小田中邸の をんなあるじ その2

今日も席に座ると亜沙子がやってきて「スミちゃん、おはよう!」としゃがみ込んで、私のスカートの辺りをクンクンしている。慣れてきたし、確かにウンザリだが、大ごとにはしたくないので無視。
「うーん、男の臭いのほかにスミちゃんのパンツからいい匂い、グリーン系の香水?…たまらん」と何と! 私のスカートに顔をうずめた。
「いい加減にしなさいよ、美澄さんが恥ずかしがっているでしょ。朝からレズってるんじゃねぇよ!」委員長が腕組みして亜沙子をにらみつける。
小さな声で「ヤバ!」と言って慌てて席に戻って行った。
クラス替えで、ようやく亜沙子とお別れできると思ったのに、同じ特進クラスとは…
結局3年間同じクラスでお付き合い…笑顔で明るい奴なのだが、友達ができないのはエロさ全開・無自覚のせい。かわいそうな奴だ。

スカートの周りを嗅ぎまわるお友達のこと、昨日、お母様に話したら、私の繁みに香水を一滴落としてくれた。
始め強い匂だとおもったけど、登校中に落ち着いてきて、気にならなくなっていた。
亜沙子の臭覚は鋭い。お父様の男の臭い、香水の匂い…本当に嗅ぎ分けられているかも…将来は調香師か…
レズだ! 仲良くしたなら、自分もそっち系と見做される?…クラスの皆さん間違いです。
本当の彼女はブラコン。弟に欲情している…行動が天然だから誤解されて、誰からも相手にされていない。

私は今、小田中家で里子として暮らし、小田中を称している、本名は吉川だ。
前は児童養護施設「ひまわり園」で暮らしていた。3歳で保護された。
母と思しき女性の横で泣いていた。彼女は心筋梗塞で死後半日ほどたっていたという。その女性と一緒の写真は3枚残っている。
父親はわからない。シングルマザーだったのか?

里子は18歳まで、18歳になったら自立する仕組み。この家を出なくてはならない。
養女になれれば、18歳を過ぎても本当の家族のように暮らして行ける…養女になりたい。

養女になることを目指して、お父様、お母様の望み
東栄学園に入学し、特進コースに入れる成績をキープ
三人で睦みあう毎日は、今では私の元気のもとになっている。
だが…
里子という暮らしに慣れてみると
どうもおかしいと思うことがある。
大邸宅に住んで、様々な事業を経営し、社を祀るお山を持ち、駅周辺にマンションやビルもある大金持ちが
わざわざ身寄りがなく、貧しく、施設で暮らしていた私を養女にしたい理由。
たくさん候補者がいたはずでは?

おかしい…
なぜ私なの?
おかしすぎる。
何か、裏があるに違いない…
不安が心に広がると、胸が苦しくなってくる。

そんなある日、市立図書館で手に取った女性週刊誌の見出し。
『性に溺れ、セックス・スレーブになる女たち』
パラパラとページをめくって…あっ、これつて私のこと?!
そうか!
お父様もお母様も私を性の玩具、性奴隷として、快楽を貪るために、あの家に引き取ったのだ。
そう考えると納得がいく。最初の出会いだって、何か不自然。

でも…お父様とお母様の奴隷になったお陰で、施設の、あの無間地獄から救われた。
鳥肌が立つ深夜の部屋の空気の揺れ、先生の手が触れる恐怖、舌や鼻腔に広がる不快な臭い、お股を貫く痛み、美並から敵意に満ちた目…それでも笑顔を作って暮らす屈辱。
孤独の闇…体に染みこんで、体が反応してしまう、忌まわしくも拭い去ることのできない身体の記憶。

お父様とお母様のおかげ
今、同じ行為が、痺れるような快感、絡み合う体から醸し出される香気、慈しみの眼差し、求め求められ応えあう喜びの日々に置き換わった。嫌悪が愛おしさとなって、沁み込んでくる。
日々、五感を通じて新しい悦びが記憶されている。言葉にできない体の記憶が悪い夢を遠ざけて、私を守ってくれている。

学校での生活もご両親に愛された残滓が私の女を満たして、心安らかでいられる。
お屋敷でも、加奈子さんが用意する美味しい食事、広すぎると感じていた赤いカーペットの部屋、少し硬めのベッドにも慣れ、大きな机、大きな書棚、ウォークイン・クロゼットやアクセサリーケースにはまだまだ余裕がある。でも今は、自室のベッドてはなく、お父様とお母様のベッドで一緒に寝ている。その方が心地よいのだ。上品な挨拶、会話、マナー、きめ細やかな心配り、淫らで温かい肌のふれあい…
これが性奴隷というなら、喜んでご主人様に仕え、弄ばれ続けたい。ご主人様の子を孕み、産み育てる…なんて幸せなことか。

お二人に選ばれたことを私の誇りとしよう。
お二人に欠かすことのできない女奴隷。お二人が自慢し、見せびらかしたくなる女奴隷に…余計なことは考えず…そう決心したのだった。       その日は1階の広いリビングで、いくつもの書類にお父様とお母様、私がサインし、弁護士が確認。市役所への申請、児童相談所やひまわり園と取り交わしを行った。私は、緊張しながらも…とうとう、養女になれた!とこみ上げるものがあった。
書類作成の後、加奈子さんがお茶とケーキを大きなワゴンで運んできた…こんな大きなワゴンがあるなんて初めて見た。
この大きすぎる家、広すぎる庭、そこを流れる光、空気、そして匂いも、お二人との交情の後景として私の身体的記憶を育んで、施設での悪夢を後景に追いやってくれている。
この家には鍵がかかったままの開かずの部屋がある。養子として、まだ知らない小田中の扉をご両親が一つ一つ開けてくれる日をゆっくりと待とう。

園長先生や福祉司さん、弁護士先生を前に、お母様は私を理想の養女だ、美人で素直で頑張り屋さんだ。学校では進路指導の先生から特進コースを提案された。特進は医科歯科系大学進学を目指すコースで、内部進学しか考えてなかったから驚いた。それなのに美澄は顔色も変えず「はい」って頷いたなどなど、私の顔が赤くなるほど褒めちぎった。

お父様は「大きな家で二人きりのさびしい生活だったけど美澄ちゃんが来てくれてとても明るくなった。美澄には何度も話していますが、この家は洋館の前庭園や和庭園も含めて、文化財の指定を受けているので、勝手に直すことができない窮屈な家です。維持費も大きい負担だが、行政は口は出すがカネは出さない。そのうえ税金はしっかりとる。
養女になるからには、将来、この家と山林や他の資産の管理ができるようになって、それから妻に代わって、大勢の子どもたちの賑やかな声が家の中に響く日を実現して欲しいと期待しています」と言った。
私はこの日の朝、初めてお父様の子種を受け入れていた、その時の感触が蘇り、下腹部が熱くなって、恥ずかしくて、また顔が赤くなった。

受験問題集に疲れて、医学雑誌を取り出していた時、1階で物が落ちる音とお母様の怒鳴り声がした。お母様の怒鳴る声、初めて聞いた。驚いて立ち上がったところ男がいきなり部屋に入ってきた。
この泥棒!と怒鳴り、今すぐ出ていけ!養子を解消しろ!と叫び、呆然と立ち尽くす私を、押し倒した。
その表情に佐竹先生が蘇り、鳥肌が立った。買ってもらったばかりのブラウスのボタンが飛び、思わず「ギャー」と悲鳴を上げると、急に男の力が抜けて私に覆いかぶさった。
お母様が唇から血が垂らし、左目にも血がにじんみ、頬が腫れ、手には花瓶を握って立っていた。
どこにあったのか、お母様が結束バンドを使って手早く男の手足を縛り、口にはこれも買ってもらったばかりの私のハンカチーフを何枚も詰め込んだ。
スマホを取り出し「あっ、坂口君。今強盗が入ったの、とりあえず取り押さえているからすぐ来て、警備会社も来てくれると思うけど私も娘もケガしてる・・・」
警備会社のガードマンと警官(坂口君=副署長)はほぼ同時に到着し、男は坂口君とその部下に連行された。
この男、小和田俊一さん、お母様の従兄の子だった。

