物語 奥の院拝み堂  姫巫女 菊里さんの悦び その2

これはフィクションです。あなたがどこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い。

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格子窓の隙間から明かりがさしてきて、もう奥の院拝み堂の秘儀を終えなくてはなりません。でも今泉堅哉は菊里さんと離れるのが嫌です。彼女の繁みの奥から溢れ出てくる精を拭きとったばかりなのに、彼の長い陽根はすぐに固くなって、心臓の鼓動も激しくなって、喉はカラカラで声が出ません。
菊里さんの目を見詰めても、優しく微笑んでてるだけで心が読めません。
菊里さんは小ぶりな乳房を彼に吸わせながら、傷ついてヒリヒリするはち切れそうな陽根を右掌で撫でています。
彼女の陰毛は彼の精がべったりと貼りつき、双丘のさねの下からティシュで拭き取っても、拭き取っても血交じりの体液が溢れてきます。堅哉がそこに、陽根を押し込もうと体位をかえると、ふいに…

「あの時、作業服姿で日焼け止めなしのスッピンだったのに」と菊里さんが呟きました。
「えっ、あの時…そうでしたか、お嬢さんが何を着ていたのかは心臓がバクバクいって、見とれてしまい覚えていないけど。」
「堅哉君、セックス、本当に、上手よ。優しくゆったりと入ってきて、私の体がとろけてくると、激しくする…すごい快感で震える。ひまわり園の敦子先生ってどんな先生だったの?きっとあなたのこと、深く愛していたのよ、あなただって…」
「先生とは施設の自立支援室で大学合格のお祝だって…それからは入学手続きやアパートの引っ越しとか一緒に出掛けて…でも卒園してからは、旦那さんの佐々木先生が僕に対応してくれるようになって…それからは、二人だけでは会えなくなって…」
「ふーん、私は先代の姫巫女様、お千代様に手ほどきをいただいて、女になった。13歳だった。古くから伝わる男の模型を使って、初めての秘儀の時、本物はどれも模型よりずっと小さかったから怖くはなかった。今、堅哉君と結ばれて、本当のセックスを知った気がする。堅哉君、大きい。いつまでも触れていたい、触れているだけで気持ちよくなる。あなたの子どもが産みたい。迷惑かけない。さあ、もう帰らなくっちゃ」と言い、自ら体を引いて堅哉の陽根を抜きました。陽根は元気にプルンと振るえました。

菊里は父に電話しました。
「おとうさん、私、今拝み堂、堅哉君と一緒よ、これから戻ります。」
「馬鹿野郎!朝っぱらから心配かけやがって、それで上手いこと咥え込めたか」
「お父さん、隣に堅哉君がいるの、そんな言い方しないで。」
「じゃあ、堅哉を出せ」

「堅哉です」
「どうだった、菊里とのセックスは、ちゃんと子種を仕込めたか」
「うー、はい」

「ちよっとお父さん、堅哉君に何を言わせるの。心配しないで沢山もらったから。うん、ご本尊様にもご報告できた。詳しくは戻ってから話すね、お腹すいちゃった。お母さんによろしく」

自宅に戻ると父の姿はなかった。
「今日はふたりとも疲れたろうから仕事は休みなさいと言って出て行ったわよ。」と母が言いました。

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拝み堂から朝帰りしてきた菊里と堅哉は、午後の3時を過ぎても起きてきませんでした。
母は心配になり菊里の部屋を覗きます。二人は全裸で狭いベッドに絡み合ったまま寝ています。
堅哉は菊里を横抱きにし、背後から左の乳房を掴み、菊里は左足を堅哉の膝にのせて股を開き、その茂みの奥には黒くて長い陽根が収まっています。
母の気配に目を開けた菊里は、堅哉の顔を引き寄せキスをしました。堅哉は差し込んだ陽根をゆっくりと動かし始めましたが、菊里の母に気づき飛び起きました。「おはようございます」裸で正座して頭を下げます。
菊里が落ち着いた声で「お腹すいちゃった」と言うと母は一言もなく慌てて部屋を出てゆきました。

