物語 奥の院拝み堂の床下  姫巫女 菊里さんの悦び その1

…これはフィクションです。どこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い…

4,5年前「ねぇ、高野、私子ども欲しいんだけど、高野はキクちゃんに協力してくれないかなぁ」と誘惑したことがあった。

彼は血相を変えて「俺なんか…太刀打ちできる相手じゃねえ。夜叉姫様に八つ裂きにされちまう。お嬢さんが姫巫女様だ。触れることもできません。まして…俺、昔から「キクちゃんの番犬」だし、番犬がご主人様と…八犬伝の伏姫と八房じゃないよ、無理です。」と言って泣いた。

別に、本当の犬じゃないのに、お前は人間だろ!とも思ったが、確かなことは菊里が高野に振られたということ。で、その時以来、高野はキクちゃんだったのに、お嬢さんに呼び名を変えてしまったのだ。

奥の院拝み堂の夜叉姫に取り憑つかれていると、幼馴染で何でも言うことを聞くはずの高野でさえ怯えるようでは、誰も私と結婚しようとは思わないな。

高野遵とは同じ年で、彼の父親が菊里の父が経営する磯貝工務店の出入り大工だったことから、一緒に遊び、小学校から中学まで(各学年2、3クラスだったが)ズーっと同じクラス。菊里より成績も良くて、分からないところは高野に教わっていた。

工務店のプレカット工場の隅で柱や板などの端財を使って犬小屋(犬は飼っていない)や鳥小屋(鳥は苦手)を一緒に作ったり、高野は機関車や飛行機なども作るなどした。キクちゃん、高野と呼び合い、作業場の職人達と仲良く昼飯を食べたりしていた。
彼は昔から「キクちゃんの番犬」と陰口をたたかれ、菊里の言うことはなんでも聞く、喜んでパシリする、菊里に嫌がらせをする奴らには必ず復讐に来ると思われており、実際その通りだった。

そんな高野が中学3年の秋、突然、高校進学を拒否し、親や担任ともめにもめた末。磯貝工務店に就職した。父親が大怪我で働けなくなったからか、菊里と離れたくなかったからか、彼の言う一流の宮大工を目指したためかは分からない。突然事務所に現れ、菊里の父、磯貝社長に向かって「おっちゃん、俺はここに就職することに決めたからな。四月からよろしく。」と言って、走って帰ったのだった。

それから15年、すっかり父の右腕となり、今じゃ工務店の3つの組のひとつ、高野組の組長だ。菊里さんも父の会社で、住宅の設計、施工を行い、その傍ら周辺地域の寺社の維持管理者として働いている。中でも県重要無形文化財である善卓寺奥の院拝み堂は代々磯貝家が維持管理に努めてきた。誇りだ。

高野は若いが、組長として、腕利きの宮大工として、彼女の仕事を支えてくれている。バーやスナック、居酒屋の女達にももてるようで、特に小料理屋「出雲」の女将は高野の筆おろしをしたとか、余りの巨根で痛かったなどと自慢・吹聴しているし、他にも何人も関係をもったようで、中には菊里との関係に探りを入れてくる女もいた。でも高野は特定の女はいないようだった。だから、菊里が子どもを欲しいと言えば、喜んで尻尾を振って襲ってくるだろうと思い込んでいた。
しかし…


あれは中三の夏の祭祀、深夜、あの時、やっぱり高野が拝み堂の秘儀を覗いていたのだと確信した。菊里を会計司様が後ろから激しく攻め、出血し飛び散っていたとき、両手で総代と副住職の男をしっかり握ってしごきながら「えーえー、いい!いい!もっと、もっと攻めて!」と幼さの残る声で必死に叱咤していたとき、ふと見上げた格子窓の僅かな隙間に目があった。その目、あれはやっぱり高野の目だったのだ。にこっと笑って返したけど、直ぐに消えたあの日のあの目。

