きだし、落ち着くし、それとね、食事のことだけど、ひとり一品持ち寄りで、皆勝手に作って、あと冷蔵庫にあるものを勝手に食べていいのよ。夜勤専門の看護師でとっても料理上手な林さん。あと、事務の美恵子さんとそのお子さんの健一君、もう一人医療事務でお婆さんの長谷部さんも来ると思うから、驚かないでね、長谷部さんは門倉組の会長さんのお姉さんだけど普段はとっても優しいから心配しないでね。あと飯島ってすごい美女もいるけど本当は男だから。」と言った。
朝食は、ホウレン草のバター炒めと、カレイの煮つけ、茹で卵、目玉焼き、里芋の煮物、豚汁とメニューが多くてとりとめもない。だけど、どれもが美味しい。
「さて、私も仕事に行かなくっちゃ。ケイ、後片付けお願いね」といってミイちゃんは玄関前で深呼吸をして出て行った。

「ルミカちゃん、ミイちゃんはいくつ位だと思う?」とケイちゃんが言った。
「そうですね、25歳くらいですか?」
「はずれ、42歳」
「ええっ、ウソ!めっちゃ若く見えます。」
「身長153センチ、体重44キロ、バストD。どうせ分かることだから今のうちに話しておくから、信じられないかもしれないけど覚えておいてね。ミイちゃんは診療所とこの家の敷地から外へは出ることができないの。とってもつらいことがあってね。私なんて、ちょっと女好きで男が苦手なだけでたいしたことないんだけど、まあそのせいで女子高から女の職場と思って看護職を目指したの。でもどこの病院でもレズの癖が出て務まらなくて、たまたまここで診察を受けに来て、ミイちゃんと目が合ってピンときて、看護婦募集してませんかって言ってみたら、人手不足で困っているというから雇ってもらったんだけど、おかげでミイちゃんと一緒になれて幸せなの。分かってね。」
「はあ、つまりお二人はレズビアンということですか」
「そうだけど、ミイちゃんはお母さんが離婚して、ここら辺は家賃や物価が安いと聞いて引っ越してきたのよ。そして、南高校に転校したの、ほら市内一番の低辺高。当時は今よりもっと荒れていてひどかったらしい。そこで、たちまち学年で成績一番、スポーツも得意で、今も美人だし…、目立ったらしい。それで、当時三年生だった札付きのキチガイ野郎に目を付けられて、学校帰りに追いかけられて、ナイフで頬を刺されたらしいよ。今でも右頬に傷あとがかすかに見える。そのまま家に連れ込まれてキチガイ野郎のお母さんの見ている前で、強姦されて、臍の下にナイフで男のイニシャルを入れられたのよ。何日かして警察が来て、ミイちゃんは助けられてこの診療所で膣の裂傷と腹部の切り傷の治療を受けたって、キチガイは俺の女と家で何しようが関係ねぇとか言い張って、未成年だったことから数日で帰されたんだよ。キチガイの母親は止めに入った時に殴られてその時に足の骨を折ったりして仕事を首になって、息子が少年刑務所に行ったこともあって、首つって自殺未遂やったらしい、」
「うっそう!ここはそんなに治安が悪いんですか」
「今はずいぶん良くなったけど今から25年位前までは大変だったようだよ。それでね、警察も警戒してキチガイの家は見張っていたらしいけど、まさか被害者宅へ直行するとは思っていなかったらしい。キチガイは警察から真っ直ぐミイちゃんの家に押しかけて、鉄パイプでドアをたたいてノブを壊して、それでも開かないものだから、外に回ってベランダを伝って3階まで登って掃き出し窓をたたき壊して侵入したんだって、お母さんは仕事で留守だったし、傷も癒えてなく寝ていたし、じっとしていれば何とかなると思っていたのね。鉄パイプ握って恐ろしい顔で寝室に入ってきてお前は俺の女なのにこんなところで寝たふりなんかしてんじゃねぇって言ったらしい。あとは恐怖で覚えていないって。
傷口の包帯やガーゼや縫合部分を手で引きはがして、また強姦よ、強姦。警察が何人も来て、鉄パイプ振り回すから取り押さえるのに大変だったみたい。ミイちゃんはまたここで治療よ。縫合した部分が引きちぎられて動脈出血もあって死にかけたって、ミイちゃんのお母さんも気がおかしくなって入院した。ミイちゃんは妊娠した。子宮外妊娠そして中絶。行き場もなくなって婦長さんが引き取って一緒に暮らしながら、医療事務の資格を取らせて、そのままここで働いているわけよ。」
「すごいですねぇ、伯母さんも尊敬しちゃう。」
「だけど、これで終わりじゃないんだよ、キチガイが少年のムショから出てきて、診療所の入口で俺の女を返せといって暴れたんだと、そしたら長谷部さんが門倉組に連絡入れてね、すぐ若いもんが何人か来てキチガイを取り押さえてね、お前のここが悪いといって、おちんちんを短刀で切り取ってしまったらしい。血だらけだったそうよ。大先生が飛び出してきて、外科は専門じゃないけどさ、何でも引き受けていたから道具はそろっている。応急処置でくっ付けて救急車に乗っけた。その後で、門倉の組員がキチガイに診療所の敷地には絶対近づかないことを約束させたのよ。ミイちゃんはここの敷地から出ないし、トラウマから出られない。