この男は小和田家が養女を迎えたとニューヨークで伝え聞き、怒り激しく飛行機に飛び乗り、お父様の留守を狙って侵入したのだった。
私のせいで小和田俊一さんの相続権が無くなった。
俊一さんは小和田家の唯一の相続人だった。両親の遺産でニューヨークやパリ、東京と気ままに遊んで暮らしていた。しかし、お金も底をついてきて「どうせ俺のモノになるのだ、今から生活費を送ってくれ、財産を切り売りして資金援助してほしい」などと要求してきた。
デカい屋敷なんか面倒だからぶっ壊して、更地にして売り払えとか、貸しビルの家賃を小遣に回してくれ、株の一部でも生前贈与して配当金をよこせなどと要求をエスカレートさせていた。
私を養女に迎えた理由のひとつは、俊一さんの存在だったのか…「性奴隷」は私の考えすぎだったかも…

深夜、お父様が出張先から駆け付けた。
包帯だらけのお顔のお母様と私、二人一度にお父様の胸に飛び込んだからお父様はしりもちをついて、三人共思わず笑ってしまった。深刻な雰囲気が一気に崩れ、改めてギュってして、軽くチュッして、それからお茶の支度を始めた。
可哀そうに、お母様は口が切れ、顔が腫れてチュッができない。それでもソファーに座り、お父様に体を預けてことの顛末を報告している。
お父様に熱いコーヒー、お母様には冷たいコーヒー、ストロー付き…スミちゃん気が利くようになったねと母。
話し終えるとお母様はお父様の首に手を回し、キスをした。
「痛くない?」「痛いけど、スミちゃんだけってずるい」と言ってまたキス。包帯顔で…
お父様から明日は大切な話があるから、早く学校から戻るようにと言われ、早々に就寝。

三人でベッドに入ると一分もせず、お父様は軽いいびきをかいて寝てしまった。
「よほど、お疲れのようね」と母は笑い。「さあ、私たちも、今日は大人しく寝ましょうね」とおっしゃった。
目を瞑った…寝入りばな、突然、佐竹先生に初めて襲われた、あの顔!…キャーといって跳ね起きた。
お母様は「どうしたの、大丈夫よ」と抱きしめて、頭を撫で「可愛い、可愛い」と言ってくれた。
お母様の乳房を探してチュッ、チュッと吸ってから口にくわえ、母様の匂いに包まれると、怯えの心が消えてそのまま寝入ってしまった。

学校から帰宅するとまだ父も母も帰っていなかった。加奈子さんは夕食の準備に取り掛かっていた。自室に荷物を置いて廊下に出るとサンルームの先にある部屋のドアが開いているのが見えた。
その部屋はお父様とお母様の寝室より広かった。写真で見るベルサイユ宮殿の一室みたい、二間続き。家具には白い布が掛けてあり、森さん夫婦が掃除をしていた。

「お帰りなさい、お嬢様」と笑顔。
「初めて、中を見ました」と私
「ご存じなかったか…ここは「柏木の間」と言って柏木家など特別なお客様のために用意された部屋ですよ。もうすぐ掃除を終えますので、すこしお待ちください」と言われた。
私は、加奈子さんのところに行き、台所を手伝いながら「柏木の間」を知っているかと尋ねた。
「よく覚えていないけど、柏木さんってここのお殿様のご子孫の方達ですよね。ずっーと以前、お立ち寄りになった時、昇降機を使ってお食事を届けたことがありますよ」
「えっ、この家に昇降機があったんですか!」
「今でもありますよ。階段の近くの姿見がスライドドアで…奥に…知りませんでしたか?」
私は絶句した。私は今まで何を見ていたのかしら。

その時、丁度、お父様とお母様が帰っていらした。
「遅くなったね、さあ二階で大事な話をするから、そちらに行こう」と言われた。
まだ、掃除が済んでいないという森さん夫妻を遠ざけてお父様は話し始めた。

「確証はなかったから、今まで話さなかったが、スミちゃんの実のお母さん、吉川雅美さんは、東栄の卒業生だった。卒業名簿に同名の人が載っていた。
実は、スミちゃんに会う2年前くらいから彼女の消息を調べていた。その中でスミちゃんにたどり着いた。スミちゃんの父親は柏木葵と言って、僕の友人だ。私たちのキューピッドなんだ。」

ショックだった。私たちの出会いは偶然ではなかった。その上実母と実父のことまでお父様は調べていらした…

「葵は雑誌記者をしていてね。海外の紛争地帯に取材に行くと連絡があって、そのとき婚約したので帰ったら紹介したい。親からは猛烈に反対されているから相談に乗ってほしいと、メールがあった。それっきり現地で行方不明になって、いまも消息が掴めない。婚約者の名前も知らなかったので連絡の取りようもなかった。」
お父様はコーヒーに口を付け、一呼吸おいた。
「その少し前、お母様が子どもを産めない体だと、例の俊一君に伝えたことがあった。真面目な子と思っていたが両親が他界してからは定職に就かず遊んで暮らしていたんだ。私たちの不幸を知って、彼はなんと「ラッキー」と笑った。私たちの面前で…金をせびるし、嘘をつく、良からぬ仲間と付き合うなど、とても当家の行く末を任せられないと判断して、では、どうしようか、色々と話し合っていると突然、お母様がねぇ「いっそ柏木様にお返ししよう」と言い出した。柏木家はこの地の大名家だが、維新の混乱期に破産状態になった。その時、藩の所領の1/3と政庁舎、御殿そして家宝を計1万両で譲り受けた。一介の出入り商人だった小和田家が大地主となったのだ。
お殿様は当家に多額の借金をしていたが、それにしても困っている殿様の足元を見て買い叩いたと、曽御婆様も話していたそうだ。柏木家は没落していったが、この部屋は柏木の殿様が来た時のために用意したものだ。わたしも葵君に連れてこられて、この部屋でお母様と出会い、惚れた弱みで養子になった。思い出の部屋だ。
お返しするのなら柏木葵だ。しかし行方不明だ。だが婚約者がいたはずと行方を捜した。葵は柏木本家とは勘当同然だったのだが、家督を継いだご長男の方から話を聞くことができた。婚約者は秋田にあった旧柏木藩の飛び地から行儀見習いに来ていた吉川雅美さん、東栄女学園に在籍していた。これでぴったりと符合した。

ご長男の話では、当時、葵には取引先からの縁談があった。しかし、葵は彼女の卒業を待って結婚したいと言った。ご両親は飼い犬に手を噛まれた、息子を誑し込んだと雅美さんに激怒。田舎へ追い返した。葵は家族と喧嘩して彼女引き戻し、とりあえず安アパートで同棲を始めたらしい。そこから学園に通学し、卒業時には妊娠していた。それが美澄、君だ。
葵は東南アジアの紛争地域に2週間の予定で出かけた。しかし、彼は戻ってこない。柏木家に連絡しても拒絶。後見人だった叔父も、柏木家の激しい怒りに恐れをなしたのか支援を拒否した。高校を卒業したばかりの身重の彼女は、児童相談所や社協に相談する知恵はなく、もし転居したら帰ってきた葵が困るからと、安アパートで一人で子どもを産み、育てながら帰りを待ったようだ。乳飲み子を抱えながらアルバイト仕事で食いつないでいたが、心身ともに疲れてしまい亡くなった。」