丁度現場から父が帰ってきました。妻の様子から、ただ事ならぬ何かを感じて、入れ替わりに部屋に入ってきました。
「おっ、子づくり中か」と言いドカッと座り込んだ。「ほら、菊里、起きろ、お前ら、座れ。」と言いました。
 二人は、ノロノロとシャツとパンツをはいて、父の前に正座した。
「堅哉君よお、おめえ、立派なマラしてんなあ。」
「おとうさん、どこ見てんの」と菊里は顔を赤らめた。
「俺はなア、こいつが行かず後家になるとを覚悟していた。なんせ、騎龍瀬織津媛の命(キリュウセオリツヒメノミコト)が憑依して姫巫女になっちまう。普通じゃないからな、男はみんな気味悪がって逃げ出すんだ。幼馴染の高野も腰が引けてよ。
堅哉君よ、菊里が跡取りを産んでくれたら嬉しい。堅哉君が結婚してくれたらもっと嬉しい。だがな、無理はしなくていい、君は若いし、他にいい女が出来たら、素直に言ってくれ、潔く身を引かせるから。子どもができても心配するな。俺たちが付いている。とにかく今はおめえの若い活きのいい子種を沢山仕込んでくれ。夜叉姫様にも喜んでもらったそうじゃねぇか、めでたい。ウナギのかば焼きを買ってきたから、これで精力つけろ、邪魔したな。」と上機嫌で立ち上がりました。

父の公認もあってか、母が部屋に入ってきても、絡み合ったまま「あっ、お母さんありがとう」などと言います。汚れものが散らかったまま、片付けの時間も惜しんで互いを貪る。そんな様子を見たくない母は、二人の留守時を見計らって、部屋の空気を入れ替え、食器や食べ残しを下げ、洗濯をし、掃除をするようになりました。シーツは堅哉の体液と菊里の出血混じりの愛液が沁みつき、キッチンは殆ど使った形跡がありません。
「それにしても」と母は思います、娘の変貌には不快や不安と言うより恐怖を感じます。
男たちの留守を狙って、菊里に話しかけました。
「姫巫女様に言うのもなんなんだけどね、近頃、お前と堅哉さんは朝から晩まで夜叉姫様に取りつかれたみたい。私が見ていても気にしていないし、外にドンドンと響いて賑やかで寝不足になっちまうだねぇ。せめてリビングや事務所でイチャイチャするのはやめてくんないかねぇ」と訴えると「お父さんは、認めてくれているよ」と言い返しました。

「奥の院のお堂で舞と秘儀を奉納したのは13歳だった。奉納舞を初めて見たとき、鳥肌が立った。私も舞ってみたい。踊っている千代子さんと目が合って気持ちが通じたの。舞終えて声をかけてもらって、お母さんはものすごく反対したけど、お千代さんへ稽古に通った。祭礼の本番前に秘儀の手ほどきをお千代さんに授けていただいて、気持ちよかったってお母さんに話したら、お母さん泣いてしまって、あの時は何故泣くのかわからなかったわ。
祭礼で重役さん3人と秘儀を営んで、そのたびにお腹から血が流れ出て、男とのセックスはこういうものだと思ってきた。…でも、それって本当のセックスじゃなかった。奉納の日だけは依り代になって交合するけど、終われば『お疲れさまでした』って仕事仲間の普通のおじさんみたいな関係。
堅哉と愛し合って、あっこれが本当のセックス、こんなに快感、初めて分かったの。」
「だからって、淫乱、男狂いして良いってものじゃないでしょう。周りに示しがつかない。磯貝の娘がこんなんじゃ、世間に顔向けできないのよ。死にたいくらい。絶対やめて。」
「もう少し、聞いて、お母さんにしか話せない。堅哉に触れ、堅哉に触れられるだけで体の奥が熱くなって、中から幸せが泉のように湧いてくるの。拝み堂に行かなくても、この部屋に、夜叉姫様が来てくれて、一緒に堅哉を求めあって、抱き合って、交尾して、心がとろけて、そして突然、堅哉が激しくなって、光が貫いて真っ白になる。
留どめなく、幸せの泉が奥からあふれて、堅哉はそれを吸って、私のさねを舐めて、とろけるような浮遊感が来て、激しい感情が爆発して、また真っ白になるの。                                夜叉姫様と私、一つになって、堅哉を貪る。夜叉姫様は私たちに憑依しているのでない、堅哉も一緒に、性愛の世界にいる。