キチガイ野郎は駅近の飲み屋街あたりでマガリチンの兄貴って呼ばれて、組のパシリをしているらしいよ。」
「ミイちゃんはレズッ気はあるけど、男が怖いっていう方が強いと思う。患者さんや患者でなくとも付き添いとか言ってミイちゃん目当てで来院する男の人がいる。モテるのよ。最近も息子の嫁にと言ってきたおじさんもいた。ミイちゃんの年を聞いて驚いて帰って行ったけどさ。ミイちゃんは私じゃなくても優しく抱いてくれる女なら誰でもいいんだと思うよ。特に、フラッシュバックが起きたときなんか、私の前は婦長さんと一緒に寝ていたこともあるし。」
「伯母さんは、レズだったのですか!」
「何言ってるの、大先生が大好きで、だからこの診療所からどこにも行かなかったのだと思うよ。いろんなところから誘いがあったらしいけど、二人の仲は皆知っていたもの。今は、若先生の女だけどさ…」「えっ、大先生と若先生てことは親子ですよねぇ、伯母さん二股ですか…」
「いろいろあってさぁ、若先生がこの診療所を引き継ぐとき、あんたの伯母さんを譲ってくれって大先生に条件つけたの、それで今は若先生の女。夜勤の日、帰ってこないでしょう昼まで、婦長さんは若先生の仮眠室で仲良ししてるよ。」
「うっそ~」
「あんたの伯母さんも、とっても苦労してきたのよ」

荷物を取りに伯母が借りた軽トラックで自宅マンションに来た。
マンションの入り口に立つと急に気分が悪くなり、体中に赤い発疹が出た。
「ダメ、入れない」
「分かった、伯母さんが代わりに行くから、車の中にいなさい」
車に戻った。寒気がして震えていると窓をたたく音がした。母がのぞき込んでいた。
「ルミカ、どっかで死んでしまったのかもと思っていたのよ。大丈夫?伯母さんは看護婦だから安心よねぇ。落ち着くまで、伯母さんのところにいなさい。お母さんも泥棒猫はいらない。」
口元だけ笑って、冷たく睨みつけている母の目。体が硬直してしまった。
「何してるの?あんた母親でしょ、そんな車の中を覗き込むような真似をしてないで、抱きしめてあげるんじゃないの?」と背後から荷物を抱えた伯母が静かな声で言った。
「あっ、ああ」と言いながら母がドアノブに手をかけた。ルミカは慌ててドアをロックした。
「この子、恥知らず、こんなに迷惑かけておいて、謝るどころか車の中に閉じこもって出てこないみたいね。バスタオル1枚巻いてうろついてお義父さんを誘惑する、色気づいちゃって、やましいことがあるから出てこられないんでしょ、母親の目を盗んでさ」
「あんた、昔から男なしでいられないよね。娘が邪魔になったんでしょ。子どものせいにしないで、正直に言いなさいよ。淫乱女」
「その言葉、あんたにそっくり返してやる。妾奉公の行かず後家のくせに。偉そうに。」
「ルミカは私が貰って行くから。ほら、どけなさいよ、引越し手伝う気もないくせに、邪魔、邪魔。」
・・・その日が最後、ルミカは二度と母と会うことはなかった。やがて夏休みも終わり、2学期から伯母の家の近くの学校に転校した。スマホは廃棄して、新しい電話番号とメールアドレスになった。