拝み堂の祭礼は、前日の滝行から始まり、祭りの当日、秘仏の御開帳、夕刻には真言と奉納舞を参拝者に披露している。参拝者が去り、拝み堂が闇に包まれる頃から秘儀が始まり、外が白みかかるころまで、秘仏の前で執り行う。
供儀の重三役が交代で秘仏の前に座り、般若心経と真言(オン・シラバッタ・ニリウン・ソワカ、オン・キリカク・ソワカ)を唱え、一人は背後から姫巫女の菊里を抱き留め、乳を揉み、口吸いし、一人は姫巫女の菊里の双丘奥のサネを舐めて聖水(尿)を飲み、交合し、精液を巫女の体に振りかける。姫巫女は両手で自身の体にそれを塗り込むのだ。供儀たちは乳揉みと口吸い、読経、性交・射精を順番に執り行うとやがて姫巫女の双丘の奥から血が飛び散って床布を赤く染める。
夜叉姫の依り代である菊里は痛みを忘れて、ひたすら重役たちの陽茎を双丘奥の秘部に導き、交尾し、歓喜を夜叉姫様に捧げる。

菊里は奥の院拝み堂の建物の維持管理者でありながら、奥の院拝み堂の本尊、秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)の依り代となり、昔、この街の安寧と繁栄のために人柱となった足軽弥平の娘キヌ様と遊女ヤエ様の霊を慰める。年に3回、重三役を供儀として奉納舞と秘儀仕切る姫巫女を続けている。中学2年生の13歳からもう16年間になる。

祭礼との出会いは、中学1年生の春。拝み堂を守ることは磯貝家の大切な伝統のはずが、何故か父も母も、祭礼の日は忙しいと言って、一度も連れて行ってくれなかった。だからズーっと気になっていた。その日、一人自転車に乗って姫巫女の舞を見に行き、美しさに引き込まれ、姫巫女の千代子さんと目が合ってその場で弟子入りし、毎週稽古に通った。所作・礼儀作法、滝行や経文・読経、舞仕草の意味、独特の滑るような歩き方など優しく丁寧に教えてくれた。春の祭礼で、二人舞を披露することを目標に、千代子さんの道場に泊まり込みで稽古をし、夜は千代子さんから女の悦びを教えられ、男の模型を互いに挿入しあい、陽根を咥えた時の扱いかた、男の欲情を刺激する声の出し方などもしっかり学んで、当日に臨んだ。

当日、引き合わせされた重役様三方は顔見知りのおじさんんたちだった。
お千代さんと二人舞を終え、読経が始まるとすぐに夜叉姫様が降りてこられた。秘儀では快感はなくて、出血もしたが、痛いとか苦しいとか感じなかったし、大過なく務めることができたとお千代さんに褒められた。

夜叉姫様が菊里の体を通じて交合の悦びを感じていることも伝わってきて、幸せな気持ちになった。そして姫巫女の位をお千代さんから引き継ぎ、修練を重ね、今がある。

拝み堂に行くには善卓寺の池の脇の坂を10分ほど登る。祭礼の日を除くと殆ど人気のない道だが、菊里さんには通いなれた道だ。
善卓寺奥の院拝み堂は前庭を含め周囲を高さ2メートルほどの漆喰の塀に囲われており幅四間(3.6m)の棟門(むねもん)からお堂まで20mほどが広場になっている。門扉は今、壊れているため開けっ放しだが、その代わり入り口には高さ60センチくらいの鉄格子柵が置かれて、立ち入り禁止の札が立っている。

その普段は人気のないはずの拝み堂に、その日は珍しいことに先客がいた。
若い男性で学生のよう、首からカメラをぶら下げ、入り口の鉄格子にへばりつく様にしゃがんで一心にお堂のスケッチをしている。

菊里さんは何気なく、そのスケッチを覗きこむ。緻密で、細かい部分もしっかりと書き込まれている。
そのスケッチを見つめていると、いつもの職人たちの加齢臭や酸っぱい汗臭さとは別の若い男の匂いが鼻をかすめ、思わずクンクンと吸い込んでしまった。
その時、若者も大きく鼻で胸いっぱいに息を吸って、チラリと菊里さんを見て、顔を赤らめ、下を向いたのだ。

