物語 奥の院拝み堂  姫巫女 菊里さんの悦び その2

これはフィクションです。あなたがどこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い。

・・・・・・・・・・・・
格子窓の隙間から明かりがさしてきて、もう奥の院拝み堂の秘儀を終えなくてはなりません。でも今泉堅哉は菊里さんと離れるのが嫌です。彼女の繁みの奥から溢れ出てくる精を拭きとったばかりなのに、彼の長い陽根はすぐに固くなって、心臓の鼓動も激しくなって、喉はカラカラで声が出ません。
菊里さんの目を見詰めても、優しく微笑んでてるだけで心が読めません。
菊里さんは小ぶりな乳房を彼に吸わせながら、傷ついてヒリヒリするはち切れそうな陽根を右掌で撫でています。
彼女の陰毛は彼の精がべったりと貼りつき、双丘のさねの下からティシュで拭き取っても、拭き取っても血交じりの体液が溢れてきます。堅哉がそこに、陽根を押し込もうと体位をかえると、ふいに…

「あの時、作業服姿で日焼け止めなしのスッピンだったのに」と菊里さんが呟きました。
「えっ、あの時…そうでしたか、お嬢さんが何を着ていたのかは心臓がバクバクいって、見とれてしまい覚えていないけど。」
「堅哉君、セックス、本当に、上手よ。優しくゆったりと入ってきて、私の体がとろけてくると、激しくする…すごい快感で震える。ひまわり園の敦子先生ってどんな先生だったの?きっとあなたのこと、深く愛していたのよ、あなただって…」
「先生とは施設の自立支援室で大学合格のお祝だって…それからは入学手続きやアパートの引っ越しとか一緒に出掛けて…でも卒園してからは、旦那さんの佐々木先生が僕に対応してくれるようになって…それからは、二人だけでは会えなくなって…」
「ふーん、私は先代の姫巫女様、お千代様に手ほどきをいただいて、女になった。13歳だった。古くから伝わる男の模型を使って、初めての秘儀の時、本物はどれも模型よりずっと小さかったから怖くはなかった。今、堅哉君と結ばれて、本当のセックスを知った気がする。堅哉君、大きい。いつまでも触れていたい、触れているだけで気持ちよくなる。あなたの子どもが産みたい。迷惑かけない。さあ、もう帰らなくっちゃ」と言い、自ら体を引いて堅哉の陽根を抜きました。陽根は元気にプルンと振るえました。

菊里は父に電話しました。
「おとうさん、私、今拝み堂、堅哉君と一緒よ、これから戻ります。」
「馬鹿野郎!朝っぱらから心配かけやがって、それで上手いこと咥え込めたか」
「お父さん、隣に堅哉君がいるの、そんな言い方しないで。」
「じゃあ、堅哉を出せ」

「堅哉です」
「どうだった、菊里とのセックスは、ちゃんと子種を仕込めたか」
「うー、はい」

「ちよっとお父さん、堅哉君に何を言わせるの。心配しないで沢山もらったから。うん、ご本尊様にもご報告できた。詳しくは戻ってから話すね、お腹すいちゃった。お母さんによろしく」

自宅に戻ると父の姿はなかった。
「今日はふたりとも疲れたろうから仕事は休みなさいと言って出て行ったわよ。」と母が言いました。

・・・・・

拝み堂から朝帰りしてきた菊里と堅哉は、午後の3時を過ぎても起きてきませんでした。
母は心配になり菊里の部屋を覗きます。二人は全裸で狭いベッドに絡み合ったまま寝ています。
堅哉は菊里を横抱きにし、背後から左の乳房を掴み、菊里は左足を堅哉の膝にのせて股を開き、その茂みの奥には黒くて長い陽根が収まっています。
母の気配に目を開けた菊里は、堅哉の顔を引き寄せキスをしました。堅哉は差し込んだ陽根をゆっくりと動かし始めましたが、菊里の母に気づき飛び起きました。「おはようございます」裸で正座して頭を下げます。
菊里が落ち着いた声で「お腹すいちゃった」と言うと母は一言もなく慌てて部屋を出てゆきました。

丁度現場から父が帰ってきました。妻の様子から、ただ事ならぬ何かを感じて、入れ替わりに部屋に入ってきました。
「おっ、子づくり中か」と言いドカッと座り込んだ。「ほら、菊里、起きろ、お前ら、座れ。」と言いました。
 二人は、ノロノロとシャツとパンツをはいて、父の前に正座した。
「堅哉君よお、おめえ、立派なマラしてんなあ。」
「おとうさん、どこ見てんの」と菊里は顔を赤らめた。
「俺はなア、こいつが行かず後家になるとを覚悟していた。なんせ、騎龍瀬織津媛の命(キリュウセオリツヒメノミコト)が憑依して姫巫女になっちまう。普通じゃないからな、男はみんな気味悪がって逃げ出すんだ。幼馴染の高野も腰が引けてよ。
堅哉君よ、菊里が跡取りを産んでくれたら嬉しい。堅哉君が結婚してくれたらもっと嬉しい。だがな、無理はしなくていい、君は若いし、他にいい女が出来たら、素直に言ってくれ、潔く身を引かせるから。子どもができても心配するな。俺たちが付いている。とにかく今はおめえの若い活きのいい子種を沢山仕込んでくれ。夜叉姫様にも喜んでもらったそうじゃねぇか、めでたい。ウナギのかば焼きを買ってきたから、これで精力つけろ、邪魔したな。」と上機嫌で立ち上がりました。

父の公認もあってか、母が部屋に入ってきても、絡み合ったまま「あっ、お母さんありがとう」などと言います。汚れものが散らかったまま、片付けの時間も惜しんで互いを貪る。そんな様子を見たくない母は、二人の留守時を見計らって、部屋の空気を入れ替え、食器や食べ残しを下げ、洗濯をし、掃除をするようになりました。シーツは堅哉の体液と菊里の出血混じりの愛液が沁みつき、キッチンは殆ど使った形跡がありません。
「それにしても」と母は思います、娘の変貌には不快や不安と言うより恐怖を感じます。
男たちの留守を狙って、菊里に話しかけました。
「姫巫女様に言うのもなんなんだけどね、近頃、お前と堅哉さんは朝から晩まで夜叉姫様に取りつかれたみたい。私が見ていても気にしていないし、外にドンドンと響いて賑やかで寝不足になっちまうだねぇ。せめてリビングや事務所でイチャイチャするのはやめてくんないかねぇ」と訴えると「お父さんは、認めてくれているよ」と言い返しました。

「奥の院のお堂で舞と秘儀を奉納したのは13歳だった。奉納舞を初めて見たとき、鳥肌が立った。私も舞ってみたい。踊っている千代子さんと目が合って気持ちが通じたの。舞終えて声をかけてもらって、お母さんはものすごく反対したけど、お千代さんへ稽古に通った。祭礼の本番前に秘儀の手ほどきをお千代さんに授けていただいて、気持ちよかったってお母さんに話したら、お母さん泣いてしまって、あの時は何故泣くのかわからなかったわ。
祭礼で重役さん3人と秘儀を営んで、そのたびにお腹から血が流れ出て、男とのセックスはこういうものだと思ってきた。…でも、それって本当のセックスじゃなかった。奉納の日だけは依り代になって交合するけど、終われば『お疲れさまでした』って仕事仲間の普通のおじさんみたいな関係。
堅哉と愛し合って、あっこれが本当のセックス、こんなに快感、初めて分かったの。」
「だからって、淫乱、男狂いして良いってものじゃないでしょう。周りに示しがつかない。磯貝の娘がこんなんじゃ、世間に顔向けできないのよ。死にたいくらい。絶対やめて。」
「もう少し、聞いて、お母さんにしか話せない。堅哉に触れ、堅哉に触れられるだけで体の奥が熱くなって、中から幸せが泉のように湧いてくるの。拝み堂に行かなくても、この部屋に、夜叉姫様が来てくれて、一緒に堅哉を求めあって、抱き合って、交尾して、心がとろけて、そして突然、堅哉が激しくなって、光が貫いて真っ白になる。
留どめなく、幸せの泉が奥からあふれて、堅哉はそれを吸って、私のさねを舐めて、とろけるような浮遊感が来て、激しい感情が爆発して、また真っ白になるの。                                夜叉姫様と私、一つになって、堅哉を貪る。夜叉姫様は私たちに憑依しているのでない、堅哉も一緒に、性愛の世界にいる。