・・・・・

ルミカは封筒の住所を頼りにおじさんの会社のホームページを探した。ホームページを見ると、その会社は工作機械の精密部品を作っていた。伯母さんの家からは約2時間程、工業団地の中にあった。社員募集のページを見ると採用実績に近くの工業高等専門学校の名前があった。ルミカはそこを目指すことにして勉強を始めた。
事務のミイちゃんが受験勉強を手伝ってくれた。ミイちゃんは高校中退で年は40を過ぎているけど凄く判りやすく教えてくれる。勉強が楽しくなってきた。成績もどんどん良くなってきて担任は市内の公立進学校を勧めてくれたけどルミカの意思は変わらなかった。ミイちゃんの不得意な古文は長谷部さんが教えてくれる。そしてケイちゃんが夜食の用意をしてくれる。夜は3人でレズっこしながら寝る。伯母さんは若先生と楽しくやっているようだ。

ルミカは合格した。この学校は5年制だがルミカの精密機械工学科は全部で女子は6人しかいなかった。そのうち5人は女子寮、一人は通学だった。ルミカは入寮した。
時々、おじさんの会社の様子を見に出かけた。近所の人が散歩でもしているように前の通りを歩くだけだが…
あるとき本社ビルの入口に通りかかると、黒塗りの大きな車が横付けになった。運転席からすらりと背の高い美しい人、グレーのスーツ、プリーツスカート、イヤリングやネックレスが小さいのにチラッと光ってカッコイイ!!後ろのドアを開けて立っている。
おじさんは美女さんに軽く会釈して乗りこんだ。おじさんはやっぱりここの社長だ。とうとう発見! 胸が高鳴った。
それにつけても凄い美人が側にいるなんて…ルミカの気持ちは真っ暗。そんなことで諦める気にはなれない。でも勝てそうにない。

そんな気持ちのまま教官や何人かの男子学生に誘われてセックスしたが、おじさんのセックスとは比べ物にならない。皆せっかちで、乱暴で、ルミカが気持ちよくなる前に終わってしまう。
つまらないのだが、ルミカに近寄ってくるが男を拒むことはしなかった。
寮の先輩が心配して「あんたねぇ、男の子たちがサセコって言っているの知ってる。初めてこの寮に来た時、あんた言っていたわよね。好きな人がいます。その人の愛人になりたいと言ったよねぇ。私驚いたけど、感心したよ。そこまで思い込んでこの学校選ぶなんて、良い、悪いでなく凄いって思ったもの。でも、今のあなたがその人に選ばれると思う?」
「その人のことなんですけど、そばに凄い美人で、優秀って感じの人がいるってわかったんです。とても無理、歯が立たない、近づくこともできそうにありません。」
「いいじゃない、愛人その2になれるように頑張ってみなさいよ。ところでその人、本当に愛人かどうか確認したの?違うかもよ、例えば子供だったり、すでに他の人の奥さんだったりするかもね。」
「そうか」
「調べもしないで、今は、逃げ回っているだけでしょう」
「ああ、私、また現実から逃げている。そう、向き合わなくっちゃですよね」
「あんた、いろいろ大変だったのに、ここまで頑張ってきたんだもの。それでね、あんたの体から精液の男の臭いが時々する。嫌なの。あんたのせいでこんなになったのよ。だから、男はやめて私だけにしてね」と言って、優しくキスをしてくれた。ルミカもキスを返し、彼女のシャツのボタンをはずし始めた。