「だが、おかしいことだらけだ。実は昨日、秋田で関係者に取材していた。吉川雅美さんのご両親は森林組合に勤めていて、組合の車に同乗し下山中、雪崩に巻き込まれて死んだという。ご両親の死亡保険金、勤めていた組合の団体生命保険など多額のお金が雅美さんに残ったはず。それがあれば十分に暮らしていけるが…どこに消えたのか…警察副署長の坂口君の口利きで、地元の警察官にも立ち会ってもらった。その結果、少なくとも1億円はあったはずの遺産を柏木本家やお母さんの後見人などが横領していたことが分かった。
後見人だった森林組合長は遺産を流用した悪事を周りに知られ、苦し紛れに元殿様に預かってもらいたいと頼み込んだ。柏木家が結婚に反対した本当の理由も秋田から月20万の仕送りがあり、国から里親委託費用9万円、それに扶養家族控除などあったが、表向き元藩士の哀れな孤児を救って、しかも私立中高一貫校に通わせてあげていると見栄を張って、雅美さんにもそう思い込ませた。実態は下女。児童労働・虐待だ。葵は家名にかけて雅美さんを救い出したい。…柏木家はご長男も含め全員が葵と雅美さんを恐れたのだ。」

お母様が口をはさんだ。
「あなたを探して居所を掴んで、ひまわり園の創設記念日に出かけた。けど、あの時はスミちゃんが葵の子供という確証はなかったの。でもね、あなたを見た瞬間、私たち、あなたに惹かれたの。これは本当よ。帰りの車で私たち、あなたが柏木葵の子でなかったとしても一緒に暮らそうって話した。そう決心した。でも、俊一さんの例もある。二人で、心を込めて、立派に育てようって…ホームステイが決まって一緒に過ごすようになって、あなたを誰にも渡したくないと強く思ったの、抱きしめていると気持ちがとろけそうになった。我慢できなくなって、どんどんエスカレートして、私の代わりにケンちゃんの赤ちゃんを産んでほしいとか、私たちでスミちゃんを独占したくって、ごめんなさい…」と泣いた。

お父様の話、唐突すぎて受け止めきれなかった。
加奈子さんが用意してくれた美味しいはずの夕食ものどを通らなかった。
1人にしてもらいたいと…
初めて1人で風呂に入った。久しぶりに自分の部屋で1人で寝た。
そして薄暗いうちに目が覚めた。
自分のベッドは寂しい。                         お母様とお父様と三人でベッドで睦合う。
体が触れる、舌が這う、汗、匂い、耳、そして声、音、ぬくもり、それら身体的な記憶が重なり安心できる私の居場所。三人が身を寄せ合うあのベッドが私のしとね。
自分のベッドは自分のベッドじゃない…そういえば…私、親を知らない孤児とか里親と里子とか、性奴隷とか…自分で作った言葉の檻に閉じ込もって狭いところしか見てこなかったかも。
お父様は忙しい中、調べてくれ、私の言葉の檻を壊したのだ、お母様だって、私に謝る必要なんてなかったのに…

日の出、庭に出た。
この庭を一人で散歩したことがあっただろうか?
こんなにきれいに手入れされて、名前の知らない花々が日に輝いている。
日本庭園には池もあった!鯉とは違うお魚が泳いでいる。築山に立つとお山がまぢか、山頂にある奥社の窓ガラスが光っている。
…美しい庭も洋館の白い壁も、お社も、森さん夫妻が手入れしている……私は今まで何を見ていたのか…

私は、性奴隷でも成功者トロフィーでもなかった。
ひまわり園の講堂で、一瞬目が合った、あの時、私はお父様とお母様が好きになってしまったのだ。お父様とお母様も同じ気持ちだった…分かり合うまでなんと長い月日がかかったか。しかし、その長い期間が、言葉の主知的・観念的な記憶からはトロトロと漏れ出してしまう膨大な身体の記憶を共有し、深く、私を導いてくれたのだ。
言葉は「神」ではない、言葉に支配されない。常に作られ、意味を取り替えられ、捨てられ続けて、変転し、とどまるところを知らない言葉…身体的記憶を捨象した型枠・記号…それって「空」なのだ…と誰かが言っていた。

築山の頂で、深呼吸した。
お二人の、いや三人の寝室に戻ろう。
「仲間にイーれーて ♬!」ってベッドに潜り込んで、お母様のおっぱいを吸ってやろう、ご機嫌よければお父様を刺激して子種もおねだりしよう。
子種がもらえたら
スカートの中に亜沙子の頭を入れて、挟んで、お父様の匂いを堪能させてやろう
あいつの言葉の檻から亜沙子を解放してやろう、楽になるか、発狂するのか
私の妄想はどんどん膨らんでゆく
まだ、お二人は寝ているはず。足が速くなる。

小田中邸の をんなあるじ その1

ホームステイで初めてその家を訪れた時
お家が古くて(クラッシックで)大きい。西洋のお城みたい。正門から玄関まで植込みの中、白い砂利を敷き詰めた道。玄関前がロータリーになって、円柱2本が2階庇のバルコニーを支えている。洋風と和風の2つの広い庭園とテニスコートが2面あった芝の広場…お庭も広い! 正門(長屋門というらしい)の脇部屋には森さんという老夫婦が住んでいて、建物や庭の手入れをしているとのことだった。
1階は広いロビーの左手に大小2つのリビング、おじちゃんとおばちゃんそれぞれの執務室、右手には会議室と晩餐室、ダイニングルーム、バスルーム、トイレが2か所あった。
2階は、ご夫妻の寝室とその隣が私の部屋。廊下を隔てて向かい側には扉が5つあった。バルコニーに続いてサンルームのような部屋、その先にも大きな扉がある。…で、こんな大きな家にご夫妻と住み込みの森さん夫婦だけで暮らして他の使用人はみんな通いだ。施設育ちの私には別世界だ。                               この家が、私のフレンドホームになってから4年。
今私は、養女として、暮らしている。

私は小田中美澄。以前は吉川美澄だつた。
私が通う東栄女学院は大学付属の中高一貫校。高等部は欠員が出た時だけ年末に募集する仕組みで、その編入試験に合格し、今は2年生。
お嬢様学校と言われているけど親が海外在住とか、東南アジアなどから留学生も多い。その人たちのため、キャンパスの隅に寄宿舎がある。本校生徒とどこかの皇太子様の出会いを記念したプリンセス館という古い洋館もあって、お客様の宿舎やゼミの合宿所として使われているらしい。あと植物園にあるような大きな温室があって熱帯植物がたくさんあるらしい。園芸部員や生物科学専攻の学生はここで育てたバナナを食べる特権があるという噂だ。
キャンパス入り口付近には付属の子ども園があって、教職員や学生の子供も預かってる。クラスメイトのフーちゃんも子どもを預けている。彼女の国では10代前半で子どもを産むのは普通の事らしい。フーちゃんとだけは親しく話ができる。私も、フーちゃんのように、ここに子どもを預けられる日が早く来たらいいなと思っている。