いまある秘儀ではなく、本当に求めているのはこれだよ…と。
祭礼の奉納舞も秘儀も、本当にご本尊様、キヌ様、ヤエ様が望むものではなかったと分かったの。
いつも初めて…いつも新鮮な気持ちで、外から見ると荒淫の極みに見えるかもしれない。けど、拝み堂と祭礼は分かちがたく一つのもので、磯貝家の誇り。
今、お堂の建物管理者と祭礼の姫巫女を私が兼ねていることも御心、堅哉との出会いも御心。世間がどう思うかなど御心の前には些細な事よ。私たちは今、仏神の望むままにある。分かって、お母さん」

「わからない、分かりたくもない、それってただの淫乱、妄想。お前も堅哉君もが狂ってる。お母さんは恥ずかしくて買い物にも行けない。若い男たちが、お前たちの痴態を覗いたり録画しようとしてうちの周りウロウロしてるんだよ。サカリの付いたケダモノみたいな真似はやめて。窓はしっかり占めて、カーテンもおろして、お前が年上なんだからしっかりして頂戴」と言って、泣きながら部屋の片づけを始めました。

・・・・・
菊里さんは先代の姫巫女千代子さんと住職に奥の院拝み堂の祭礼は堅哉を供儀として行いたいと相談しました。堅哉の希望を容れて、彼の卒業を待って婚姻届けを出すことも約束しました。

ところが、高校に復学した魅寿紀は色々な理由を付けて菊里と堅哉の部屋に顔を出し「お取込み中のところ申し訳ないけど…」と邪魔をしたり、事務所や作業所で「先生」と呼びかけて親しげに体を寄せてきます。
菊里さんには目障りでした。堅哉とは10歳も年上な30過ぎの自分。4歳年下で、無神経で無鉄砲な積極さ、若い肢体の魅寿紀。その上男体験も菊里さんよりはるかに豊富。その上、磯貝の里子になって1年以上男を寄せ付けていないことも怖かった。

菊里は高野に「なんとかならないかな」と呟きました。
高野の行動は素早く、その足で魅寿紀の住む離れに向かい、彼女と強引に関係を結びました。そして、母屋に行き「社長、今日から魅寿紀は俺のアパートで暮らすことにします」と言ったのです。
離れからの物音で、何があったのか察しがついていた社長は「魅寿紀、お前は本当に承知か?」と問いかけました。
「お義父ちゃん、誘惑したの私ではありません。組長がいきなり襲ってきました。びっくりしたけど、すっごく嬉しかった。お義父ちゃんの言いつけを守って我慢して頑張ってたら、組長が俺の女になれって言ってくれてました。もうすぐ里子でなくなるけど、今度は組長の女なんて夢みたいです。捨てられないように頑張る。義母ちゃん、菊ねえもこれからも相談に乗ってください」といって俯いて泣いていた。
その日の夜から、二人は同棲を始め、直ぐに高野の子どもを宿していることが分かりました。大きなおなかを抱えて通学する彼女を高野は会社の軽トラで送迎し、教科書も買い込んで魅寿紀と一緒に勉強を始めました。
美寿紀は女児を産んだ。菊理が名付け親になって瑞葉と命名しました。通学中は学校の相談室にベビーベッドを持ち込み、そこで授乳しながら授業を受けました。そして順調に単位を取得し、卒業時には「努力賞」を校長から手渡されました。

高野は菊里たちと合同結婚式を企画しました。親戚や親兄弟などの縁の薄い堅哉や魅寿紀に配慮し、社内の内輪での結婚式。社員や善卓寺の住職のほかごく内輪でささやかな披露宴パーティーを磯貝工務店のプレカット工場を使って行いました。

堅哉側には親代わりとして、ひまわり学園の園長と課長が出席しました。課長は園長の娘の佐々木敦子。3歳になる下の娘を連れて参加してくれました。
敦子は「堅哉君は園の自慢の卒園生です。よろしくお願いします。」と深々と頭を下げ、堅哉には娘を見せて「この子は堅哉君が卒園した後にできたから、初めてだよね。ほら、沙哉加ご挨拶しなさい」と言って、子どもに挨拶をさせました。

菊里さんは彼女が堅哉に男女の手ほどきをしたことを知っていましたので、この女の子は堅哉の子?とも思いましたが…「先生には、夫が何から何まで親身になって、お世話頂いたと聞いています。末永く、よろしくお願いします。」と深々と頭を下げました。
その日、魅寿紀は高野魅寿紀、堅哉は磯貝堅哉となりました。

話を元に戻します。
磯貝社長は菊里と堅哉を離しておかないと仕事にならず、周りにも迷惑なことから、卒業して結婚するまでは高野組に預けることにして(後に結婚が早まったものの)大学に行かない日は高野組に客分として預かってもらうことにしました。
当初、菊里さんの愛人と言うことで職人達から警戒されたりしましたが、仕事の覚えが早く、先輩を立てるので組仲間とすぐに馴染みました。

そんなある日、高野に誘われて彼のアパートに行きました。高野は一升瓶をテーブルにおいて、茶碗に酒を注ぎ、一気に飲むと…
「お前、お嬢さんが、姫夜叉様に取りつかれた女だって知ってんだろう。恐ろしくなかったのかよ」
「それも含めて俺、お嬢さんが全部好きです。初めて会った時、ヘルメットに作業衣だけど、良い匂いがして、ドキドキしました。メチャ惹かれました。」
「お前、拝み堂の祭礼の夜に、お嬢さんが男たちとやっていることを承知したうえで、言っているのか」

「知ってます。ものすごく妬けるけど、僕も燃える。負けない。このまま死んでもいて思うくらい、攻めて、攻められていたいです。最近では菊里先輩と一緒にいると、夜叉姫様を感じられるようになってきました。僕も供儀として少しは認められたのかなと、うれしく思っています。」

「お前、御開帳の夜の秘儀を覗いたことあるか、俺は覗きに行った。塀を乗り越えて、写真屋の息子の吉岡が泣きながら見てたので、追い出したけどね。格子窓の細い隙間から見た。薄闇の中で、アダルト映画どころじゃねぇ、男が入れ代わり立ち代わり後ろから、激しく突いて、ウォーって…お嬢さんはすぐに俺の目に気づいて、こっちを見つめて目が合って…おっさんのチンポをネットリしゃぶりながら、ニコッと笑いかけてきた。後ろからチンポをパンパンと突っ込まれ…
俺ね、お嬢さん好きで、子どものころから好きで、磯貝工務店に就職したのもお嬢さんがいるからだ…だけどね、無理だ、夜叉姫相手では気が狂っちまう。でね、秘儀の次の日に会ったときは全く普通で、俺のこと気づかなかったみたいで。それ以来、毎日、あの秘儀の夜を妄想してしまう。
お嬢さんが祭祀を司る姫巫女になったとたん、学校中が変な雰囲気になって、出欠確認の時名前を読み上げない教師まで出てきて、俺が文句言うと名前を口にするだけで穢れが移るとか抜かすから「てめー、もう教育者失格だ、センコーやちまえ!」って殴った。職員室にも乗り込んだ。
姫巫女になる前は学校でも人気者だったんだぜ。それが、わざわざお嬢さんの前に来て、ウェ!気味悪い女!とか抜かすやつが出て、追っ払って、お嬢さんを虐める奴から、俺なりに必死に頑張って守ってきた。
高校進学してからも途中仕事サボって校門まで送り、帰りも校門で待ち構えて、ボディガードだ。誰も近づかないように、空手や剣道も齧って…お嬢さんは高校でも友達は一人もできなかった。
でもな、どんなに嫌がらせにあってもお嬢さんはいつも堂々としていた。いつだったか帰り道に4人位の他校の生徒に絡まれてな、さすがに俺もバットでボロボロにやられた。お嬢さんは手を合わせて呪文みたいなものをブツブツ唱えながら、顔色も変えず見ていた。
デカい奴が、卑猥なことを言って、お嬢さんの手を掴もうとしたら、そいつの小指がクニュツと変な向きに曲がって、ギャッで悲鳴を上げてよ、どうやったかわからねえが、あっという間だった。
「お巡りさん!あっちです。喧嘩です助けてください!」と誰かが叫んでな。そいつら慌てて逃げた。…お巡りさんなんか居やしなかった。お嬢さんを、陰ながら助けてくれる人はいたなぁ。
俺に「大丈夫?ごめんね、ありがとう」と言ってくれ、俺に肩を貸してくれた。通りかかった車が医者のところまで連れて行ってくれた。それからは変な連中に絡まれることもなくなった。