小声で耳元に「お上手ね」と伝えると、「えっ!」青年は飛び上がるほど驚いて、菊里さんを見返り、口を開けたまま声が出ません。

「ただ…ここの梁と柱の組方はちょっと違うかな。こっちは抜けない押しつぶされない木組みで、華奢に見えるけど、強風や地震、大雪でも、一度も倒れることなく三百年以上も持ちこたえている。」
「すごい、どうしてそんな細かいところまで知っているんですか」
「それは、このお堂を先祖が立てて、代々守り伝えてきたからよ。今は私が棟梁代理。」
「すごい、女棟梁ですか…ここからは遠すぎて細かなところがわからないです。立ち入り禁止なので、カメラの望遠機能で細かいところを見て書きこんでいたんです。」
「あなた、学生さんですか」
「はい、F大学の建築科3年生です。学生証持っています。見せますか。古建築物に興味があって、休みを利用してあっちこっち出かけています。」
「あら、F大なら後輩ね。大崎先生はお元気ですか。」
「大崎先生の授業は受けたことないのでわからないけど…」
「F大では古建築の講座は組まれていないけど、先生の講義だけ日本と北欧の木造古建築について触れているはず、少なくとも私の時はそうだったわ。どうしてF大?」
「受かったのがF大だけで、大学のことあまり知らなかったから、古い建物について教えているかどうかは考えたことありませんでした。そうか、来年は大崎教授の講義とってみようかなぁ」

「では、この素晴らしいスケッチに応えて、特別内覧させてあげる。本当は部外者立ち入り禁止だけどね。今日は、私の臨時アシスタントと言うことで、ああ内部の撮影、スケッチはだめよ。その代わり、修理箇所を指摘するから、そのスケッチブックに書き留めてくれる?」
「有難うございます。やります。是非」二人は、棟門の柵を開いて堂内に入った。
「庭には草木がありませんねぇ」
「年に二回、除草剤を撒いているの。人手がなくって、騎龍瀬織津媛様には本当に申し訳ないんだけど…」

「拝み堂の本堂の内部には柱が一本もありません。奥の祭壇、須弥壇と言うけど、そこに天井に届く大きな仏壇があるでしょう、その中にご本尊様が置かれています。普段その扉は閉まっている。天井はいわゆる唐笠天井で中心の丸い木組みから和傘のようにたくさんの骨組みが周囲の大壁にむけて放射して、屋根を支えている。」
「お堂の祭礼では舞が奉納されます。堂内は舞を妨げないように柱を立てない造りです。最初から奉納舞をするための建物として作られている。実は、その舞も私が奉納している。建物も祭礼も両方ワタシ。ホント、人手不足。」
菊里さんが天井の骨組みの1本を指さして「これは私が作ったの、高1の時だった。父に鎗鉋かけを褒められてね・・・」などと、一心に説明をしているが、学生さんは菊里さんの顔に見とれて上の空でした。

ふいに「そういえば名前聞いていなかったわね。教えて」
「今泉堅哉(タツヤ)と言います。先輩…棟梁のお名前は?」
「棟梁は私の父よ、私は棟梁代理の磯貝菊里(キクリ)よ。棟梁は私の何倍も知っているわ。会って話を聞いてみる?」

堂内は薄暗く二人は顔を見合わせる。菊里は、青年が自分に欲情していることに気づいた。そして、自分も…青年の放つ男の匂いに少し酔っている。体が若者に引き寄せられていく。…10歳くらいも年下の男が自分を求めてくれている…お堂の中に若い男の匂いが満ちてきている。菊里さんの心臓が高鳴る。