・・・・・

冴子は2年前にも本社工場を訪ねて、工場長に直談判した。その時も予想通り簡単に断られてしまい「お嬢さんたまには生産ラインでも見て帰りませんか」と言われた。
工場長も営業部長も赤ん坊のころからの私を知っている。誰も取締役企画室長なんて言わない、お嬢さんとか、総務の厚子さんなんか今でも冴子ちゃんと呼んでいる。
…実績がない、悔しい、入社以来大きなヒットが一つもない。だれも私を会社の戦力として期待していない…養子を迎えること、お母さまのように、役員の名刺を持ってあっちこっち顔を売って…工場長なんかは、昼休みに抱っこしていたらおもらしされちゃったなんて赤ん坊の時のこと、嬉しそうに話すのだ。…今日も、企画書(案)を携えて、協力をお願いに来たけれど…
「お嬢さん、ウチは超微細金属加工の部品メーカーですよ。完成品なんか作っても、どこに売るんですか、作れるかもわからん、開発予算もわからん、デザインも異質、第一女心の分かる奴なんてお嬢さんしかいないんです。話になりません。私も暇じゃない。まあ、せっかく来たんだから、たまには工場内を視察してくださいよ。新しい機械装置が入って、ライン変換もやりました。

みんなお嬢さんに期待してるんだから、お父さんみたいな優秀な技術者兼経営者を捕まえてきてくださいよ。この前みたいに直ぐ別れなくても良い人、私はあの方も家柄も、人としてもとってもいい方だと思っていたのですが、惜しかった。冴子お嬢さんみたいな美人で教養もあって、優しいお方はいませんよ。ウチのみんなの自慢ですよ、一緒に歩いていると若い男は皆、お嬢さんの方を振り向く、私まで晴れがましく、嬉しくなる。企画書なら婿取りの企画の方が千倍うれしい。社内にお嬢さんに相応しい奴がいたらなぁ。」
そんなうんざりする話を我慢しながら案内に従っていた。そのとき、見たことのない若い女工がラインに立っていることに気づいた。牛の涎のように続く工場長の話を逸らしたいこともあって、話題をその子に振った。
「あの人、若い女工さんねぇ、ほらメーターをチェックしている。居たっけ?」
「ああ、あの娘は3月末に採用したんですが、新卒採用試験に応募してきてねぇ、M高専からの応募で、ウチは新卒女子は採用していないと断ったら、パートでもいいから働かせてほしいと、高専からの応募者は貴重で断ると、回してもらえなくなることを危惧していたので…喜んでパートとして採用しました。そのかわり時給は他のパートの1.5倍。とにかく、優秀、めちゃくちゃ飲み込みがいい。さすが社長の母校M高専。若い男たちに見習えって言ってやっているんです。特例で正社員にとも思っているんですが、内規どおりならあの娘1人のためにロッカールームやトイレなどを作る必要があるとか、総務部の厚子がゴネて話が進まない。」
「彼女の履歴書ありますか?あの子と面談したい。3時ころまた来るからあの子の時間空けておいて。」
「お嬢さんの企画にあの子を巻き込むつもりですか…」