お嬢さんには信念があるんだ。正直その深いところはわからない。イザというとき自分の身を守る度胸と技もある。
俺は今でも、夜叉神様がお嬢さんに取りつくことをやめさせてェと思っているが、お嬢さんは姫巫女に誇りみたいなものがある。
俺は、本当は何もできない。お嬢さんの近くにいて、しっぽを振り振りして、吠えまくる番犬だ、でもそれでいいと思っている。
もうすぐお前の嫁だ、お前はすごいねぇ、夜叉姫様も含め、お嬢さんの全部を受け止めて、自分も供儀を務めると言ったそうじゃねえか。本当にすごいよ。お嬢さんのこと、ホント、よろしく頼むわ。これからも俺が、きくちゃんの番犬を続けること、認めてくれ。」と言って頭を下げ、泣きました。

・・・・・

祭礼が近づくと、3人の重役と菊里そして住職が恒例で打ち合わせをします。
いつもは住職が前回の反省などを踏まえて話を進めるのだが、今回は初めて、最初に菊里さんがが口を開きました。
「私、菊里は夜叉姫様から、騎龍瀬織津媛様の秘儀について、今泉堅哉を供儀として執り行ことを下命されました。重役御三方、長い間、供儀のお役目ご苦労様でした。拝み堂の祭祀は永久に続きます。これからもご支援をよろしくお願いします」と切り出しました。

参加者は、顔色を変えました。住職を覗いて…
「その今泉堅哉とはよそ者ではないのか、騎龍瀬織津媛様と所縁のない者がいきなり祭祀で供儀を司るなど、承知できん」と副住職

「菊里さんは、若い男の肉欲に溺れて狂ってしまわれたようだな」と総代

住職は「騎龍瀬織津媛様の秘儀の儀は、もう町衆で知らんものはない。とうに秘儀ではなくなっとる。ただ、表立って口にせんだけじゃ。世の中も変わった。そろそろ潮時じゃ。御重役の皆さんこそ、姫巫女様の体に溺れて、色ボケしておると陰で誹られていることお分かりなされ」

会計司は「近頃、菊里さんが堅哉なるよそ者と人目もはばからずキスをしたり、昼間から家の外まで嬌声が漏れ、聞こえるそうじゃないですか、嘆かわしい限りです。どうか姫巫女様の常道に立ち返り、私たちとの精進の道にお戻りください。」と言いました。

住職は「先代の姫巫女が年とって、お前様たちの相手がおぼつかなくたった時、年端も行かぬ女子中学生を依り代に仕込んで、ここに至ったのじゃ。今では街を歩けば男が振り向く色香溢れる美人に育ち、気立ても良く、仕事も男勝りだが、爺さんたちの皺腹と使い古したマラで姫巫女の秘儀を務めておられる。お前たちが、一生嫁に行けぬ体にした。もう行かず後家で決まったと思った。そこに突然、若い男が現れたのじゃ、夢中になるのも当然じゃ。姫巫女様は磯貝の一人娘ぞ、磯貝家が絶えてしまえば、だれが寺社の修復をしてくれるのか。良い機会じゃ、夜叉姫様は良く仕えてくれる姫巫女様に本当の女の悦びと思し召しなされて堅哉という若者を与えたのじゃ、それに従うしかなかろう。」と言いました。

総代が「ご住職こそ、元々東堂(=副住職の妻、住職の娘)様が次の姫巫女と決まっていたところを、強引に副住職殿を婿養子と決めて、姫巫女の後継問題をひっくり返したではないか。そもそもの原因は、住職殿ではないか、無責任の極みぞ、偉そうに何をぬかすか!」と怒鳴りました。

話し合いは決裂です。

二度目の打ち合わせは総代と会計司が参加を拒んだため、住職、副住職と菊里、そして新たに堅哉が参加して4人で行いました。
住職は若い人にも親しまれる寺になりたい、拝み堂の舞も祟り神のイメージを振り払い、若い人も集まってくれるような、騎龍瀬織津媛様が人々に安寧と生きる喜びと勇気を授ける仏神であること、そんな祭りに刷新したいと提案しました。
菊里は、それこそ夜叉姫様二柱、騎龍瀬織津媛様の御心と喜びと同意した。副住職は反対し、その後の会合には顔を出さなくなった。住職は祭礼に向けて菊里が微笑みながら舞うカラーのポスターを町中に貼りだしました。

重役が奉納舞への参加を拒んだことから、住職は、先代の姫巫女千代子さんに、堅哉一人で供儀を勤めることから、秘儀も夫婦の営みをご本尊に奉納するものに、改める振り付けを、依頼しました。

「寺に残る古文書を改めて調べたところ、この地では元々、かがい(嬥歌)の習慣があってな、春と秋、満月の夜、城山の頂にあった広場(月見の岩倉(磐座/イワクラ))に舞台を設けて四隅に篝火を置いて、巫女たちが舞い、男たちが歌を歌い、その回りを善男善女が囲み、村の安寧と豊作を祈っておったらしい。興がのると歌いの男たちが巫女たちを襲い次々に交合し、巫女が歓喜の声を上げる。
舞台を見守る男女も興奮し相手かまわず、あるいは示し合わせて夜が白むまで抱き合っていたそうじゃ。
人も花も生きとし生ける全ては雌が雄と交合し、子種を宿し、老い、死を迎え、また子となって成長し、子種を宿し、老い、死を迎える。
命は、魂は、女子の腹で育まれ、産みだされ、育ち、老い、死してまた女子の腹に帰る。女子の腹は赤き血を湛え、男子が発する白い液と混じり合い、混じり合う中で命の種が再生してゆく。
後には武士たちが嬥歌の広場に物見櫓を立てた。かがい(嬥歌)の習わしは、今の拝み堂のあたりに追いやられたようだ。
拝み堂の建立から明治の初めころまでは、姫巫女の夫や家族が拝み堂内で一夜を明かし、村人たちは拝み堂の周辺や、滝つぼのあたりに集まって好みの男と女が契りを交わしておったようじゃ。
拝み堂の秘儀は夫婦の契りの確かなことをご本尊様にご覧いただき、この地の安寧をおすがりするものだった。だから、まあ、元の姿に戻すだけじゃ。元に戻すのがよかろう」と笑った。