そんな気持ちを振り払うように、彼の視線をそらし「ちゃんとメモしてね」と早口で補修箇所を指さし指摘していった。

「お腹も空いてきたでしょう。一緒にお食事でもいかがですか」
堅哉は「すみません、つい、すみませんでした」と訳の分からないことを口走りながら何度も頷いた。

・・・・・

「そうか、F大か、菊里の後輩だな。建築か、そりゃあいい。で、何で古い建物に興味もつたの?」父は上機嫌だった。
「お世話になっていた先生が僕たちを民家園とか古い寺や神社に連れて行ってくれて、色々説明してくれたりして、自然と興味を持ったのかなと思います」
「うんうん、その先生は良い先生だな。小学校の先生とか?」
「お父さん、そんなプライベートなこと、失礼よ」
「あっ、構わないですよ、棟梁にはたくさん教えてもらったので、僕、ひまわり園という児童養護施設にいたので、そこの理事長先生が寺社や古民家の見学に連れて出してくれました。今、棟梁のお話聞いていて、卒業制作は古社寺の木組み雛形を制作しようかと…」
「えっ、親はどうした。」
「母子家庭だったけど、母の再婚相手と上手く行かなくて、母がイスラムになっちゃって、今は全く連絡なくてイランだかイラクだかそんなところに引っ越したらしいです。」
「そうか、身寄りはないのだな。実はな、俺は児童民生委員をやっていて、今、自宅に女の子を預かっているんだが、高校中退してね、復学したいと言っているんだ。それで施設に預かってもらうべきか児童相談所とも話し合っているが迷っている。君の意見を聞かせてほしい。」
「そうですねぇ、できたら棟梁や奥さん、菊里先輩のような方が里親として支えてくれる方が施設よりずーっとましだと思います。年長の子は馴染むのが大変だし」
「編入試験とかあるらしいから、試験勉強も見てやらなくちゃなんねえ。お前さんまだ現役だから勉強みてやれねぇか。」
「お父さん、そんな言い方、そんなこと、いきなり失礼でしょ」と母。
「そうよ、さっき会ったばかりの人に…遠くて無理でしょう。」と菊里。
「いや、僕、週一なら来れます。ただ、交通費と飯代くらいは欲しいです…」
「よし、昼と晩の飯を付けよう。1回5千円でどうだ」と棟梁が請け負った。
今泉堅哉は毎週土曜日の昼前に来るようになり、菊里は古建築や木の種類と特性、大工道具の使い方を教えた。かれは学業の合間、磯貝工務店の建材プレカット工場を手伝ったり、菊里さんの部屋で曾屋魅寿紀(そやみずき)という少女の勉強を見、社長宅に泊めてもらい日曜日の夕方、F大近くのアパートへ戻っていくようになった。そんな日がひと月ほど過ぎて。磯貝社長が堅哉と菊里を呼び、ご馳走をしてくれることになった。

「堅哉君、菊里もここからF大に通っていた。通えない距離じゃない。引っ越してきてはどうか。離れの一間空いている。アパート代が浮くしよ、なっ、卒業制作だって学校より、うちの作業場を使わせてやるし、寺に掛け合えば拝み堂をモデルにできるぞ。俺も菊里も付いているから捗るし、質の高いものになるぞ。魅寿紀ちゃんの受験準備も熱心に取り組んでくれて、最近あの子の顔つきが変わってきた。実はなあ、菊里が男を連れてきたのはオメェが初めてなんだ、菊里は気に入ったんだよ。俺はうれしかった、その上、建築勉強していて、古い建物が好きで…身寄りもねえんだ。願ったり叶ったりだ。このひと月様子を見て、俺も気に入った。ほら、結構美人で色気もあって、お前さんよりちょっと年食っているが、稼ぎもある。いっそこの家に住み込んで…」

「お父さん、怒るよ、勝手言わないで、」と菊里が大きな声を出すと堅哉は急に手をついて「お願いします」と頭を下げた。
「アパート代が払えてないんです。3か月分溜まって、不動産屋には出てゆくように言われました。学費以外の出費が予想したよりすごく大きくて、奨学金やバイト代では賄いきれなくて、ひまわり園にも相談して学資ローンを組んだけどもう限界なんです。ここに来ているときだけ、ちょっと幸せというかホッとしているというか、不安を忘れる…菊里先輩と何とかなんてとんでもないけど…僕を卒業させてください。卒業したら必ず恩返ししますから」と言って涙をポトポトと落した。交通費の節約のため、週末帰郷する同級生の車に同乗してこの街に落としてもらっていることも告白した。

社長が公園で拾ってきた女の子、曾屋魅寿紀(そやみずき)は17歳。親からの虐待が切っ掛けで家出を繰り返し、高校も無断欠席で退学、公園のトイレに寝泊まりをしていた。社長は児童・民生委員だった経緯から、虐待を受けて逃げ出したときの避難場所に自宅の離れを提供し、保護するなど警察や児童相談所と連携して面倒を見ていた。出歩くと義父に拉致される恐れがあり、作業場で下働きをしたり、建築現場に自転車で出食事を届けるなどの「バイト」をさせ、菊里も母とともに彼女が自立できるよう、日常生活の挨拶やマナー、調理、洗濯、部屋の片づけなど一緒に暮らす中で教え、慕われ、菊ねェと呼ばれていた。しかし、高校の編入試験となると勝手が違った。