・・・・・

「発光ダイオード扱ったことある?ウェアラブル乾電池は?」
「発光ダイオードは扱いましたが、ウェアラブル乾電池はありません。極小バッテリをテープに埋め込んだことはあります。」
「それ何に使ったの」
「その時は学園祭で、LEDライトと一緒にテープに貼って暗幕を降ろした教室のあっちこっち貼ったり、吊るしたりしたんです。」
「なんで、そんなことしたの」
「主展示物が、暗いところでなくちゃダメなものだということで、すこしでもお客さんに注目してもらおうということで、いっそ異次元天体空間とか名前つけちゃって…すっごくお金かかった割に評判良くなかった。」
「それょ!ねえ、このデザイン、これを10分の1にして、アクセサリーとして販売したいと思っているの。あなた、毎日メーターとにらめっこしているより、こっちの方が楽しいと思わない?」
「うーん、楽しいですけど、売れるかなぁ、LED光って安っぽいし、量産するとみんな飽きちゃいますよ1~2年で」
「あなた、気に入ったわ!そうなの!そこよ!今は色数が少なく、照度も一定だから単純で直ぐ飽きちゃうかもしれないけど、当社の得意技、金属微細加工技術の職人芸で1つとして同じものがない、天然の宝石みたいなアクセサリーを開発したいのよ。ティアラ、イヤリング、ネックレス、ブローチ、腕輪、指輪、ヘアピンなんかも…パーティーに出かけて夜になって秘密のスイッチを入れたら、その人だけきらきら輝くの!ほかの女性は暗く沈むの。面白いでしょう。」
「原価だけで何百万円もかかりそうですね」
「安物なんて開発してもすぐ真似されるだけでつまらないでしょ。中東のお姫様とか、国際的に有名な女優さんとか、そんな人に使ってもらうのよ。当社は、今は無名だけれど、そのときは世界中の女が当社の名前を頭に刻み込むようになるのよ!だから、明日から、私の部下ね。開発室は工場と違ってトイレもロッカーも心配ないから、私のところでこの子を引き取ります。問題ないでしょう。工場長。」
「お嬢さん、じゃなかった、開発室長、こうゆうことはちゃんと筋を通してやらなくちゃ、もうウチも家内工業じゃないんですよ。私も優秀な若手を失うのだから、それなりに補充とかしてもらわんと…」
「じゃあ、一時異動と言うことで、とりあえず1週間、お願い、レンタルさせて。後のことは厚子さんと相談してみます。」
・・・冴子はその時、チビで色黒でどこか憎めないこの女、実はとんでもない爆弾を抱え込んだとは夢にも思わなかった。ただただ、新規事業の突破口ができたと有頂天になっていた。・・・

本社工場と開発室のある本社別館とは約2キロ離れている。本館と別館は道路向かいにあたる。

翌朝、ルミカが開発室のドアをたたくと冴子取締役ひとりしかいない。開発室には決まった部下は1人もいないのだった。早速、二人は庶務の厚子のところへ今後について話を詰めに向かった。

工場長となつかしいおじさんの大きな声が聞こえ、気配を背後に感じた。そのとき、
「ザキミちゃん!ザキミちゃんだね」とおじさんの声がした。
「社長、紹介します。この娘は下山ルミカさんといいます。今はパートで組立ラインにいますけど、勿体ないほど優秀で…」と冴子が言いかけた。
「いや、この娘はザキミちゃんです。下山ナニガシっていうのは詐称ですね。懲戒に当たります。工場長にも責任がありますよ。スパイかもしれない。後で…来客が帰ったら社長室に連れてきなさい。直接尋問します。」と言って、去っていった。

「いやぁ、先月位かなぁ工場の前を通りかかるとザキミちゃんがウチの作業衣を着て門から出てきたので驚いたんですよ。それから暫く様子を見ていたけど、君から何のアクションもないから。久しぶりですね。探していたんですよ、すっかり大人なって。今、会社の近くのアパートで独り暮らししているようですねぇ。」

「あのとき嘘の名前を使ったことはお詫びします。ごめんなさい。本名言えませんでした。あの後ずっと、おじさんの側に行きたい思って調べました。そうしたらこの会社の社長だって知って、だから、おじさんの役に立つ人間になって少しでも恩返ししたいと思って高専に行って勉強したり、でも女は採用しないって面接も受けさせてくれなくて、仕方ないのでパートに応募しました。」

「年齢も、詐称していましたね。あのころ未だ中学生だったようですね。どうしましょうねぇ、これから…」

「すみません、できることなら、首にしないでください。このまま、いままで通り働かせてください。本当の年を言ったら、バージン貰ってもらえないかもって、サバ読みました…ごめんなさい。」

「そうはいきません。もう、我々は社内の噂の渦に落ちました。そうですねぇ、あなたは私の抱えた爆弾のようなものだから傍に置いておかなくては安心できません。とりあえず今日付で総務部の庶務係に異動して社長室の受付をやってもらおうか。冴子の部署も兼務と言うことで…」

「えっー、嬉しい、頑張ります。何でもします。よろしくお願いします。」

「それから今週の土日、何か用事ありますか、もしなければ久しぶりに私の隠れ家にご一緒しませんか?」

「嬉しいです。なんでもします。それから今日も、用事はないです。」

「今日は残念ながら、所用でね、しかし冴子室長が、君への尋問の時間をたっぷりとっているようだよ」といっておじさんは笑った。