今日も、登校して席に着くや亜沙子が「スミちゃん、おはよう!」とにこやかに近づいてきた。しゃがみ込み、スカートの上で鼻をクンクンさせる。
「うーん、今朝もやってきたな、うらやましい。男の臭いがする。」と呟いて、私を見上げにっこりする。
「朝から妄想か、そんなに欲しいんなら、弟君とヤレ…」と言いかけたら、小さな声で「やめて…」と言って顔を赤らめ、席に戻って行った。
亜沙子は油断ならないやつだ。男の臭いがするというのは嘘だろうけど、いつもドキッとさせられる。勘が鋭い。
学園祭で大きな胸を弟の腕に押し付けて、頬をピンクに染めて見とれて歩いていたから、カマかけてやった。図星だ、ブラコンだ。追い払うには、弱点を突いてやればいいのだ。私に構わないでほしい。

今は小田中家の養女だが、それ以前は児童養護施設「ひまわり園」で暮らしていた。3歳で保護された。その時は死んだ母?の横で泣いていたそうだ。父や母のことは覚えていないが、母との写真が3枚残っている。母はシングルマザーだったのだろう。
園には8つのホームがあって、それぞれ6人暮らしている。私たちのひばりホームは女ばっかり、みんな仲良くて、中でも一番仲良しは美並ちゃん。私より一つ年上だけど、私が美並ちゃんに勉強を教え、美並ちゃんは悪ガキのいじめから私を守ってくれていた。いつも一緒。だからホームの先生たちから二人まとめて「ミミちゃん」と呼ばれていた。
勉強が好き、学習ボランティアの学生さんが来るのが楽しみ。図書委員になって学校でもホームでも本ばっかり読んでいた。
園長先生から社会に出ると学歴や資格は君が生きて行く武器になるよと励ましてくれた。書道や英語の検定などにも挑戦していた。

養家のご夫妻とは「ひまわり園創設記念日」恒例の子どもたちの合唱でステージに立った時、初めて見かけた。
上品な身なり、態度、おばさんのネックレスやイヤリングがキラッと光って、おじさんは高級そうなスーツを着て、福祉司の川口さんとにこやかに何か話していた。
ステージに立っていたら、そのおじさんとの目が合って、にっこりされて、ドッキリ、顔が火照り下を向いてしまった。
お金持ちで幸せそう、きっとこの二人に愛されて幸せな子どもたちがいるのだろう。どんな暮らしなのかしら、分からない。けど羨ましい。そんな一瞬の心の揺らぎをおじさんに見抜かれたように思えたのだ。私は親を知らない。

記念祭から1か月ほどして、児童相談所の福祉司、川口さんがきた。小田中夫妻からフレンドホームを提供したいと申し出があると言われた。フレンドホームとはホームステイ先のことだ。ホームステイや里子などは小さい子が選ばれることが多いのだ。私は一度も経験したことがなかった。それが中学生になって…なぜ?と考えないわけではなかった。
しかし、当時「ひまわり園」が辛くて、少しでも離れていたい私には願ってもない話だった。

面接に現れたのは記念祭のあのおじさんとおばさんだった。高級そうなものを身につけて、いい香りがした。
お姉さんたちのお下がりや寄付された古着の私は恥ずかしく、緊張してしまい何を話したのかも憶えていない。
最後に、川口さんが私に「小田中ご夫妻の印象はどうでしたか」と聞いてきた時、思わず「二人ともめっちゃカッコイイです」と答えてしまったことは覚えている。
私の秘密も話すべきか躊躇していると「夜尿症については、ご夫妻も快く受け入れ、ケアしてくれるとおっしゃっていますよ」と川口さん。      私、固まってしまった。

おばさんは「夫も私も子どもが大好きなのに、子どもの産めない体だと分かって苦しみました。私も40を過ぎ、夫も50歳近く、今更、乳児や幼児を迎えても、成人になるころ還暦を過ぎてしまう、体力に自信が持てません。いっそ10代の子が良いかなと話していて、そんな時、美澄さんを見て、その瞬間にアッこの子だと思いました。
美澄さんの下の子たちへの思いやりのある接し方。記念祭で拝見した書の迷いのない力強く美しい筆遣い、学校の成績はトップクラスで、IQ140。そして美しい。この出会いは奇跡だよねと夫とも申しています。まずはフレンドホームから始めて、美澄さんの意思を尊重しながら、叶うなら養女にと思っています。」
早速、ホームステイが始まった。
初めは月に一度、そのうち毎週、金曜日の夕方から日曜日の夕方まで大きな車で送迎してもらった。

小田中家の私の部屋は2階、隣はおじちゃんとおばちゃんの寝室で、廊下に出なくとも直接ドアで行き来ができる。
私の部屋、二十畳くらいある。最初は広くて落ち着かなかった。深紅のフカフカのカーペット、シャンデリア、本物のマントルピースの上には、おばちゃんのおばあちゃんの若い洋装の肖像画が掲げてある。アンティークな家具や椅子と大きな机、大きな姿見。大きい空っぽの書棚とウォークイン・クロゼット。ダブルベッドにはレースのカーテンが回されている。
用意されていたワンビースドレス、髪飾り、シルクのスベスベの肌着。
姿見に映った私、自分でもびっくりするくらい変身しちゃった。
「気に入ってくれた?サイズがピッタリで良かった」と優しく囁いてくれ、「はい!」って答えたら頬にキスされちゃった。…お姫様になった気分

初めて食べた、和牛ヒレステーキとコンソメスープ、そして楽しいおしゃべり。
私が学校で図書委員をしていることなどを話すとおじちゃんは色々と聞いてくれた。
初めてちゃんとお話しできて、カッコイイだけでなく優しい人と思った。
これって、一家団欒?
おばちゃんと洗いっこするお風呂、スベスベのシルクのパジャマ!
そして、おやすみなさい。
けど、広すぎる部屋、慣れない枕、固めのベッド…なかなか寝付けなくて…気づいたら真新しいパジャマもショーツもシーツまで濡らしてしまった。
初日から…失敗! 恥ずかしい、どうしよう、嫌われる。
フレンドホームはたった一日でお終いとシクシク泣いていると、隣の部屋から二人がきて、おじちゃんがお姫様抱っこでお風呂場まで運んでくれ、おばちゃんが体をきれいに洗ってくれた。
その夜は、私のベッドよりずっと大きなベッドにおばちゃんの良い匂いに包まれて寝た…これって「川の字」ってやつ?初めての経験。
土曜日はお買い物。本やドレスや肌着まで、どっさり買って、大きいリビングでファションショー!もちろんモデルは私!
父母に愛される暮らしって、こんなに楽しく、幸せなものなのだ!と思ってしまった。
日曜日、ひまわり園に帰る。小田中で身に着けていたものを全て脱いで、園から着てきたものに着替える。悲しかった。

実は、私には夜尿症のほかに、もう1つ誰にも言えない、もっと深刻な秘密があった。それは佐竹先生と美並ちゃんからの性的虐待…

先生が宿直する日の午前2時くらい、ドアが開いて廊下の空気とともに先生の臭いが流れてくる。鳥肌が立つ。目をつむって寝たふりをしているとパンツを剥ぎ取られ、お尻の下から痛いものをグイグイ差しこまれ、先生の体がブルブルってして、お腹に白い液体をまき散らされ…そのまま出て行く、それをティシュで拭きとり、パンツとパジャマを穿く、そして泣きながら寝付くのだ。