いまある秘儀ではなく、本当に求めているのはこれだよ…と。
祭礼の奉納舞も秘儀も、本当にご本尊様、キヌ様、ヤエ様が望むものではなかったと分かったの。
いつも初めて…いつも新鮮な気持ちで、外から見ると荒淫の極みに見えるかもしれない。けど、拝み堂と祭礼は分かちがたく一つのもので、磯貝家の誇り。
今、お堂の建物管理者と祭礼の姫巫女を私が兼ねていることも御心、堅哉との出会いも御心。世間がどう思うかなど御心の前には些細な事よ。私たちは今、仏神の望むままにある。分かって、お母さん」

「わからない、分かりたくもない、それってただの淫乱、妄想。お前も堅哉君もが狂ってる。お母さんは恥ずかしくて買い物にも行けない。若い男たちが、お前たちの痴態を覗いたり録画しようとしてうちの周りウロウロしてるんだよ。サカリの付いたケダモノみたいな真似はやめて。窓はしっかり占めて、カーテンもおろして、お前が年上なんだからしっかりして頂戴」と言って、泣きながら部屋の片づけを始めました。

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菊里さんは先代の姫巫女千代子さんと住職に奥の院拝み堂の祭礼は堅哉を供儀として行いたいと相談しました。堅哉の希望を容れて、彼の卒業を待って婚姻届けを出すことも約束しました。

ところが、高校に復学した魅寿紀は色々な理由を付けて菊里と堅哉の部屋に顔を出し「お取込み中のところ申し訳ないけど…」と邪魔をしたり、事務所や作業所で「先生」と呼びかけて親しげに体を寄せてきます。
菊里さんには目障りでした。堅哉とは10歳も年上な30過ぎの自分。4歳年下で、無神経で無鉄砲な積極さ、若い肢体の魅寿紀。その上男体験も菊里さんよりはるかに豊富。その上、磯貝の里子になって1年以上男を寄せ付けていないことも怖かった。

菊里は高野に「なんとかならないかな」と呟きました。
高野の行動は素早く、その足で魅寿紀の住む離れに向かい、彼女と強引に関係を結びました。そして、母屋に行き「社長、今日から魅寿紀は俺のアパートで暮らすことにします」と言ったのです。
離れからの物音で、何があったのか察しがついていた社長は「魅寿紀、お前は本当に承知か?」と問いかけました。
「お義父ちゃん、誘惑したの私ではありません。組長がいきなり襲ってきました。びっくりしたけど、すっごく嬉しかった。お義父ちゃんの言いつけを守って我慢して頑張ってたら、組長が俺の女になれって言ってくれてました。もうすぐ里子でなくなるけど、今度は組長の女なんて夢みたいです。捨てられないように頑張る。義母ちゃん、菊ねえもこれからも相談に乗ってください」といって俯いて泣いていた。
その日の夜から、二人は同棲を始め、直ぐに高野の子どもを宿していることが分かりました。大きなおなかを抱えて通学する彼女を高野は会社の軽トラで送迎し、教科書も買い込んで魅寿紀と一緒に勉強を始めました。
美寿紀は女児を産んだ。菊理が名付け親になって瑞葉と命名しました。通学中は学校の相談室にベビーベッドを持ち込み、そこで授乳しながら授業を受けました。そして順調に単位を取得し、卒業時には「努力賞」を校長から手渡されました。

高野は菊里たちと合同結婚式を企画しました。親戚や親兄弟などの縁の薄い堅哉や魅寿紀に配慮し、社内の内輪での結婚式。社員や善卓寺の住職のほかごく内輪でささやかな披露宴パーティーを磯貝工務店のプレカット工場を使って行いました。

堅哉側には親代わりとして、ひまわり学園の園長と課長が出席しました。課長は園長の娘の佐々木敦子。3歳になる下の娘を連れて参加してくれました。
敦子は「堅哉君は園の自慢の卒園生です。よろしくお願いします。」と深々と頭を下げ、堅哉には娘を見せて「この子は堅哉君が卒園した後にできたから、初めてだよね。ほら、沙哉加ご挨拶しなさい」と言って、子どもに挨拶をさせました。

菊里さんは彼女が堅哉に男女の手ほどきをしたことを知っていましたので、この女の子は堅哉の子?とも思いましたが…「先生には、夫が何から何まで親身になって、お世話頂いたと聞いています。末永く、よろしくお願いします。」と深々と頭を下げました。
その日、魅寿紀は高野魅寿紀、堅哉は磯貝堅哉となりました。