菊里はそのような古文書など見たことも聞いたこともなく、疑問に思ったが、喜んでご住職に騙されて、千代子さんの指導のもと、堅哉と舞の練習を重ねた。

・・・・・
いよいよ
祭礼の当日、二人は早朝に滝行を行い、本堂で東堂様が用意した朝飯をいただき、休息をとったのち、拝み堂に向かう。
奉納舞は午前11時から1時間、拝み堂の奥、本尊騎龍瀬織津媛の仏壇の脇、青龍に、仙台平を着た堅哉が胡坐をかいて控え、舞楽と共に、菊里(姫巫女)は金銀の組みひもで髪を後ろにまとめ、滝行で使う白衣(行衣 ぎょうえ)に緋袴のいで立ち。右手朱雀から静々と堂の中央(麒麟)に滑るように進み、向きを変えて舞台 (白虎)に。
ゆったりとした動きで右手に鈴をもちサラサラと鳴らし続けながら舞台で反時計回りに回り続ける。左手は堅哉が手渡す白扇、般若面、小面を次々と取り上げて舞台中央に戻り、観衆に示すしぐさをする。舞は一時間ほどだが、舞う菊里に向かって若い女どもが手を伸ばし、あるいは手を合わせて首を垂れる。
菊里は舞台の縁先に立膝して笑顔で真言、オン・キリカク・ソワカを唱え、一人ひとりの頭や手のひらの上にサラサラと鈴の音を響かせる。今回からは、午後4時から2回目の奉納舞を執り行った。
1回目も2回目も、いずれも住職の目論見通り、若い女性が増えて、舞終えてもなかなか人波が去らず、好評・盛況で華やかな祭りになった。

その夜の拝み堂での秘儀は、菊里と堅哉の二人だけて執り行われた。江戸期の秘儀の再現を目指した千代子さんの指導で、燈明を消し、全ての格子窓を固く閉め、漆黒の堂内で行うことになった。
二人は袴を取り、本尊に手を合わせ、
「これより、騎龍瀬織津媛様への奉身の儀を行います」と菊里が宣し、共に般若心経と真言を唱えて始まる。

菊里は立ち上がり明かりを消す。真の暗闇の中、手探りで堅哉に向かう。
「姫巫女様」と堅哉が囁き、声の方に菊里が進む。手が堅哉に触れ、手を伝って頭髪を確かめ、顔に触れる。衣の前を開き堅哉の後頭を押さえながら顔に陰部を押し付け「吸え」と言った。堅哉は菊里の両太ももを掴んで繁みを探り、甘い艶めいた匂いをたどる。舌を使って双丘に分け入り、滲み出す愛液をその舌ですくい、舐め取る。そのピチャ、チュル、チュルと微かに響く堂内…菊里の膝が崩れ、股に堅哉の顔を挟んたまま彼を押し潰すように倒れ、陰部を押し付けて腰を振る。
「アッ、アッ、イイ、イイ!」菊里の吐息が堂内に広がる。

「夜叉姫様は後ろから入れと申されている。」と告げると、彼女の双丘を陽根の先で探りながら入り口から、迷うことなくスルリと子宮に当てた。
「あっ!いい、いい、ゆっくりがいい、姫様に伝わるように…押して、引いて…ゆっくり、あっっ暑い…」
崩れ落ちる菊里の腰を支えながら、後ろから体を重ね、帯を解き、帷子を脱がせていった。

手指や皮膚、漏れる吐息や体液のぬめりを頼りに全身を舐め、互いに確かめ、横から突き、前から、後ろと陽根を咥え込んだまま交合を続けた。
堅哉が胡坐して菊里が跨って彼の長い陽根を腹に収め、抱き合い、口を吸い、腰を揺らし、突き上げ、吐息と呻き声を交わす。愛液と精液が菊里からあふれ、滴り、飛び散る。
暗闇は感覚を研ぎ澄ます。気配、手探り、柔らかな肌、密着し、絡まり、時に転寝し、乳首を舐め、吸い、膣を締め、腰を振る。吐息が漏れ、かすかに笑う。

・・・・・

外が白み始めたことを格子窓の僅かな隙間が教えていた。
まだ、薄暗い中、裏戸を開いて手をつなぎ滝つぼに向かい、互いの体に水を差して清めた。堅哉の陽根の先や括れには沢山の小さな傷ができていた。そっと触れながら「痛くない?」と聞いた。
「痛い。でも姫巫女様も血を流しておられた」と返えした。
二人は微笑みながら軽くキスをして、抱き合った。

東堂様(副住職の妻、住職の娘)が岩の上に置いた桐箱を開けて、さらし布を取り、互いの体をぬぐい、畳まれていた作務衣を身につけた。
拝み堂に戻ると、すでに堂内は片付け整理されており、箱膳が二つ置いあった。
二人で経文、真言を唱えて、冷えた粥と汁、香の物を喫し、仏壇を閉じ、施錠して坂道を降りてゆく。歩くことがままならない菊里に堅哉が肩を貸し、寺の駐車場に向かった。高野が待ち受けていた。

拝み堂の奉納舞はタウン誌や地方紙に掲載された。住職が「夫婦舞」と称して紹介したことも好感がもたれたようだ。

翌10月の御開帳の祭礼には屋台が出たり、狭い坂道に人が詰めかけるなど混乱し、急遽、整理券を出して入場制限を行い、境内で鐘突き行事、お守りの授与所を開くなど対応に追われた。御本尊開帳や奉納舞も午前と夕刻に更に午後を加え計3回行って捌いた。
その後奥の院拝み堂への坂道も市の助成を受けて拡幅整備された。
御開帳と奉納舞は回を重ねるごとに参観者が、特に若い女性が増え、姫巫女だけでなく供儀の堅哉にもファンができるなど、華やかなものになった。

供儀の代替わりから3年がたった春の祭祀は、菊里が妊娠5か月のふっくらしたお腹で、白衣の上に千早を羽織り、舞を披露した。
若い女性たちから姫巫女様!と声が飛び、舞が終わると舞台縁に出て、手を伸ばす女性たちにお腹を触らせてあげるなどしたため。興奮して殺到する女性群を堅哉が舞台を飛び降りて整理に任るほどであった。

・・・・・

そして、事件が起きた。その日…
以前から堅哉の卒業制作「奥の院拝み堂のレプリカ」が極めて精緻であり、付属の卒業論文も優秀であることから、F大から寄贈の要請があった。その日は贈呈式と「奥の院拝み堂の構造と祭祀」と題する記念公演会が開かれた。堅哉は奥の院拝み堂の構造特性を講演し、大学からは特任講師の辞令を受けた。妊娠7か月だった菊里は参加をあきらめたが、父、母、高野が出席した。

 記念式典の後、家族と別れた堅哉から大学関係者と会食・懇談をし、夜9時過ぎに駅に着いたと連絡があったものの、いつまでたっても帰ってこなかった。
菊里は不安になって、家族や高野にも相談し、徹夜で街中を探し続けた。

早朝、大川の河原に暴行を受けて倒れている堅哉を通行人が見つけ、警察と消防署に通報した。病院に搬送された堅哉は全身に打撲痕があり、顔は膨れ上がって出血し、頭蓋骨陥没、両腕と肋骨に骨折あり、意識不明、危篤状況だった。
病院に駆けつけた菊里はあまりの無残な夫の姿を目にし、衝撃のあまり意識を失ってその場に倒れ、そのまま破水・出産した。子どもは助からなかった。
菊里は翌朝、病院を抜け出し、東堂様に支えられて拝み堂に籠り、騎龍瀬織津媛に堅哉の回復を祈った。
お籠りして3週間目の夜、堅哉は意識を取り戻し、後遺症もなかった。医師は奇跡だと言った。堅哉は事件前後の記憶がなかった。背後から襲われたと思われ、暗闇での出来事でもあり、犯人が特定できない。駅を出たところまでは防犯カメラで確認できるのだが、それ以降の堅哉の映像がない。人通りもあったはずが、目撃者も現れなかった。

 この事件から1か月後、副住職が水深僅か30はンチの寺の池でおぼれ死んでいるのが見つかった。その翌日、総代が自宅裏山のがけが崩れて岩の下敷きとなって圧死した。同日深夜、会計司が警察に出頭して犯行を自供した。自分も姫巫女に呪い殺されてしまうから、警察に保護してもらおうと思って、出向いたと言った。