始まりは、中学生になったばかりの頃、夜中に失敗した下着やシーツを一階の洗濯機に入れ、風呂場でお股とお尻あたりをシャワーしていると、佐竹先生が風呂場をのぞき込んで「美澄か、お漏らししちゃったのか」と、
私が「うん」というと、そのまま宿直室に帰って行った。
部屋に戻って寝付きかけた時、先生がきて、私に覆いかぶさって「ちゃんと洗ったか、見せろ」と
「いゃ!」って抵抗したら低い声で「静かにしろ」
パンパン、頬を何度かぶたれた。怖くて抵抗をやめた。
お股から中にグリグリってものすごく痛いものが入ってきたので泣いた。そうしたら首を絞めて「泣くな、誰にも言うな」って、「言わない、言わない」っていうと出て行った。本当に死ぬかと思った。
朝起きたらシーツやパジャマが血で汚れていた。こっそり、洗濯した。

翌日から、仲良しだったはずの美並ちゃんが、私をにらみ、髪を引っ張り、カッターナイフを頬にピタピタしてきた。人気のないところに連れて行かれた。頭を押さえつけて、美並ちゃんのお股の割れ目を舐めるよう命令する。
抵抗しようとしたらナイフが首筋をたたく。怖くて必死で、一生懸命に舐める。
「ウン、ウン、あっイイ!」とか言って解放された。美並ちゃんのは不潔で臭くって、口の中にも顔の周りにもニオイが沁みついた。ウガイして顔を洗っていたら「てめー」って、ビンタされた。

それからは佐竹先生が宿直の深夜、いつも目を瞑り死んだ気になって痛いのを我慢し、美並ちゃんのスカートの中に頭をいれて吐き気に耐えてお股を舐めている。
そう、ひまわり園に戻ったら、その生活が待っている。
施設ではホームステイ先のある子は、ない子に意地悪されることがある。私も帰れば、もっともっと酷い虐待が待っている。でも…と覚悟を固め、おばちゃんの車に乗った。

たった3日居ない間にホームは、様子が変わっていた。
深夜になっても宿直の佐竹先生は来なかった。
怖いもの見たさで、1階の宿直室の前に行った。中から微かな先生の息遣いと美並ちゃんの「痛い、痛い」という甘ったるい声が聞こえた。
…これって、虐待は終わったということ?…ホッとして力が抜けた。
でも気まぐれで、いつ、あの恐ろしい生活が戻ってくるか…怯える日が始まった。

何度かホームステイをしているうちに、小田中家のお嬢様と施設での怯える暮らしの落差に心が押しつぶされそうになって行った。…施設に戻りたくない、帰りたくない、ずっとここで暮らしたい。

夏休みは2週間の長期ステイがあった。予定の期間が迫り、帰る日が近づいて、耐え切れなくて「帰りたくない」と…
言葉にした途端、激しい思いが噴き出して、涙がボロボロ出てきて、おじちゃんとおばちゃんの前で泣いてしまった。
おばちゃんは背中を撫でながら「施設で何か嫌なことがあるの?」と聞いてくれた。
深夜、佐竹先生に襲われて痛い思いをしていたこと、美並ちゃんの不潔なアソコを無理やり舐めさせられたこと、小田中家のホームステイが始まってからは治まっているけど、いつまた始まるかと思うと恐ろしいこと、悪い夢を見ること、男の人に触れられると鳥肌が立ってしまうようになったことなど、正直に話した。

「私たちの養女になって一緒に暮らす?」とおばちゃんがそっと抱きしめてくれた。
「おじちゃんとおばちゃんの子になりたい。気に入ってもらえるように、何でもいうことを聞きます。ここに居させてください、絶対、ひまわり園に戻りたくないです」と…もう、立っていられない、おばちゃんに抱き留められても涙が止まらない。
おじちゃんはアイスティーを大きなコップで持ってきて、私に差し出した。
ガブガブと飲んで、涙が止まった。
おじちゃんの優しい声が…
「美澄ちゃんは知っていると思うが、養子縁組には家裁審判など手続きや時間もかかる。けど、養育里親の仕組みもある。まずは園長さんや児童相談所を通して養育里親制度を使って、明日からでもここで暮らせるように交渉する。」と言ってくれた。
「そうよね、まず、里子になって、それから、養女になるための、色々条件を整えなくてはならないから、そこは一緒に頑張りましょうね」とおばちゃんも言ってくれた。
「有難うございます。有難うございます。」とまた大泣きした。
「美澄ちゃん、養女でも、里子でも、鳥肌が出るほど男が怖くてはきちんと人とお付き合いできません。養女になってもいっぱい大変なこともあるの。虐待のトラウマなんか跳ね返す強い心を持てるようにならなくては…ウチに来た最初の日にお漏らししたでしょう、おじちゃんに抱っこされてお風呂場に行ったけど、美澄ちゃん鳥肌がたったり、ゾクッとしたりしていた?していなかったでしょ。大丈夫、一緒に頑張りましょうね」
私は、何度も頷いた。
「今、ケンちゃん(おばさんはおじさんを普段「ケンちゃん」と呼んでいる)に触れられると少しだけ鳥肌が立っているでしょう。私たち気づいていたのよ。まずケンちゃんに慣れることから始めようね」と言った。
「美澄ちゃんが触れられるのではなくて、美澄ちゃんからケンちゃんに触れてみるのは、どう?ダメ?やってみる?」
「今ですか?…やってみます」
「ケンちゃん、こっちに来て、手を出して。美澄ちゃんおじちゃんの手の甲に触れてみて」
私は、オズオズと人差し指でおじさんに触れた。ゾクッとしない。おじさんは素敵で、好きなのに、鳥肌が立ってしまって、悲しかったけれど、自分から触れるのなら大丈夫だと分かって、ホッとした。
「その調子、これから少しずつ慣れて行きましょうね」
おじさんの手のひら、肩、髪の毛、頬、そして肩たたきもできた。おじさんは本当に嬉しそうだった。

私たちの意思確認に園長先生が来てくれた。ホームにある私物は宅配便で届けられた。
一度もひまわり園に戻ることなく里子になることができた。その日から、お父様、お母様と呼び、私はスミちゃんと呼ばれることになった。
近所の中学校で校長先生と面接し、夏休み明けから転校できた。
小田中家は中学生でも知っているほど有名らしく、学校で虐められることも、近づいてくる子もなかった。友達はできなかったけど、色々と詮索されたくなかったので、それはそれで良かった。

だけど里子には年齢制限がある。嬉しかったけれど、18歳になったら、私はこの家を出なくてはならない。独りぼっちになってしまう。
養女にならなくては…養女になれば期限付きの家族でなく、ズーっとお父様とお母様と暮らせる。本当の家族のように、それに、二人が亡くなった後はこのお屋敷や財産は全部私のものになるのだ。

私には養女になるしか道はない。でも、何をしたらよいのか        お母様に尋ねた…
「私も、私の母も、祖母も東栄学園の卒園生で、今、私は学園の役員なの。だから、まず、東栄の高等部に入学してほしい。これは譲れない。
それから、ウチは代々女系家族。外から婿養子をもらって繋いできている。ケンちゃんにも養子になってもらったのよ。あなたも小田中家の女になるのなら、家の切り盛り、財産の運用管理もできる女に、それから、赤ちゃん欲しい。小田中の跡取り、できれば女の子。
私は、子どもができない。それが分かった時は真っ暗な気持ちだった。ケンちゃんが外に女を作っても仕方ないと覚悟した。けど、ケンちゃんはそんなことしなかった。私に代わって、スミちゃんの子どもが欲しい、小田中にふさわしい子がほしい。私たちも一緒に育てるから、この家の引き継いて欲しいの。
でもね、当面は、あなたがトラウマを自力で跳ね返す心の強さを養ってほしい。すべてはそれからよね。」

その夜は、ベッドに入ってもなかなか寝付かれなかった。高等部受験は、やってみなくては分からないけど、勉強は好きだし、やるしかない。けど、お母様に代わって赤ちゃんを産むこと…お父様に触れてトラウマを跳ね返すって…お父様にお股を痛くされても、平気になって、妊娠して、赤ちゃんを産むってこと? でも、それって、考えようでは、私に血のつながった本当の家族ができるってことでもある!