話を元に戻します。
磯貝社長は菊里と堅哉を離しておかないと仕事にならず、周りにも迷惑なことから、卒業して結婚するまでは高野組に預けることにして(後に結婚が早まったものの)大学に行かない日は高野組に客分として預かってもらうことにしました。
当初、菊里さんの愛人と言うことで職人達から警戒されたりしましたが、仕事の覚えが早く、先輩を立てるので組仲間とすぐに馴染みました。

そんなある日、高野に誘われて彼のアパートに行きました。高野は一升瓶をテーブルにおいて、茶碗に酒を注ぎ、一気に飲むと…
「お前、お嬢さんが、姫夜叉様に取りつかれた女だって知ってんだろう。恐ろしくなかったのかよ」
「それも含めて俺、お嬢さんが全部好きです。初めて会った時、ヘルメットに作業衣だけど、良い匂いがして、ドキドキしました。メチャ惹かれました。」
「お前、拝み堂の祭礼の夜に、お嬢さんが男たちとやっていることを承知したうえで、言っているのか」

「知ってます。ものすごく妬けるけど、僕も燃える。負けない。このまま死んでもいて思うくらい、攻めて、攻められていたいです。最近では菊里先輩と一緒にいると、夜叉姫様を感じられるようになってきました。僕も供儀として少しは認められたのかなと、うれしく思っています。」

「お前、御開帳の夜の秘儀を覗いたことあるか、俺は覗きに行った。塀を乗り越えて、写真屋の息子の吉岡が泣きながら見てたので、追い出したけどね。格子窓の細い隙間から見た。薄闇の中で、アダルト映画どころじゃねぇ、男が入れ代わり立ち代わり後ろから、激しく突いて、ウォーって…お嬢さんはすぐに俺の目に気づいて、こっちを見つめて目が合って…おっさんのチンポをネットリしゃぶりながら、ニコッと笑いかけてきた。後ろからチンポをパンパンと突っ込まれ…
俺ね、お嬢さん好きで、子どものころから好きで、磯貝工務店に就職したのもお嬢さんがいるからだ…だけどね、無理だ、夜叉姫相手では気が狂っちまう。でね、秘儀の次の日に会ったときは全く普通で、俺のこと気づかなかったみたいで。それ以来、毎日、あの秘儀の夜を妄想してしまう。
お嬢さんが祭祀を司る姫巫女になったとたん、学校中が変な雰囲気になって、出欠確認の時名前を読み上げない教師まで出てきて、俺が文句言うと名前を口にするだけで穢れが移るとか抜かすから「てめー、もう教育者失格だ、センコーやちまえ!」って殴った。職員室にも乗り込んだ。
姫巫女になる前は学校でも人気者だったんだぜ。それが、わざわざお嬢さんの前に来て、ウェ!気味悪い女!とか抜かすやつが出て、追っ払って、お嬢さんを虐める奴から、俺なりに必死に頑張って守ってきた。
高校進学してからも途中仕事サボって校門まで送り、帰りも校門で待ち構えて、ボディガードだ。誰も近づかないように、空手や剣道も齧って…お嬢さんは高校でも友達は一人もできなかった。
でもな、どんなに嫌がらせにあってもお嬢さんはいつも堂々としていた。いつだったか帰り道に4人位の他校の生徒に絡まれてな、さすがに俺もバットでボロボロにやられた。お嬢さんは手を合わせて呪文みたいなものをブツブツ唱えながら、顔色も変えず見ていた。
デカい奴が、卑猥なことを言って、お嬢さんの手を掴もうとしたら、そいつの小指がクニュツと変な向きに曲がって、ギャッで悲鳴を上げてよ、どうやったかわからねえが、あっという間だった。
「お巡りさん!あっちです。喧嘩です助けてください!」と誰かが叫んでな。そいつら慌てて逃げた。…お巡りさんなんか居やしなかった。お嬢さんを、陰ながら助けてくれる人はいたなぁ。
俺に「大丈夫?ごめんね、ありがとう」と言ってくれ、俺に肩を貸してくれた。通りかかった車が医者のところまで連れて行ってくれた。それからは変な連中に絡まれることもなくなった。