 会計司の供述は、あの日、三人の重役達は、料理屋の離れを借り切っていた。自分たちが拝み堂の祭礼から手を引いたにもかかわらず、ますます賑わっていること、堅哉が今日、奥の院拝み堂について大学で表彰され記念公演までしたことは許しがたいなどと、話が盛り上がり。姫巫女をたぶらかした堅哉が諸悪の元だ、天誅を加えよ、懲らしめてやろうとなった。
密かに料理屋の離れを抜け出し、会計司の車で駅に向かい、駅裏で待ち伏せしたところ堅哉が丁度、改札を出てきた。
近くの工事現場から拾ってきた鉄パイプで背後から襲った。ところが頭からの出血が大量で、慌てて車に押し込み、大川の河原に捨てた。その後料理屋の離れに戻り、深夜まで酒を飲んで、帰宅したと供述した。
 警察は、供述と事実関係に矛盾があるものの、全容が明らかになったとして記者会見しテレビや新聞で大きく報道された。

菊里も警察で事情聴取を受けた。姫巫女の祟りの噂、真偽を確かめるためだ。
菊里はご本尊様も夜叉姫様もこの土地を守る仏神で、祭礼の奉納はこの地の平安に感謝を示すものであること、そのご本尊様が祟りなどするわけもなし、ただの偶然の事故であり、私に、祟る力があるとかは、まったく馬鹿々々しことだと説明し「会計司様まで巷の噂に惑わされるとは残念。とはいえ夫の暴行障害事件の犯人が分かったこと、ホッとしている」と語った。 

このニュースに飛びついたのか、祟り神を退散させるとか、菊里に取りついた悪霊を除霊するなどと山伏、祈祷師などと称する者たち、新興宗教の教祖を自称する者たちが拝み堂だけでなく会社や自宅にまで押しかけてくるようになった。
事務所の前で幾つかの祈祷師や除霊のグループが鉢合わせをして騒いだ時、魅寿紀が幼い瑞葉を背中に括り付け、事務所の2階屋根にはしごをかけて登り、棟に跨った。そして、勢いよくホースで水を吹きかけた。
「菊ねぇに悪霊なんて付いてない、拝み堂もあんたたちの年の何倍も昔から、うちらが守ってきているんだ。勝手なこと言うな!馬鹿野郎ども!」と怒鳴った。 ずぶ濡れになって彼らは逃げ出したが、屋根に登った魅寿紀は恐ろしくて降りることができず、社長夫妻に救助された。それ以降、この手の騒ぎは次第に沈静した

姫巫女や供儀がいない祭礼は成り立たないことから御開帳は年に一度、祭礼は「当面、中止」となった。
堅哉はリハビリに励み次第に事件の前のように回復していったが、菊里の方は、もう以前の菊里ではなくなった。疲れやすく、寝込むことが増え、愛液が枯れ、あれほど狂おしく求めていた二人の営みが苦痛になり、生理もなくなった。
医師にも原因はわからなかった。

物語 奥の院拝み堂の床下  姫巫女 菊里さんの悦び その1

…これはフィクションです。どこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い…

4,5年前「ねぇ、高野、私子ども欲しいんだけど、高野はキクちゃんに協力してくれないかなぁ」と誘惑したことがあった。

彼は血相を変えて「俺なんか…太刀打ちできる相手じゃねえ。夜叉姫様に八つ裂きにされちまう。お嬢さんが姫巫女様だ。触れることもできません。まして…俺、昔から「キクちゃんの番犬」だし、番犬がご主人様と…八犬伝の伏姫と八房じゃないよ、無理です。」と言って泣いた。

別に、本当の犬じゃないのに、お前は人間だろ!とも思ったが、確かなことは菊里が高野に振られたということ。で、その時以来、高野はキクちゃんだったのに、お嬢さんに呼び名を変えてしまったのだ。

奥の院拝み堂の夜叉姫に取り憑つかれていると、幼馴染で何でも言うことを聞くはずの高野でさえ怯えるようでは、誰も私と結婚しようとは思わないな。

高野遵とは同じ年で、彼の父親が菊里の父が経営する磯貝工務店の出入り大工だったことから、一緒に遊び、小学校から中学まで(各学年2、3クラスだったが)ズーっと同じクラス。菊里より成績も良くて、分からないところは高野に教わっていた。

工務店のプレカット工場の隅で柱や板などの端財を使って犬小屋(犬は飼っていない)や鳥小屋(鳥は苦手)を一緒に作ったり、高野は機関車や飛行機なども作るなどした。キクちゃん、高野と呼び合い、作業場の職人達と仲良く昼飯を食べたりしていた。
彼は昔から「キクちゃんの番犬」と陰口をたたかれ、菊里の言うことはなんでも聞く、喜んでパシリする、菊里に嫌がらせをする奴らには必ず復讐に来ると思われており、実際その通りだった。

そんな高野が中学3年の秋、突然、高校進学を拒否し、親や担任ともめにもめた末。磯貝工務店に就職した。父親が大怪我で働けなくなったからか、菊里と離れたくなかったからか、彼の言う一流の宮大工を目指したためかは分からない。突然事務所に現れ、菊里の父、磯貝社長に向かって「おっちゃん、俺はここに就職することに決めたからな。四月からよろしく。」と言って、走って帰ったのだった。

それから15年、すっかり父の右腕となり、今じゃ工務店の3つの組のひとつ、高野組の組長だ。菊里さんも父の会社で、住宅の設計、施工を行い、その傍ら周辺地域の寺社の維持管理者として働いている。中でも県重要無形文化財である善卓寺奥の院拝み堂は代々磯貝家が維持管理に努めてきた。誇りだ。

高野は若いが、組長として、腕利きの宮大工として、彼女の仕事を支えてくれている。バーやスナック、居酒屋の女達にももてるようで、特に小料理屋「出雲」の女将は高野の筆おろしをしたとか、余りの巨根で痛かったなどと自慢・吹聴しているし、他にも何人も関係をもったようで、中には菊里との関係に探りを入れてくる女もいた。でも高野は特定の女はいないようだった。だから、菊里が子どもを欲しいと言えば、喜んで尻尾を振って襲ってくるだろうと思い込んでいた。
しかし…


あれは中三の夏の祭祀、深夜、あの時、やっぱり高野が拝み堂の秘儀を覗いていたのだと確信した。菊里を会計司様が後ろから激しく攻め、出血し飛び散っていたとき、両手で総代と副住職の男をしっかり握ってしごきながら「えーえー、いい!いい!もっと、もっと攻めて!」と幼さの残る声で必死に叱咤していたとき、ふと見上げた格子窓の僅かな隙間に目があった。その目、あれはやっぱり高野の目だったのだ。にこっと笑って返したけど、直ぐに消えたあの日のあの目。

拝み堂の祭礼は、前日の滝行から始まり、祭りの当日、秘仏の御開帳、夕刻には真言と奉納舞を参拝者に披露している。参拝者が去り、拝み堂が闇に包まれる頃から秘儀が始まり、外が白みかかるころまで、秘仏の前で執り行う。
供儀の重三役が交代で秘仏の前に座り、般若心経と真言(オン・シラバッタ・ニリウン・ソワカ、オン・キリカク・ソワカ)を唱え、一人は背後から姫巫女の菊里を抱き留め、乳を揉み、口吸いし、一人は姫巫女の菊里の双丘奥のサネを舐めて聖水(尿)を飲み、交合し、精液を巫女の体に振りかける。姫巫女は両手で自身の体にそれを塗り込むのだ。供儀たちは乳揉みと口吸い、読経、性交・射精を順番に執り行うとやがて姫巫女の双丘の奥から血が飛び散って床布を赤く染める。
夜叉姫の依り代である菊里は痛みを忘れて、ひたすら重役たちの陽茎を双丘奥の秘部に導き、交尾し、歓喜を夜叉姫様に捧げる。

菊里は奥の院拝み堂の建物の維持管理者でありながら、奥の院拝み堂の本尊、秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)の依り代となり、昔、この街の安寧と繁栄のために人柱となった足軽弥平の娘キヌ様と遊女ヤエ様の霊を慰める。年に3回、重三役を供儀として奉納舞と秘儀仕切る姫巫女を続けている。中学2年生の13歳からもう16年間になる。