引っ越してきた堅哉は菊里の隣室をあてがわれた。互いを仕切る壁は襖に手を加えたもので薄い。

ほぼ毎日約1時間、魅寿紀の部屋に行って勉強を見、菊里は二人に夜食や飲み物を提供した。魅寿紀は堅哉が自分のために(も)引っ越をしてまで教えてくれていると好意を見せるようになった。

堅哉は学力の偏りや近隣の学校では公園暮らしの時を知っている人いることから、すこし離れた地域の単位制の高校への編入することを彼女に勧めた。運転免許を持たない堅哉に代わり、磯貝工務店 高野組組長、高野が幾つかの学校訪問に同行した。さらに高野が関わっている子ども太鼓蓮や子供会のバーベキューに連れ出して人の交流範囲を広げていった。

「俺は、中卒で就職したけど、お前は高校生になって、立派に卒業しろよ」と励ました。魅寿紀は彼を「組長」と呼ぶようになった。ちなみに堅哉は「先生」だ。魅寿紀の成績は急速に良くなり無事、編入試験に合格し、高校生となった。

・・・・・

夏、奥の院拝み堂の祭りを控えて、お堂の縁側と一体化した舞台が前庭にでき、本堂脇から拝み堂への道の整備を進めるなど、社員たちが汗を流す。堅哉もその中にいた。

菊里が善卓寺本堂を借りて、奉納舞のおさらいをしていると、近所の人たちが前庭に集まってくる。その中にも堅哉の姿があった。

祭り当日は秘仏の公開が行われ、須弥壇の仏壇は手向けの白百合でいっぱいになった。
奉納舞は夕方4時から始まる。昔は楽師が奏でた舞楽だが、今はラジカセだ。舞台の南北西に重役が座る中、東(青龍)たる堂奥から金銀の組みひもで髪を後ろにまとめた菊里が滝行で使う白衣(行衣 ぎょうえ)に緋袴の姿で、ゆっくりと滑るように舞台中央に出てゆく。右手に鈴をもちサラサラと鳴らし続けながら、静かに回り続ける。左手には介添えの重三役が白扇、般若面、小面を差し出す。それを次々と取り上げて、観衆に示すしぐさをし、介添え役に戻す。その繰り返しなのだが、観衆は見とれて声も出ない。

舞は一時間ほどで終わり、読経と真言が響く中、菊里は奥、須弥壇の裏手へと去って行く。日が傾き始める中、観衆は引き、社長や堅哉、高野が外付けの舞台を手早く解体し、庭を掃除し、門は閉ざされた。菊里と重役3人の秘儀が始まる。

翌夕刻、拝み堂での秘儀を務め、戻ってきた菊里には、祭祀をやり遂げたいつもの高揚感がなく、感じたことのない疲労で、そのまま3日間寝込んでしまった。

引っ越してきた堅哉(タツヤ)の部屋と菊里の部屋の薄い壁からはお互いの微かな物音が聞こえてしまう。祭祀を終えてからは神経が研ぎ澄まされ、深夜、隣のかすかな気配を感じて浅い眠りから目覚め、心臓が高鳴り、もう寝付けない。菊里は堅哉が忍んでくることを妄想して、さねの火照りを指で慰めた。
そんな日が1週間ほど続いて、思い立って、真夜中に軽トラックで拝み堂に向かい、お堂の裏手にある小さな滝に打たれて、心と体を鎮め、ようやく寝付く日が続いた。
満月に近いある夜、いつものように小走りに奥の院に向かい、拝み堂で滝行衣に着替え、獣道を通り滝つぼの池に足を入れた。冷たい感触にホッとして、それから行衣を脱ぎ、岸辺の岩の上に畳み置き、池の中ほどに進み手桶で水を汲んでは体にかけていると、背後に人の気配を感じた。振り向いて、岸辺に黒く人影を認め、「キャ!」と叫んだが、影は固まったままだった。菊里は堅哉だと確信した。
「堅哉君?堅哉君でしょ、付けてきたのね。そんなところにいないで、もっとこっちに、近くに来なさい」。
堅哉は「はい」と答えて滝つぼの池の畔に来た。
「いけない子ねぇ、こっそり覗いていたのね。この責任取りなさいよ。さあ一緒に滝行して心身を鎮めましょう」と言いながら胸と下腹部を手で隠し岸辺に近づいた。
笑顔を作って「ほら、あなたも裸になって、私だけなんてずるいわ。さあ脱いで、脱いで」といってズボンを脱がせ、パンツに手をかけた。菊里はさりげなく手の甲で若い男の陽根に触れた。上を向いて固く起立した陽根は初めてだった。そのうえ、重三役より、お千代さんの模型よりも明らかに長い。