お嬢さんには信念があるんだ。正直その深いところはわからない。イザというとき自分の身を守る度胸と技もある。
俺は今でも、夜叉神様がお嬢さんに取りつくことをやめさせてェと思っているが、お嬢さんは姫巫女に誇りみたいなものがある。
俺は、本当は何もできない。お嬢さんの近くにいて、しっぽを振り振りして、吠えまくる番犬だ、でもそれでいいと思っている。
もうすぐお前の嫁だ、お前はすごいねぇ、夜叉姫様も含め、お嬢さんの全部を受け止めて、自分も供儀を務めると言ったそうじゃねえか。本当にすごいよ。お嬢さんのこと、ホント、よろしく頼むわ。これからも俺が、きくちゃんの番犬を続けること、認めてくれ。」と言って頭を下げ、泣きました。

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祭礼が近づくと、3人の重役と菊里そして住職が恒例で打ち合わせをします。
いつもは住職が前回の反省などを踏まえて話を進めるのだが、今回は初めて、最初に菊里さんがが口を開きました。
「私、菊里は夜叉姫様から、騎龍瀬織津媛様の秘儀について、今泉堅哉を供儀として執り行ことを下命されました。重役御三方、長い間、供儀のお役目ご苦労様でした。拝み堂の祭祀は永久に続きます。これからもご支援をよろしくお願いします」と切り出しました。

参加者は、顔色を変えました。住職を覗いて…
「その今泉堅哉とはよそ者ではないのか、騎龍瀬織津媛様と所縁のない者がいきなり祭祀で供儀を司るなど、承知できん」と副住職

「菊里さんは、若い男の肉欲に溺れて狂ってしまわれたようだな」と総代

住職は「騎龍瀬織津媛様の秘儀の儀は、もう町衆で知らんものはない。とうに秘儀ではなくなっとる。ただ、表立って口にせんだけじゃ。世の中も変わった。そろそろ潮時じゃ。御重役の皆さんこそ、姫巫女様の体に溺れて、色ボケしておると陰で誹られていることお分かりなされ」

会計司は「近頃、菊里さんが堅哉なるよそ者と人目もはばからずキスをしたり、昼間から家の外まで嬌声が漏れ、聞こえるそうじゃないですか、嘆かわしい限りです。どうか姫巫女様の常道に立ち返り、私たちとの精進の道にお戻りください。」と言いました。

住職は「先代の姫巫女が年とって、お前様たちの相手がおぼつかなくたった時、年端も行かぬ女子中学生を依り代に仕込んで、ここに至ったのじゃ。今では街を歩けば男が振り向く色香溢れる美人に育ち、気立ても良く、仕事も男勝りだが、爺さんたちの皺腹と使い古したマラで姫巫女の秘儀を務めておられる。お前たちが、一生嫁に行けぬ体にした。もう行かず後家で決まったと思った。そこに突然、若い男が現れたのじゃ、夢中になるのも当然じゃ。姫巫女様は磯貝の一人娘ぞ、磯貝家が絶えてしまえば、だれが寺社の修復をしてくれるのか。良い機会じゃ、夜叉姫様は良く仕えてくれる姫巫女様に本当の女の悦びと思し召しなされて堅哉という若者を与えたのじゃ、それに従うしかなかろう。」と言いました。

総代が「ご住職こそ、元々東堂(=副住職の妻、住職の娘)様が次の姫巫女と決まっていたところを、強引に副住職殿を婿養子と決めて、姫巫女の後継問題をひっくり返したではないか。そもそもの原因は、住職殿ではないか、無責任の極みぞ、偉そうに何をぬかすか!」と怒鳴りました。

話し合いは決裂です。

二度目の打ち合わせは総代と会計司が参加を拒んだため、住職、副住職と菊里、そして新たに堅哉が参加して4人で行いました。
住職は若い人にも親しまれる寺になりたい、拝み堂の舞も祟り神のイメージを振り払い、若い人も集まってくれるような、騎龍瀬織津媛様が人々に安寧と生きる喜びと勇気を授ける仏神であること、そんな祭りに刷新したいと提案しました。
菊里は、それこそ夜叉姫様二柱、騎龍瀬織津媛様の御心と喜びと同意した。副住職は反対し、その後の会合には顔を出さなくなった。住職は祭礼に向けて菊里が微笑みながら舞うカラーのポスターを町中に貼りだしました。

重役が奉納舞への参加を拒んだことから、住職は、先代の姫巫女千代子さんに、堅哉一人で供儀を勤めることから、秘儀も夫婦の営みをご本尊に奉納するものに、改める振り付けを、依頼しました。