祭礼との出会いは、中学1年生の春。拝み堂を守ることは磯貝家の大切な伝統のはずが、何故か父も母も、祭礼の日は忙しいと言って、一度も連れて行ってくれなかった。だからズーっと気になっていた。その日、一人自転車に乗って姫巫女の舞を見に行き、美しさに引き込まれ、姫巫女の千代子さんと目が合ってその場で弟子入りし、毎週稽古に通った。所作・礼儀作法、滝行や経文・読経、舞仕草の意味、独特の滑るような歩き方など優しく丁寧に教えてくれた。春の祭礼で、二人舞を披露することを目標に、千代子さんの道場に泊まり込みで稽古をし、夜は千代子さんから女の悦びを教えられ、男の模型を互いに挿入しあい、陽根を咥えた時の扱いかた、男の欲情を刺激する声の出し方などもしっかり学んで、当日に臨んだ。

当日、引き合わせされた重役様三方は顔見知りのおじさんんたちだった。
お千代さんと二人舞を終え、読経が始まるとすぐに夜叉姫様が降りてこられた。秘儀では快感はなくて、出血もしたが、痛いとか苦しいとか感じなかったし、大過なく務めることができたとお千代さんに褒められた。

夜叉姫様が菊里の体を通じて交合の悦びを感じていることも伝わってきて、幸せな気持ちになった。そして姫巫女の位をお千代さんから引き継ぎ、修練を重ね、今がある。

拝み堂に行くには善卓寺の池の脇の坂を10分ほど登る。祭礼の日を除くと殆ど人気のない道だが、菊里さんには通いなれた道だ。
善卓寺奥の院拝み堂は前庭を含め周囲を高さ2メートルほどの漆喰の塀に囲われており幅四間(3.6m)の棟門(むねもん)からお堂まで20mほどが広場になっている。門扉は今、壊れているため開けっ放しだが、その代わり入り口には高さ60センチくらいの鉄格子柵が置かれて、立ち入り禁止の札が立っている。

その普段は人気のないはずの拝み堂に、その日は珍しいことに先客がいた。
若い男性で学生のよう、首からカメラをぶら下げ、入り口の鉄格子にへばりつく様にしゃがんで一心にお堂のスケッチをしている。

菊里さんは何気なく、そのスケッチを覗きこむ。緻密で、細かい部分もしっかりと書き込まれている。
そのスケッチを見つめていると、いつもの職人たちの加齢臭や酸っぱい汗臭さとは別の若い男の匂いが鼻をかすめ、思わずクンクンと吸い込んでしまった。
その時、若者も大きく鼻で胸いっぱいに息を吸って、チラリと菊里さんを見て、顔を赤らめ、下を向いたのだ。

小声で耳元に「お上手ね」と伝えると、「えっ!」青年は飛び上がるほど驚いて、菊里さんを見返り、口を開けたまま声が出ません。

「ただ…ここの梁と柱の組方はちょっと違うかな。こっちは抜けない押しつぶされない木組みで、華奢に見えるけど、強風や地震、大雪でも、一度も倒れることなく三百年以上も持ちこたえている。」
「すごい、どうしてそんな細かいところまで知っているんですか」
「それは、このお堂を先祖が立てて、代々守り伝えてきたからよ。今は私が棟梁代理。」
「すごい、女棟梁ですか…ここからは遠すぎて細かなところがわからないです。立ち入り禁止なので、カメラの望遠機能で細かいところを見て書きこんでいたんです。」
「あなた、学生さんですか」
「はい、F大学の建築科3年生です。学生証持っています。見せますか。古建築物に興味があって、休みを利用してあっちこっち出かけています。」
「あら、F大なら後輩ね。大崎先生はお元気ですか。」
「大崎先生の授業は受けたことないのでわからないけど…」
「F大では古建築の講座は組まれていないけど、先生の講義だけ日本と北欧の木造古建築について触れているはず、少なくとも私の時はそうだったわ。どうしてF大?」
「受かったのがF大だけで、大学のことあまり知らなかったから、古い建物について教えているかどうかは考えたことありませんでした。そうか、来年は大崎教授の講義とってみようかなぁ」

「では、この素晴らしいスケッチに応えて、特別内覧させてあげる。本当は部外者立ち入り禁止だけどね。今日は、私の臨時アシスタントと言うことで、ああ内部の撮影、スケッチはだめよ。その代わり、修理箇所を指摘するから、そのスケッチブックに書き留めてくれる?」
「有難うございます。やります。是非」二人は、棟門の柵を開いて堂内に入った。
「庭には草木がありませんねぇ」
「年に二回、除草剤を撒いているの。人手がなくって、騎龍瀬織津媛様には本当に申し訳ないんだけど…」

「拝み堂の本堂の内部には柱が一本もありません。奥の祭壇、須弥壇と言うけど、そこに天井に届く大きな仏壇があるでしょう、その中にご本尊様が置かれています。普段その扉は閉まっている。天井はいわゆる唐笠天井で中心の丸い木組みから和傘のようにたくさんの骨組みが周囲の大壁にむけて放射して、屋根を支えている。」
「お堂の祭礼では舞が奉納されます。堂内は舞を妨げないように柱を立てない造りです。最初から奉納舞をするための建物として作られている。実は、その舞も私が奉納している。建物も祭礼も両方ワタシ。ホント、人手不足。」
菊里さんが天井の骨組みの1本を指さして「これは私が作ったの、高1の時だった。父に鎗鉋かけを褒められてね・・・」などと、一心に説明をしているが、学生さんは菊里さんの顔に見とれて上の空でした。

ふいに「そういえば名前聞いていなかったわね。教えて」
「今泉堅哉(タツヤ)と言います。先輩…棟梁のお名前は?」
「棟梁は私の父よ、私は棟梁代理の磯貝菊里(キクリ)よ。棟梁は私の何倍も知っているわ。会って話を聞いてみる?」

堂内は薄暗く二人は顔を見合わせる。菊里は、青年が自分に欲情していることに気づいた。そして、自分も…青年の放つ男の匂いに少し酔っている。体が若者に引き寄せられていく。…10歳くらいも年下の男が自分を求めてくれている…お堂の中に若い男の匂いが満ちてきている。菊里さんの心臓が高鳴る。

そんな気持ちを振り払うように、彼の視線をそらし「ちゃんとメモしてね」と早口で補修箇所を指さし指摘していった。

「お腹も空いてきたでしょう。一緒にお食事でもいかがですか」
堅哉は「すみません、つい、すみませんでした」と訳の分からないことを口走りながら何度も頷いた。

・・・・・

「そうか、F大か、菊里の後輩だな。建築か、そりゃあいい。で、何で古い建物に興味もつたの?」父は上機嫌だった。
「お世話になっていた先生が僕たちを民家園とか古い寺や神社に連れて行ってくれて、色々説明してくれたりして、自然と興味を持ったのかなと思います」
「うんうん、その先生は良い先生だな。小学校の先生とか?」
「お父さん、そんなプライベートなこと、失礼よ」
「あっ、構わないですよ、棟梁にはたくさん教えてもらったので、僕、ひまわり園という児童養護施設にいたので、そこの理事長先生が寺社や古民家の見学に連れて出してくれました。今、棟梁のお話聞いていて、卒業制作は古社寺の木組み雛形を制作しようかと…」
「えっ、親はどうした。」
「母子家庭だったけど、母の再婚相手と上手く行かなくて、母がイスラムになっちゃって、今は全く連絡なくてイランだかイラクだかそんなところに引っ越したらしいです。」
「そうか、身寄りはないのだな。実はな、俺は児童民生委員をやっていて、今、自宅に女の子を預かっているんだが、高校中退してね、復学したいと言っているんだ。それで施設に預かってもらうべきか児童相談所とも話し合っているが迷っている。君の意見を聞かせてほしい。」
「そうですねぇ、できたら棟梁や奥さん、菊里先輩のような方が里親として支えてくれる方が施設よりずーっとましだと思います。年長の子は馴染むのが大変だし」
「編入試験とかあるらしいから、試験勉強も見てやらなくちゃなんねえ。お前さんまだ現役だから勉強みてやれねぇか。」
「お父さん、そんな言い方、そんなこと、いきなり失礼でしょ」と母。
「そうよ、さっき会ったばかりの人に…遠くて無理でしょう。」と菊里。
「いや、僕、週一なら来れます。ただ、交通費と飯代くらいは欲しいです…」
「よし、昼と晩の飯を付けよう。1回5千円でどうだ」と棟梁が請け負った。
今泉堅哉は毎週土曜日の昼前に来るようになり、菊里は古建築や木の種類と特性、大工道具の使い方を教えた。かれは学業の合間、磯貝工務店の建材プレカット工場を手伝ったり、菊里さんの部屋で曾屋魅寿紀(そやみずき)という少女の勉強を見、社長宅に泊めてもらい日曜日の夕方、F大近くのアパートへ戻っていくようになった。そんな日がひと月ほど過ぎて。磯貝社長が堅哉と菊里を呼び、ご馳走をしてくれることになった。