父様とお母様の部屋と私の部屋はドア1つでつながっている。
私のX-Day…
あのドアが開くとき「この時をお待ちしていました」とお父様にはっきり言えるように、触れられても鳥肌が立たないように。そういえば、いつの間にか夜尿症はどこかに行ってしまったし…ぐるぐる、同じことを繰り返し考えていたら、いつの間にか寝てしまった。

私のX-Dayはなかなか来なかった。私の勘違いかしら…
ある晩、我慢できなくなった私は、隣室に続くドアに耳を付けて様子を伺ってみた。
お母様の甘い声が聞こえている。夫婦の睦ごとが始まっている。
私はベッドに戻って枕を抱え、またドアの前に立って、小さくドアを開けた。
お母様の「ぁッ、イク、イク!」という声がして、そして静かになった。
「終わった」
私は元気に、努めて明るく、でも小さな声で「仲間にイーれーて♬~」と言いながらドアを開いた。
なんと、お母様がお父様に跨っているではないか! 夫婦の営みはまだ続いていたのだ。
ビックリして動けなくなった。
お母様は前後に腰を振りながらもにこやかに「いらっしゃい」と言った「ベッドの空いている所に座って、少し待っていて…あなた、美澄ちゃんが来てくれました。」と、お父様も私を見ながら頷く。
ベッドの端で眺めていると、お母様は激しく腰を動かしはじめ「アア、アッ、イイ、イク」と言って覘けった。お父様は素早く抱き留め、そのままお母様の上になり、パンパンと激しい音がして、アッとかウッとか呻いた。ゆっくり肉棒を抜いた。濡れていて、光っていて、お風呂で見たより大きい。
…お母様は痛くはないみたい、見つめ合って、ギューっとして、二人とも幸せそう。

私に向かって「いらっしゃい」とお母様の手が伸びた、汗ばんでひんやりした腕にからめとられキスをした。お母様の舌が入ってきた。初めて! 体が熱くなった。
「美並ちゃんにしたように、私を舐めて」と言った。
汗ばんだ繁みは臭くなかった。むしろ良い匂い、クリームチーズみたいな味がして美味しい。夢中で舐めていると、お父様が後ろからゆっくりとお股の中に入ってきた。
鳥肌は立たなかった。はじめ少し痛かったけど、ゆっくりと入って、ゆっくり出ていって、だんだん気持ちよくなって…

朝、目覚めるとお母様が私のお股を撫でていた。
「昨夜はどう、気持ちよかったみたいね、すごく大きな声を出して、私もケンちゃんも興奮したわ。少しはトラウマの置き換えができたかしら、あなたが、本当に私たちを気に入ってくれているか、ずーっと心配だった。でも、昨日、「仲間にイーれーて」って…自分から部屋に来てくれた…あら、また濡れてきている。若いってすごい」と言って私の中に一本,二本と指を入れてきた。
「気持ちいい?ケンちゃんは仕事で朝早く出て行ったから、今は私があなたを独占」
私の敏感な所を刺激しながら、ゆっくり乳首を舐め、お臍から、割れ目に舌を這わせてチュル、チュルって音を立てて体液を啜る。気持ちよすぎて震えが止まらなくなって、股が大きく開く。
幸せで涙があふれてきた。

「スミちゃん、あなたのここ、きれい。あなたのここを使って、彼の子を産んでほしいの。そして一緒に育てましょう、…ううん、今すぐ答えてとは言わない。考えてほしい。子どもが生まれても、もしも好きな男が現れて、その男と一緒になりたいなら、養子縁組は解消してあげる。あなたの気持ちを大切にするから…考えておいてね。」
「お母様、私も舐めたい。いい匂いで美味しい」
私と母はお互いの秘部を舐め合った。母の陰部に顔を埋めて舌を這わしていると美並ちゃんとの悪夢の影がどんどん薄れて行くような気がした。不快な過去とは全く別の世界に私は踏み出せたと思った。

東栄の編入試験に向けた猛勉強が始まった。編入試験を経験している家庭教師も付けてもらった。お母様はお夜食を作ってくれた。
根を詰めて頭がボーッとしたり、気分転換がしたくなったら「仲間にイーれーて」と言ってお父様とお母様のところに押しかけて、30分くらい気持ちよいことをするとすっきり、猛然とやる気がわいてくるのだった。
編入試験は筆記試験と面接。家庭教師の先生が絶対合格できるって言ってくれたけど、3人の枠に10人受験したので緊張した。合格発表の日、私の受験番号、あった!お母様と掲示板の前で抱き合ってピョンピョンしちゃった。

キャメルカラーのブレザー、金のボタン、ブーゲンビリヤを意匠化したエンブレム、深紅のベレー帽。着こなしが難しい制服。お母様に色々とアドバイスしてもらった。
学園では茶道部に入った。勉強もトップクラスをキープできた。ご両親を喜ばせることができた。
友達は作れないし、作ろうとも思わない。中等部からの交友関係に割り込むことは難しかったし、私のプライバシーに触れられたくもなかった。
早く帰って加奈子さんの調理を手伝い学ぶこと。勉強や読書をしながら父母の帰りを待つこと。お帰りなさいのキス、一家団欒の食事、皆でお風呂で洗いっこ。睦みあい、ふれあうこと…
本当の家族は、少し違うかもしれない。
けど確かなことは、もう私は独りぼっちじゃないこと。

物語 奥の院拝み堂  姫巫女 菊里さんの悦び その3

これはフィクションです。あなたがどこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い。

「さっき魅寿紀が来てね。私が余命三か月だって。高野が話したの?」
「いや、誰にも話していないよ」と驚いた表情をする。
「あの子、病院に友達とかいるのかなぁ。菊ねえは余命三か月てのは本当?って聞いてきた。高野にはまだ、誰にも話さないでって頼んであったし、言ってないとは思ったけど、凄いよね、父や母にも堅哉にも話していないのに。
それでね、魅寿紀から高野は大切な菊ちゃんの番犬だったこと、伝えてあげて欲しいって、泣いて頼まれた。」
「・・・」
「ねぇ、高野、昔、私が子ども欲しいから、高野はキクちゃんに協力してて誘惑したこと、憶えている?拒否されたけど…あなたそのこと魅寿紀に話してたのね。それでね、普通、大切なペットならギュッしたり、ナデナデしたり、添い寝したり、体洗ってやったり、餌をあげたりするでしょう。って、普通。だけど菊ねえは高野を可愛がるようなこと何にもしないくせに、いきなり子づくりを迫って…きっと組長はパニックになって、思わず拒否したんだって言うの。
普段からちゃんと可愛がっていたら、八房みたいに…になって、今頃、八匹ぐらいの子沢山になってたかもって…
おかげで私は組長の妻になれて、得したけど、このまま、菊ねえが死んじゃったら、渋谷のハチ公みたいになっちゃう。高野が抜け殻みたいになったら、私と佳蓮はどうすればいいの。だから、死ぬ前に高野は可愛い番犬だったって伝えてほしいって、泣いてね。」