「寺に残る古文書を改めて調べたところ、この地では元々、かがい(嬥歌)の習慣があってな、春と秋、満月の夜、城山の頂にあった広場(月見の岩倉(磐座/イワクラ))に舞台を設けて四隅に篝火を置いて、巫女たちが舞い、男たちが歌を歌い、その回りを善男善女が囲み、村の安寧と豊作を祈っておったらしい。興がのると歌いの男たちが巫女たちを襲い次々に交合し、巫女が歓喜の声を上げる。
舞台を見守る男女も興奮し相手かまわず、あるいは示し合わせて夜が白むまで抱き合っていたそうじゃ。
人も花も生きとし生ける全ては雌が雄と交合し、子種を宿し、老い、死を迎え、また子となって成長し、子種を宿し、老い、死を迎える。
命は、魂は、女子の腹で育まれ、産みだされ、育ち、老い、死してまた女子の腹に帰る。女子の腹は赤き血を湛え、男子が発する白い液と混じり合い、混じり合う中で命の種が再生してゆく。
後には武士たちが嬥歌の広場に物見櫓を立てた。かがい(嬥歌)の習わしは、今の拝み堂のあたりに追いやられたようだ。
拝み堂の建立から明治の初めころまでは、姫巫女の夫や家族が拝み堂内で一夜を明かし、村人たちは拝み堂の周辺や、滝つぼのあたりに集まって好みの男と女が契りを交わしておったようじゃ。
拝み堂の秘儀は夫婦の契りの確かなことをご本尊様にご覧いただき、この地の安寧をおすがりするものだった。だから、まあ、元の姿に戻すだけじゃ。元に戻すのがよかろう」と笑った。

菊里はそのような古文書など見たことも聞いたこともなく、疑問に思ったが、喜んでご住職に騙されて、千代子さんの指導のもと、堅哉と舞の練習を重ねた。

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いよいよ
祭礼の当日、二人は早朝に滝行を行い、本堂で東堂様が用意した朝飯をいただき、休息をとったのち、拝み堂に向かう。
奉納舞は午前11時から1時間、拝み堂の奥、本尊騎龍瀬織津媛の仏壇の脇、青龍に、仙台平を着た堅哉が胡坐をかいて控え、舞楽と共に、菊里(姫巫女)は金銀の組みひもで髪を後ろにまとめ、滝行で使う白衣(行衣 ぎょうえ)に緋袴のいで立ち。右手朱雀から静々と堂の中央(麒麟)に滑るように進み、向きを変えて舞台 (白虎)に。
ゆったりとした動きで右手に鈴をもちサラサラと鳴らし続けながら舞台で反時計回りに回り続ける。左手は堅哉が手渡す白扇、般若面、小面を次々と取り上げて舞台中央に戻り、観衆に示すしぐさをする。舞は一時間ほどだが、舞う菊里に向かって若い女どもが手を伸ばし、あるいは手を合わせて首を垂れる。
菊里は舞台の縁先に立膝して笑顔で真言、オン・キリカク・ソワカを唱え、一人ひとりの頭や手のひらの上にサラサラと鈴の音を響かせる。今回からは、午後4時から2回目の奉納舞を執り行った。
1回目も2回目も、いずれも住職の目論見通り、若い女性が増えて、舞終えてもなかなか人波が去らず、好評・盛況で華やかな祭りになった。

その夜の拝み堂での秘儀は、菊里と堅哉の二人だけて執り行われた。江戸期の秘儀の再現を目指した千代子さんの指導で、燈明を消し、全ての格子窓を固く閉め、漆黒の堂内で行うことになった。
二人は袴を取り、本尊に手を合わせ、
「これより、騎龍瀬織津媛様への奉身の儀を行います」と菊里が宣し、共に般若心経と真言を唱えて始まる。

菊里は立ち上がり明かりを消す。真の暗闇の中、手探りで堅哉に向かう。
「姫巫女様」と堅哉が囁き、声の方に菊里が進む。手が堅哉に触れ、手を伝って頭髪を確かめ、顔に触れる。衣の前を開き堅哉の後頭を押さえながら顔に陰部を押し付け「吸え」と言った。堅哉は菊里の両太ももを掴んで繁みを探り、甘い艶めいた匂いをたどる。舌を使って双丘に分け入り、滲み出す愛液をその舌ですくい、舐め取る。そのピチャ、チュル、チュルと微かに響く堂内…菊里の膝が崩れ、股に堅哉の顔を挟んたまま彼を押し潰すように倒れ、陰部を押し付けて腰を振る。
「アッ、アッ、イイ、イイ!」菊里の吐息が堂内に広がる。