「堅哉君、菊里もここからF大に通っていた。通えない距離じゃない。引っ越してきてはどうか。離れの一間空いている。アパート代が浮くしよ、なっ、卒業制作だって学校より、うちの作業場を使わせてやるし、寺に掛け合えば拝み堂をモデルにできるぞ。俺も菊里も付いているから捗るし、質の高いものになるぞ。魅寿紀ちゃんの受験準備も熱心に取り組んでくれて、最近あの子の顔つきが変わってきた。実はなあ、菊里が男を連れてきたのはオメェが初めてなんだ、菊里は気に入ったんだよ。俺はうれしかった、その上、建築勉強していて、古い建物が好きで…身寄りもねえんだ。願ったり叶ったりだ。このひと月様子を見て、俺も気に入った。ほら、結構美人で色気もあって、お前さんよりちょっと年食っているが、稼ぎもある。いっそこの家に住み込んで…」

「お父さん、怒るよ、勝手言わないで、」と菊里が大きな声を出すと堅哉は急に手をついて「お願いします」と頭を下げた。
「アパート代が払えてないんです。3か月分溜まって、不動産屋には出てゆくように言われました。学費以外の出費が予想したよりすごく大きくて、奨学金やバイト代では賄いきれなくて、ひまわり園にも相談して学資ローンを組んだけどもう限界なんです。ここに来ているときだけ、ちょっと幸せというかホッとしているというか、不安を忘れる…菊里先輩と何とかなんてとんでもないけど…僕を卒業させてください。卒業したら必ず恩返ししますから」と言って涙をポトポトと落した。交通費の節約のため、週末帰郷する同級生の車に同乗してこの街に落としてもらっていることも告白した。

社長が公園で拾ってきた女の子、曾屋魅寿紀(そやみずき)は17歳。親からの虐待が切っ掛けで家出を繰り返し、高校も無断欠席で退学、公園のトイレに寝泊まりをしていた。社長は児童・民生委員だった経緯から、虐待を受けて逃げ出したときの避難場所に自宅の離れを提供し、保護するなど警察や児童相談所と連携して面倒を見ていた。出歩くと義父に拉致される恐れがあり、作業場で下働きをしたり、建築現場に自転車で出食事を届けるなどの「バイト」をさせ、菊里も母とともに彼女が自立できるよう、日常生活の挨拶やマナー、調理、洗濯、部屋の片づけなど一緒に暮らす中で教え、慕われ、菊ねェと呼ばれていた。しかし、高校の編入試験となると勝手が違った。

引っ越してきた堅哉は菊里の隣室をあてがわれた。互いを仕切る壁は襖に手を加えたもので薄い。

ほぼ毎日約1時間、魅寿紀の部屋に行って勉強を見、菊里は二人に夜食や飲み物を提供した。魅寿紀は堅哉が自分のために(も)引っ越をしてまで教えてくれていると好意を見せるようになった。

堅哉は学力の偏りや近隣の学校では公園暮らしの時を知っている人いることから、すこし離れた地域の単位制の高校への編入することを彼女に勧めた。運転免許を持たない堅哉に代わり、磯貝工務店 高野組組長、高野が幾つかの学校訪問に同行した。さらに高野が関わっている子ども太鼓蓮や子供会のバーベキューに連れ出して人の交流範囲を広げていった。

「俺は、中卒で就職したけど、お前は高校生になって、立派に卒業しろよ」と励ました。魅寿紀は彼を「組長」と呼ぶようになった。ちなみに堅哉は「先生」だ。魅寿紀の成績は急速に良くなり無事、編入試験に合格し、高校生となった。

・・・・・

夏、奥の院拝み堂の祭りを控えて、お堂の縁側と一体化した舞台が前庭にでき、本堂脇から拝み堂への道の整備を進めるなど、社員たちが汗を流す。堅哉もその中にいた。

菊里が善卓寺本堂を借りて、奉納舞のおさらいをしていると、近所の人たちが前庭に集まってくる。その中にも堅哉の姿があった。

祭り当日は秘仏の公開が行われ、須弥壇の仏壇は手向けの白百合でいっぱいになった。
奉納舞は夕方4時から始まる。昔は楽師が奏でた舞楽だが、今はラジカセだ。舞台の南北西に重役が座る中、東(青龍)たる堂奥から金銀の組みひもで髪を後ろにまとめた菊里が滝行で使う白衣(行衣 ぎょうえ)に緋袴の姿で、ゆっくりと滑るように舞台中央に出てゆく。右手に鈴をもちサラサラと鳴らし続けながら、静かに回り続ける。左手には介添えの重三役が白扇、般若面、小面を差し出す。それを次々と取り上げて、観衆に示すしぐさをし、介添え役に戻す。その繰り返しなのだが、観衆は見とれて声も出ない。

舞は一時間ほどで終わり、読経と真言が響く中、菊里は奥、須弥壇の裏手へと去って行く。日が傾き始める中、観衆は引き、社長や堅哉、高野が外付けの舞台を手早く解体し、庭を掃除し、門は閉ざされた。菊里と重役3人の秘儀が始まる。

翌夕刻、拝み堂での秘儀を務め、戻ってきた菊里には、祭祀をやり遂げたいつもの高揚感がなく、感じたことのない疲労で、そのまま3日間寝込んでしまった。

引っ越してきた堅哉(タツヤ)の部屋と菊里の部屋の薄い壁からはお互いの微かな物音が聞こえてしまう。祭祀を終えてからは神経が研ぎ澄まされ、深夜、隣のかすかな気配を感じて浅い眠りから目覚め、心臓が高鳴り、もう寝付けない。菊里は堅哉が忍んでくることを妄想して、さねの火照りを指で慰めた。
そんな日が1週間ほど続いて、思い立って、真夜中に軽トラックで拝み堂に向かい、お堂の裏手にある小さな滝に打たれて、心と体を鎮め、ようやく寝付く日が続いた。
満月に近いある夜、いつものように小走りに奥の院に向かい、拝み堂で滝行衣に着替え、獣道を通り滝つぼの池に足を入れた。冷たい感触にホッとして、それから行衣を脱ぎ、岸辺の岩の上に畳み置き、池の中ほどに進み手桶で水を汲んでは体にかけていると、背後に人の気配を感じた。振り向いて、岸辺に黒く人影を認め、「キャ!」と叫んだが、影は固まったままだった。菊里は堅哉だと確信した。
「堅哉君?堅哉君でしょ、付けてきたのね。そんなところにいないで、もっとこっちに、近くに来なさい」。
堅哉は「はい」と答えて滝つぼの池の畔に来た。
「いけない子ねぇ、こっそり覗いていたのね。この責任取りなさいよ。さあ一緒に滝行して心身を鎮めましょう」と言いながら胸と下腹部を手で隠し岸辺に近づいた。
笑顔を作って「ほら、あなたも裸になって、私だけなんてずるいわ。さあ脱いで、脱いで」といってズボンを脱がせ、パンツに手をかけた。菊里はさりげなく手の甲で若い男の陽根に触れた。上を向いて固く起立した陽根は初めてだった。そのうえ、重三役より、お千代さんの模型よりも明らかに長い。