「言われてみれば、高野に何にもしてあげなかったな…もう手遅れかもしれないけど、高野をギュッしてナデナデしたい。さあ、そんなところに立っていないで、私のところに来て、母がシーツを変えたし、さっきシャワーもしたから病人臭さもそんなにないと思うの。ねえ、私の最後のお願いだから、高野をギュさせて。そのジャケット脱いで、こっちに来て。」
「お嬢さん!」といって高野は布団の前に座り込んだ。
菊里さんは、寝たまま腕を伸ばし「来て。お嬢さんじゃなく、菊ちゃんて呼んで!」と言って敷き布団をたたき、高野にしがみついて、布団の中に引き入れた。
「小さいころ、時々一緒に布団にはいってくっ付いたことあったよね。私がほっぺにチュッてするとくすぐったいって逃げたりして」と言って彼の頭を撫でて笑顔を見せた。
「ちょっとだけ添い寝してあげる。高野って、こんなに大きくなってたんだ。昔は同じくらいの背丈だったのに、ほら菊ちゃんて呼んでみて」
「菊ちゃん」
「高野も菊ちゃんにギュッして」と
「菊ちゃん」と言って痩せた体を抱き寄せた。
「高野…もう思い残すことないかも、嬉しい!」といって、キスをした。
浴衣の前をはだけて「ほら、おっぱいにキスしていいよ。前はもっと大きかったけど、もっと豊かな胸のときにこんなことしたかったなぁ」
「高野、私パンツ穿いてないよ。触ってみて、濡れてる?…ほら、遠慮しないで」と言いながら高野の下腹部に手を伸ばした。
「あっ、固くて大きいの、凄い大きい。魅寿紀が自慢していたけど、見せて、ほら、ズボン脱ぎなさいよ」と手をかけた。
「やめてよ菊ちゃん。自分で脱ぐから」と言いながら片手でベルトを外し、もう片手は菊里の双丘の谷間に触れた。菊里は、アン!と声を出した。
「菊ちゃん、菊ちゃん濡れているよ」と言って指を繫みから谷間に忙しく這わせてゆくと菊里は両手で高野の巨根を優しく撫でる。
「わぁ~高野の私の腕より太い、ああすごく硬くなってきたよ、菊ちゃんにも入れて」といって亀頭に唾液を落として舐めた。
「すごい、このままじゃ入らないよ、そこ舐めていいから、いっぱい舐めて」と足を開いた。
「ううっ…痛い、ミシミシって、駄目、やめないで、ゆっくり、ゆっくりとね」と言って、さらに足を大きく開いて両手で高野の根元を握り中に引き込んだ、膣はギリギリっと音立てて広がる。
「菊ちゃん、頭んところ。入ったよ。分かる?もう出ちゃうよ」
「中に出していいから、構わず入れて、高野凄い、いいよ、いいから」
高野がは射精すると陽根はメリメリいいながら奥まで届いた。
「高野、ありがとう、苦しい、嬉しい、でもやっぱり苦しい。抜いて」と言った。
菊里の膣からの出血を凝視する高野に「大丈夫、いつものこと、静脈瘤があるんだ。擦れると血が出る。高野だって、昔見てたでしょ、秘儀のこと、拝み堂で、あのころからずっと、私の血…あなた知らんふりしていたけど…」

二人、布団に横になり天井を見つめ、「こんなに大きいものが入ってきたら大変だと思うけど魅寿紀は大丈夫だったのかな。」

「あいつは、するっと、だつた…」
「そうか、太いし大きいけど、するっとか。私も魅寿紀みたいに一回で妊娠するかも、そうしたら番犬高野の子を八匹くらい産んでいたかもね…本当に、ちょっとの行き違いで、人生が大きく変わるものね。」と言いながら柔らくなった巨根を撫でている。

「菊ちゃん、前から聞きたいことあったけど、きいていいかなぁ」と言いながらキスをする。
「何かしら」と言いながら亀頭を撫でている。
「昔、菊ちゃんの下校時に4,5人に囲まれて、俺がバットでボコボコにされたことあったよね」と言いながら左乳首を舐める。
「そんなことあったねぇ」と高野の袋を握ったり引っぱっている。
「菊ちゃん、デカい奴に腕掴まれそうになった時、逆に前に出て手を掴んで、相手の指一本折っちゃったよね」と言いながら首から襟に唇を這わす。
「あれは、折ったんじゃないよ、脱臼させただけだよ」と答えながら太ももを彼の巨根に圧しつけてスリスリする。
「あんな技、いつの間に覚えてたの?」と菊里の乳房を吸いながら膣とさねに指を這わす。
「ウッ、気持ち良い…あれは、夜叉姫様が教えてくれた通りにしただけよ…高野、そんなことしてちゃ、指に血が付くよ」と言いながら高野の耳を軽く嚙む。
膣に2本指を入れ、親指をさねに這わせながら「いつ?どんな事を教わったの?」
「あの子が私の手を掴もうとしたとき…たしか、左足半歩だして、左手で手の甲をつかんで、右足を踏み込み体重をかけて右手の平で相手の小指をグンと押せ…みたいな、だったか」と言いながら足を開いた。
高野は乳首を舐めながら「でも、一瞬だった」と言いながら、菊里の中に深く指を入れてた。
「夜叉姫様は言葉じゃない何かで、一瞬で伝えてくる。迷わずに理解できて、体が動く、奉納舞も一人舞じゃない、夜叉姫様が一緒に踊る、心が響き合う。あっ、気持ちいい」と巨根を右手で強く握った。

高野は乳首を舐めながら「知らなかった」と言い、菊里に跨ってもう一度、挿入しようとした。

「高野、嬉しいけど、この大きなもの、体が持たないよ。凄いセックス経験させてくれてありがとう。菊ちゃんと呼んでくれてありがとう、これで番犬は卒業だね。何だか、眠くなってきた…もう一度、大きいのに触っていいかなぁ」と言いながら目をつぶった。
高野は菊ちゃんの手を陽根に導いた。
菊里はそれを撫でながら「高野は今から、菊ちゃんの番犬じゃなく、男と女の関係になった。
…これ、さっきより、柔らかいけど、まだ、すごく大きい。
強姦されたって、魅寿紀は言うけど、本当は待ち望んでいた、すごく嬉しかったんだ。
あの子の人生を私が変えてしまったと思っていたけど…これで安心して夜叉姫様の前に行ける。」と言って、微かな寝息を立て始めた。

高野はキッチンでぬる湯をつくり、彼女の双丘の谷から滴る血の混じる体液を慎重に拭き取り、足の指から体全体を丁寧に拭き、清めた。局部からまた滲んできた体液が漏れないように陰唇に沿ってティッシュを当てて、寝具に紛れていた白いショーツを見つけ、はかせた。菊里は高野の成すがままに任せ、口元に笑みを浮かべていた。はだけていた浴衣の前を合わせ、手櫛で髪を整えて布団をかけた。

寝息の漏れる唇に唇を重ね、舌を舌で触れ、部屋を出た。

事務所に戻ると、社長と奥さんには、菊里が今寝付いたばかりなので、堅哉が帰ってくるまでそっとしてやってほしいと伝え、現場に戻った。

その日の堅哉はY大学で、古建築物の特任講師の講義や実技指導をし、夜7時ころ帰宅した。いつもなら起き上がってくる菊里が静かに眠ったままだ。

テーブルには「堅哉様」の表書きの封筒があった。彼女を起こさないように、そっと座って読み始めたとき、菊里が目を開けた。
「あっ、タッちゃん帰ってきていたの、眠っていてごめん。今日ねえ、杉野先生から、私の余命は3か月と言われちゃった。だから遺書書いておいた。もう読んだ?」