「夜叉姫様は後ろから入れと申されている。」と告げると、彼女の双丘を陽根の先で探りながら入り口から、迷うことなくスルリと子宮に当てた。
「あっ!いい、いい、ゆっくりがいい、姫様に伝わるように…押して、引いて…ゆっくり、あっっ暑い…」
崩れ落ちる菊里の腰を支えながら、後ろから体を重ね、帯を解き、帷子を脱がせていった。

手指や皮膚、漏れる吐息や体液のぬめりを頼りに全身を舐め、互いに確かめ、横から突き、前から、後ろと陽根を咥え込んだまま交合を続けた。
堅哉が胡坐して菊里が跨って彼の長い陽根を腹に収め、抱き合い、口を吸い、腰を揺らし、突き上げ、吐息と呻き声を交わす。愛液と精液が菊里からあふれ、滴り、飛び散る。
暗闇は感覚を研ぎ澄ます。気配、手探り、柔らかな肌、密着し、絡まり、時に転寝し、乳首を舐め、吸い、膣を締め、腰を振る。吐息が漏れ、かすかに笑う。

・・・・・

外が白み始めたことを格子窓の僅かな隙間が教えていた。
まだ、薄暗い中、裏戸を開いて手をつなぎ滝つぼに向かい、互いの体に水を差して清めた。堅哉の陽根の先や括れには沢山の小さな傷ができていた。そっと触れながら「痛くない?」と聞いた。
「痛い。でも姫巫女様も血を流しておられた」と返えした。
二人は微笑みながら軽くキスをして、抱き合った。

東堂様(副住職の妻、住職の娘)が岩の上に置いた桐箱を開けて、さらし布を取り、互いの体をぬぐい、畳まれていた作務衣を身につけた。
拝み堂に戻ると、すでに堂内は片付け整理されており、箱膳が二つ置いあった。
二人で経文、真言を唱えて、冷えた粥と汁、香の物を喫し、仏壇を閉じ、施錠して坂道を降りてゆく。歩くことがままならない菊里に堅哉が肩を貸し、寺の駐車場に向かった。高野が待ち受けていた。

拝み堂の奉納舞はタウン誌や地方紙に掲載された。住職が「夫婦舞」と称して紹介したことも好感がもたれたようだ。

翌10月の御開帳の祭礼には屋台が出たり、狭い坂道に人が詰めかけるなど混乱し、急遽、整理券を出して入場制限を行い、境内で鐘突き行事、お守りの授与所を開くなど対応に追われた。御本尊開帳や奉納舞も午前と夕刻に更に午後を加え計3回行って捌いた。
その後奥の院拝み堂への坂道も市の助成を受けて拡幅整備された。
御開帳と奉納舞は回を重ねるごとに参観者が、特に若い女性が増え、姫巫女だけでなく供儀の堅哉にもファンができるなど、華やかなものになった。

供儀の代替わりから3年がたった春の祭祀は、菊里が妊娠5か月のふっくらしたお腹で、白衣の上に千早を羽織り、舞を披露した。
若い女性たちから姫巫女様!と声が飛び、舞が終わると舞台縁に出て、手を伸ばす女性たちにお腹を触らせてあげるなどしたため。興奮して殺到する女性群を堅哉が舞台を飛び降りて整理に任るほどであった。

・・・・・

そして、事件が起きた。その日…
以前から堅哉の卒業制作「奥の院拝み堂のレプリカ」が極めて精緻であり、付属の卒業論文も優秀であることから、F大から寄贈の要請があった。その日は贈呈式と「奥の院拝み堂の構造と祭祀」と題する記念公演会が開かれた。堅哉は奥の院拝み堂の構造特性を講演し、大学からは特任講師の辞令を受けた。妊娠7か月だった菊里は参加をあきらめたが、父、母、高野が出席した。

 記念式典の後、家族と別れた堅哉から大学関係者と会食・懇談をし、夜9時過ぎに駅に着いたと連絡があったものの、いつまでたっても帰ってこなかった。
菊里は不安になって、家族や高野にも相談し、徹夜で街中を探し続けた。