平静を装い彼の手を引いて滝口に導いた。
「じゃあ堅哉君も一緒に滝行なさい。私をまねて、合掌して…」
堅哉は直立した陽柱を手で覆いながら滝の下に向かった。しかし、滝に打たれて、1分もしないうちに、様子がおかしくなり、倒れかかった。
「堅哉君、早く上がろう、急いで!」と菊里が叫んで手を引いた。

岸にたどり着いて冷え切った堅哉を抱き留め「ごめんね、ごめんね」と言い、濡れ髪を滝行衣でなで拭き、体を密着させ、紫色の唇を吸った。冷え切って縮んでしまったペニスを握り、温め。「ごめんね、ごめんね」と耳元で囁いた。
やがて堅哉の震えが収まり、血の気が戻って、ペニスが硬くなると菊里は手早く中に導いたが、双丘の奥のさねに射精してしまった。菊里は重ねた唇のまま「大丈夫、大丈夫」と言い陽柱を優しくなでていると再び固くなった陽根が菊里に押し入ってきた。「そこ、そこ、そのまま押して」囁いた。
菊里の体の中に迷わずするりと入り、すぐに射精した。初めてじゃなかった、女の体をよく知っている。驚きと、手ほどきをした女の存在を感じ、すこしの嫉妬と、安堵感が交錯した。

「ごめん」
「ううん、私よ、私が望んだの、ずーっとあなたが欲しかった。」
岩の上に置いてあった晒し布の滝行衣を差し出して「ほら、拭かせてあげる。丁寧に隅々まで水を取るのよ。おっぱいも、下の割れ目も。軽くポンポンと押すように、手で触ってもいいのよ、胸も下も…」
堅哉は「は、はい」と何度も頷いて、丁寧に水を取って、乳房、下腹部に触れ、太ももを流れ落ちる自分の精を指で確かめている。
菊里も彼の体、とりわけ陽根、袋、その周りを丁寧に拭いた。彼のペニスは再び固く、長く上を向いた。「これぞ、陽根!」と心でつぶやいた。
二人は裸のまま手をつないで奥の院拝み堂の裏木戸に向かった。
真っ暗な堂内を手探りで入って行き、菊里がランタンを灯した。
奥から敷き布を出してきて、須弥壇の前に敷き、寒いでしょう。これを着て」と新しい滝行衣を取り出して堅哉に掛け「座布団がないから敷布に座りましょう」と促した。待ちきれない彼は、菊里を抱きしめ押し倒してきた。
「待って!ダメ!ちゃんと座って!」と抵抗した。

堅哉は菊里に馬乗りになり肩を抑えた。
「お嬢さん、初めて会った日、白百合の強い匂いがして…百合の化身かと思いました。眩しくって、艶めかしくって、抱きしめたい衝動を抑えるのに必死でした。今、滝壺で受け入れてくれた。僕は我慢できない。もっともっと…お嬢さん」と堅哉の呼気が菊里の唇にかかる。
「離して、ここは夜叉神様のお住まい、お祀りのところよ。私も堅哉君に初めて会った時から、惹かれた、好き、いくらでも好きにしていいけど、でも、ここではだめ、落ち着いて話を聞いて。」といって、堅哉が手を緩めた隙に体を起こし、須弥壇の仏壇に向けて手を合わせ「堅哉君も一緒に拝んで」と言った。

「以前も説明しましたが、ここ奥の院拝み堂のご本尊は、秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)で、私はその依り代、巫女です。それからこの床下には愛する人と結ばれることなく人柱となった悲しい女性二柱の骨が再納されている。お堂全体が二柱の供養塔、お墓でもある。というか、お二人の供養のために騎龍瀬織津媛の命が建立されました。お顔正面は観音菩薩様、左手には足軽弥平の娘女キヌ様、右手には遊女ヤエ様の顔の写しが彫り込まれており、三位一体のお姿を夜叉姫様とも言います。一般に騎龍観音様は龍の上に座っていたり、立っていたりしているけど、拝み堂のご本尊は龍が腰に巻き付き、交合しているとか一体となって当地を守ることを表しているとか言われています。」
「この奥の院で男と女が一つになると、女は夜叉姫様が憑依した巫女に、男はその巫女に仕える供犠つまり夜叉姫様への捧げものの生贄になる。堅哉君も一生、私から離れられなくなって、私の舞を支え、秘儀に励み、悦楽を夜叉姫様に捧げることになる。私、分かる。すでにあなたは気に入られている。堅哉君はまだ若いし、これからたくさんの素敵な女性と出会うはず。だから、ここで滝つぼの続きをしてはいけない。帰ってからね、君の人生を縛りたくないの」

「僕は、菊里先輩となら地獄でも喜んで付いてゆく。だから秘儀も、舞の支えにも僕がなりたい…先輩があの爺さんたちと秘儀をやるなんて、気が狂いそうです。初めて会ったあの時から、ずーと好きだった。引っ越して、隣同士になって、微かな気配が伝わってくると胸が苦しく切なくなって、眠れませんでした。」

「私、夜叉姫様の依り代だよ、あなたも巻き添えになるのよ。覚悟できているの?」堅哉はしっかりと頷いた。

二人は本尊、騎龍瀬織津媛に手を合わせた。
「堅哉君、これから騎龍瀬織津媛様の秘儀を行うけど、この秘儀を共にしたら後へは引けないよ。ほんとうにいいのね。今ならまだ…」
「出会ったのがこの拝み堂。運命。菊里さんと一緒なら生贄だって喜んで引き受けます。これ僕の望みです。」と答えた。

「始めます」と言って菊里が読経し、隣で堅哉は手を合わせた。
菊里は姫巫女になった。
読経を終えて立ち上がり、堅哉に向かって白衣の前を開き陰部を堅哉に押し付け「吸え」と言った。堅哉は菊里の太ももを掴んで舌を使って双丘を分け入り、滴る尿を聖水として飲む。菊里は堅哉の顔を太ももで押さえて、そのまま床に押し倒して、陰部を口元に押し付けて腰を振った。

「夜叉姫様が後ろから入れよと申されている。尻穴の下に…指で確かめて、堅哉の精が流れ出ている…そこそこ!あっ、入った、いい、いい、ゆっくり、ゆつくり、夜叉姫様にも伝わるように…出して、出して、違う、外さないで、中に出して…ゆっくり、あっっ気持ちいい…」
堅哉は暗い堂内でも、菊里の説明はいらないほど手慣れて、迷わず膣に挿入してきた。彼の長い陽根を咥え込んだまま、前に後ろに横に体位を変えながら堅哉を射精に導いた。
「堅哉君、とても上手ね。男と女の事、良い人に教わったね。」
「卒園前に、園の先生が変な女に騙されないようにと言って教えてくれました。」
「でも、10箇も年上のおばさんに捕まっちゃったね。私は、その方に感謝だわ、夜叉姫様もお前様のこと大層気に入られたようで、温かい御心が私の中に広がってくるの。今後の秘儀のこと、お前様と執り行いたいが、覚悟はよいですか。」
「はい」
「ならば、私からあふれ出ている、お前様の精を拭き取りなさい」と須弥壇の方に顔を向け、ティッシュボックスを示した。あらかじめ菊里が置いておいたのだ。菊里の太ももを伝う桃色の精を拭き取りながら「お嬢さん、血が!」と小さく叫んだ。
「お嬢さんではなく、姫巫女と言え」と言って、にっこり笑い、出血については答えず、彼の顔をギュッと抱きしめた。

お堂の格子窓の隙間から明かりがさし、外はすっかり明るくなっていることに気づき、二人は我に返った。