平静を装い彼の手を引いて滝口に導いた。
「じゃあ堅哉君も一緒に滝行なさい。私をまねて、合掌して…」
堅哉は直立した陽柱を手で覆いながら滝の下に向かった。しかし、滝に打たれて、1分もしないうちに、様子がおかしくなり、倒れかかった。
「堅哉君、早く上がろう、急いで!」と菊里が叫んで手を引いた。

岸にたどり着いて冷え切った堅哉を抱き留め「ごめんね、ごめんね」と言い、濡れ髪を滝行衣でなで拭き、体を密着させ、紫色の唇を吸った。冷え切って縮んでしまったペニスを握り、温め。「ごめんね、ごめんね」と耳元で囁いた。
やがて堅哉の震えが収まり、血の気が戻って、ペニスが硬くなると菊里は手早く中に導いたが、双丘の奥のさねに射精してしまった。菊里は重ねた唇のまま「大丈夫、大丈夫」と言い陽柱を優しくなでていると再び固くなった陽根が菊里に押し入ってきた。「そこ、そこ、そのまま押して」囁いた。
菊里の体の中に迷わずするりと入り、すぐに射精した。初めてじゃなかった、女の体をよく知っている。驚きと、手ほどきをした女の存在を感じ、すこしの嫉妬と、安堵感が交錯した。

「ごめん」
「ううん、私よ、私が望んだの、ずーっとあなたが欲しかった。」
岩の上に置いてあった晒し布の滝行衣を差し出して「ほら、拭かせてあげる。丁寧に隅々まで水を取るのよ。おっぱいも、下の割れ目も。軽くポンポンと押すように、手で触ってもいいのよ、胸も下も…」
堅哉は「は、はい」と何度も頷いて、丁寧に水を取って、乳房、下腹部に触れ、太ももを流れ落ちる自分の精を指で確かめている。
菊里も彼の体、とりわけ陽根、袋、その周りを丁寧に拭いた。彼のペニスは再び固く、長く上を向いた。「これぞ、陽根!」と心でつぶやいた。
二人は裸のまま手をつないで奥の院拝み堂の裏木戸に向かった。
真っ暗な堂内を手探りで入って行き、菊里がランタンを灯した。
奥から敷き布を出してきて、須弥壇の前に敷き、寒いでしょう。これを着て」と新しい滝行衣を取り出して堅哉に掛け「座布団がないから敷布に座りましょう」と促した。待ちきれない彼は、菊里を抱きしめ押し倒してきた。
「待って!ダメ!ちゃんと座って!」と抵抗した。

堅哉は菊里に馬乗りになり肩を抑えた。
「お嬢さん、初めて会った日、白百合の強い匂いがして…百合の化身かと思いました。眩しくって、艶めかしくって、抱きしめたい衝動を抑えるのに必死でした。今、滝壺で受け入れてくれた。僕は我慢できない。もっともっと…お嬢さん」と堅哉の呼気が菊里の唇にかかる。
「離して、ここは夜叉神様のお住まい、お祀りのところよ。私も堅哉君に初めて会った時から、惹かれた、好き、いくらでも好きにしていいけど、でも、ここではだめ、落ち着いて話を聞いて。」といって、堅哉が手を緩めた隙に体を起こし、須弥壇の仏壇に向けて手を合わせ「堅哉君も一緒に拝んで」と言った。