早朝、大川の河原に暴行を受けて倒れている堅哉を通行人が見つけ、警察と消防署に通報した。病院に搬送された堅哉は全身に打撲痕があり、顔は膨れ上がって出血し、頭蓋骨陥没、両腕と肋骨に骨折あり、意識不明、危篤状況だった。
病院に駆けつけた菊里はあまりの無残な夫の姿を目にし、衝撃のあまり意識を失ってその場に倒れ、そのまま破水・出産した。子どもは助からなかった。
菊里は翌朝、病院を抜け出し、東堂様に支えられて拝み堂に籠り、騎龍瀬織津媛に堅哉の回復を祈った。
お籠りして3週間目の夜、堅哉は意識を取り戻し、後遺症もなかった。医師は奇跡だと言った。堅哉は事件前後の記憶がなかった。背後から襲われたと思われ、暗闇での出来事でもあり、犯人が特定できない。駅を出たところまでは防犯カメラで確認できるのだが、それ以降の堅哉の映像がない。人通りもあったはずが、目撃者も現れなかった。

 この事件から1か月後、副住職が水深僅か30はンチの寺の池でおぼれ死んでいるのが見つかった。その翌日、総代が自宅裏山のがけが崩れて岩の下敷きとなって圧死した。同日深夜、会計司が警察に出頭して犯行を自供した。自分も姫巫女に呪い殺されてしまうから、警察に保護してもらおうと思って、出向いたと言った。

 会計司の供述は、あの日、三人の重役達は、料理屋の離れを借り切っていた。自分たちが拝み堂の祭礼から手を引いたにもかかわらず、ますます賑わっていること、堅哉が今日、奥の院拝み堂について大学で表彰され記念公演までしたことは許しがたいなどと、話が盛り上がり。姫巫女をたぶらかした堅哉が諸悪の元だ、天誅を加えよ、懲らしめてやろうとなった。
密かに料理屋の離れを抜け出し、会計司の車で駅に向かい、駅裏で待ち伏せしたところ堅哉が丁度、改札を出てきた。
近くの工事現場から拾ってきた鉄パイプで背後から襲った。ところが頭からの出血が大量で、慌てて車に押し込み、大川の河原に捨てた。その後料理屋の離れに戻り、深夜まで酒を飲んで、帰宅したと供述した。
 警察は、供述と事実関係に矛盾があるものの、全容が明らかになったとして記者会見しテレビや新聞で大きく報道された。

菊里も警察で事情聴取を受けた。姫巫女の祟りの噂、真偽を確かめるためだ。
菊里はご本尊様も夜叉姫様もこの土地を守る仏神で、祭礼の奉納はこの地の平安に感謝を示すものであること、そのご本尊様が祟りなどするわけもなし、ただの偶然の事故であり、私に、祟る力があるとかは、まったく馬鹿々々しことだと説明し「会計司様まで巷の噂に惑わされるとは残念。とはいえ夫の暴行障害事件の犯人が分かったこと、ホッとしている」と語った。 

このニュースに飛びついたのか、祟り神を退散させるとか、菊里に取りついた悪霊を除霊するなどと山伏、祈祷師などと称する者たち、新興宗教の教祖を自称する者たちが拝み堂だけでなく会社や自宅にまで押しかけてくるようになった。
事務所の前で幾つかの祈祷師や除霊のグループが鉢合わせをして騒いだ時、魅寿紀が幼い瑞葉を背中に括り付け、事務所の2階屋根にはしごをかけて登り、棟に跨った。そして、勢いよくホースで水を吹きかけた。
「菊ねぇに悪霊なんて付いてない、拝み堂もあんたたちの年の何倍も昔から、うちらが守ってきているんだ。勝手なこと言うな!馬鹿野郎ども!」と怒鳴った。 ずぶ濡れになって彼らは逃げ出したが、屋根に登った魅寿紀は恐ろしくて降りることができず、社長夫妻に救助された。それ以降、この手の騒ぎは次第に沈静した

姫巫女や供儀がいない祭礼は成り立たないことから御開帳は年に一度、祭礼は「当面、中止」となった。
堅哉はリハビリに励み次第に事件の前のように回復していったが、菊里の方は、もう以前の菊里ではなくなった。疲れやすく、寝込むことが増え、愛液が枯れ、あれほど狂おしく求めていた二人の営みが苦痛になり、生理もなくなった。
医師にも原因はわからなかった。