「以前も説明しましたが、ここ奥の院拝み堂のご本尊は、秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)で、私はその依り代、巫女です。それからこの床下には愛する人と結ばれることなく人柱となった悲しい女性二柱の骨が再納されている。お堂全体が二柱の供養塔、お墓でもある。というか、お二人の供養のために騎龍瀬織津媛の命が建立されました。お顔正面は観音菩薩様、左手には足軽弥平の娘女キヌ様、右手には遊女ヤエ様の顔の写しが彫り込まれており、三位一体のお姿を夜叉姫様とも言います。一般に騎龍観音様は龍の上に座っていたり、立っていたりしているけど、拝み堂のご本尊は龍が腰に巻き付き、交合しているとか一体となって当地を守ることを表しているとか言われています。」
「この奥の院で男と女が一つになると、女は夜叉姫様が憑依した巫女に、男はその巫女に仕える供犠つまり夜叉姫様への捧げものの生贄になる。堅哉君も一生、私から離れられなくなって、私の舞を支え、秘儀に励み、悦楽を夜叉姫様に捧げることになる。私、分かる。すでにあなたは気に入られている。堅哉君はまだ若いし、これからたくさんの素敵な女性と出会うはず。だから、ここで滝つぼの続きをしてはいけない。帰ってからね、君の人生を縛りたくないの」

「僕は、菊里先輩となら地獄でも喜んで付いてゆく。だから秘儀も、舞の支えにも僕がなりたい…先輩があの爺さんたちと秘儀をやるなんて、気が狂いそうです。初めて会ったあの時から、ずーと好きだった。引っ越して、隣同士になって、微かな気配が伝わってくると胸が苦しく切なくなって、眠れませんでした。」

「私、夜叉姫様の依り代だよ、あなたも巻き添えになるのよ。覚悟できているの?」堅哉はしっかりと頷いた。

二人は本尊、騎龍瀬織津媛に手を合わせた。
「堅哉君、これから騎龍瀬織津媛様の秘儀を行うけど、この秘儀を共にしたら後へは引けないよ。ほんとうにいいのね。今ならまだ…」
「出会ったのがこの拝み堂。運命。菊里さんと一緒なら生贄だって喜んで引き受けます。これ僕の望みです。」と答えた。

「始めます」と言って菊里が読経し、隣で堅哉は手を合わせた。
菊里は姫巫女になった。
読経を終えて立ち上がり、堅哉に向かって白衣の前を開き陰部を堅哉に押し付け「吸え」と言った。堅哉は菊里の太ももを掴んで舌を使って双丘を分け入り、滴る尿を聖水として飲む。菊里は堅哉の顔を太ももで押さえて、そのまま床に押し倒して、陰部を口元に押し付けて腰を振った。

「夜叉姫様が後ろから入れよと申されている。尻穴の下に…指で確かめて、堅哉の精が流れ出ている…そこそこ!あっ、入った、いい、いい、ゆっくり、ゆつくり、夜叉姫様にも伝わるように…出して、出して、違う、外さないで、中に出して…ゆっくり、あっっ気持ちいい…」
堅哉は暗い堂内でも、菊里の説明はいらないほど手慣れて、迷わず膣に挿入してきた。彼の長い陽根を咥え込んだまま、前に後ろに横に体位を変えながら堅哉を射精に導いた。
「堅哉君、とても上手ね。男と女の事、良い人に教わったね。」
「卒園前に、園の先生が変な女に騙されないようにと言って教えてくれました。」
「でも、10箇も年上のおばさんに捕まっちゃったね。私は、その方に感謝だわ、夜叉姫様もお前様のこと大層気に入られたようで、温かい御心が私の中に広がってくるの。今後の秘儀のこと、お前様と執り行いたいが、覚悟はよいですか。」
「はい」
「ならば、私からあふれ出ている、お前様の精を拭き取りなさい」と須弥壇の方に顔を向け、ティッシュボックスを示した。あらかじめ菊里が置いておいたのだ。菊里の太ももを伝う桃色の精を拭き取りながら「お嬢さん、血が!」と小さく叫んだ。
「お嬢さんではなく、姫巫女と言え」と言って、にっこり笑い、出血については答えず、彼の顔をギュッと抱きしめた。

お堂の格子窓の隙間から明かりがさし、外はすっかり明るくなっていることに気づき、二人は我に返った。