「いや、今、読み始めたところ」
「読み終わったら、こっちに来てね」
「分かった」

『堅哉様
先ほど、余命3か月って杉野先生から言われました。多臓器不全でもう長くはないようです。いつ死んでもいいように、書き留めて置いたメモを整理しておきました。
私のこと、あちらに行けば、騎龍瀬織津媛様の仲間に加えていただいけるので、心配しないで。
磯貝建設のこと、磯貝の家も父の後継として、あなたが繋いでほしい。私も、夜叉姫様も応援しているから。
あなたが特任講師になってから私たちの後輩が毎年のように入社してくれている。おかげで父も会社も元気になって、業績も伸びていること感謝し、誇らしく思っています。

高野には、キクちゃんの番犬として人生を犠牲にして支えてくれたことに私が本当に感謝していたとタッちゃんからも伝えてね。さっき、高野を誘惑して10年越しの思いを遂げることができました。これで飼い主と番犬はおしまい。これからは自分の自由に生きてほしいこと、身をもって伝えました。高野は私のために魅寿紀と結婚した。分かっている。私が死んだら一緒に暮らす意味がなくなってしまうかも、魅寿紀と瑞葉のこと、高野は二人を捨てるかもしれない。その時は、父と母と一緒に二人の面倒もお願いします。
高野組のこと、高野が投げだしたならその時はこちらも堅哉が引き継いでやってほしい。

奉納舞と秘儀のこと、絶えることのないように、私に代わる姫巫女を見つけてね。その子を依り代として私もあなたとの逢瀬ができる。

堅哉、私が死んでもあなたが夜叉姫様の供儀であることは変わらない。
供儀の道を踏み外すさないでね、非業の死を与えられた人たちを知っているよね。堅哉を信じている。

最後に、私たちの奥の院拝み堂のこと、拝み堂であなたに出会えたことは、夜叉姫様のご深慮と思っています。
お堂と祭礼が不可分なこと、堅哉にはわかっているよね。堅哉にしかお願いできない。焦ることなく、良き姫巫女を育て、秘儀を重ねて子どもを沢山育てて、磯貝の家と拝み堂を次の世代につないでください。

お願いばかりで、ごめんなさい。体は死を迎えても、私の思いはいつもあなたの側にあります。あなたが読むころは、もうこの世にいないかもしれない。あなたが帰ってきて、私がまだ生きていたら、最後はあなたに抱かれて、死にたい。』

読み終えて、堅哉が見返ると横たわる菊里の顔から血の気が失せており、呼吸は止まっていた。
「菊里!死ぬな!」
菊里に飛びついて、彼女の後頭を支え、腰を抱き留めて「菊里!」と叫んで泣いた。
騒ぎを聞きつけて父や母、魅寿紀と瑞葉も部屋に飛び込んできた。
皆が、呆然、唖然とする中、魅寿紀が病院そして高野へ電話をし、堅哉を叱咤して菊里から引きはがして、菊里を布団に寝かせ、菊里の母を促して共に整容、整髪をし、紅をさした。
まもなく杉野医師と看護師が到着した。高野はどこにいたのか真夜中に戻ってきた。

菊里の一周忌を待って、高野は魅寿紀と瑞葉を磯貝家に預け、単身で宮大工の修行に出ていった。

・・・・・

善卓寺の住職は奥の院拝み堂の祭礼の継続のために東堂様(=住職の娘、副住職の未亡人)を姫巫女にしたいと堅哉と千代子さんに提案してきた。
東堂様は菊里が姫巫女になる前、姫巫女の修養を積んでいる。滝行や奉納舞などを努めることは可能だろうが、すでに40歳を超えており、副住職の未亡人であることから夜叉神様がお認めになるか、拝み堂で秘儀を試行した。夜叉神様は降りてこなかった。とはいえ新たな姫巫女が現れるまで、祭祀を引きつぐ事になった。
魅寿紀も善卓寺に乗り込んで東堂様を罵り、自分が姫巫女になると言い出した。
しかし、何度挑戦しても奉納舞の滑るような足運びができない。むしろ、側で見ていた瑞葉が、滑るような見事な足運びをして見せた。住職と千代子さんは驚き、密かに喜んだ。

堅哉は時々夜叉姫の声を聴こうと拝み堂に籠るようになっていった。滝行をして堂内で寝ていると東堂様の体を通じて、夜叉姫と菊里が降りてくる。歓喜が沸き、心と体の充実を実感できるのだ。

そして、その夜が来た、瑞葉は夜道を一人歩いて拝み堂に来た。秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)が降りてきたのだ。彼女は依り代になった。
東堂様には下山してもらい、堅哉は瑞葉の尿を聖水として飲んだ。
その日、交合には至らなかったが小学4年生の姫巫女が誕生した。

物語 奥の院拝み堂  姫巫女 菊里さんの悦び その2

これはフィクションです。あなたがどこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い。

・・・・・・・・・・・・
格子窓の隙間から明かりがさしてきて、もう奥の院拝み堂の秘儀を終えなくてはなりません。でも今泉堅哉は菊里さんと離れるのが嫌です。彼女の繁みの奥から溢れ出てくる精を拭きとったばかりなのに、彼の長い陽根はすぐに固くなって、心臓の鼓動も激しくなって、喉はカラカラで声が出ません。
菊里さんの目を見詰めても、優しく微笑んでてるだけで心が読めません。
菊里さんは小ぶりな乳房を彼に吸わせながら、傷ついてヒリヒリするはち切れそうな陽根を右掌で撫でています。
彼女の陰毛は彼の精がべったりと貼りつき、双丘のさねの下からティシュで拭き取っても、拭き取っても血交じりの体液が溢れてきます。堅哉がそこに、陽根を押し込もうと体位をかえると、ふいに…

「あの時、作業服姿で日焼け止めなしのスッピンだったのに」と菊里さんが呟きました。
「えっ、あの時…そうでしたか、お嬢さんが何を着ていたのかは心臓がバクバクいって、見とれてしまい覚えていないけど。」
「堅哉君、セックス、本当に、上手よ。優しくゆったりと入ってきて、私の体がとろけてくると、激しくする…すごい快感で震える。ひまわり園の敦子先生ってどんな先生だったの?きっとあなたのこと、深く愛していたのよ、あなただって…」
「先生とは施設の自立支援室で大学合格のお祝だって…それからは入学手続きやアパートの引っ越しとか一緒に出掛けて…でも卒園してからは、旦那さんの佐々木先生が僕に対応してくれるようになって…それからは、二人だけでは会えなくなって…」
「ふーん、私は先代の姫巫女様、お千代様に手ほどきをいただいて、女になった。13歳だった。古くから伝わる男の模型を使って、初めての秘儀の時、本物はどれも模型よりずっと小さかったから怖くはなかった。今、堅哉君と結ばれて、本当のセックスを知った気がする。堅哉君、大きい。いつまでも触れていたい、触れているだけで気持ちよくなる。あなたの子どもが産みたい。迷惑かけない。さあ、もう帰らなくっちゃ」と言い、自ら体を引いて堅哉の陽根を抜きました。陽根は元気にプルンと振るえました。

菊里は父に電話しました。
「おとうさん、私、今拝み堂、堅哉君と一緒よ、これから戻ります。」
「馬鹿野郎!朝っぱらから心配かけやがって、それで上手いこと咥え込めたか」
「お父さん、隣に堅哉君がいるの、そんな言い方しないで。」
「じゃあ、堅哉を出せ」

「堅哉です」
「どうだった、菊里とのセックスは、ちゃんと子種を仕込めたか」
「うー、はい」

「ちよっとお父さん、堅哉君に何を言わせるの。心配しないで沢山もらったから。うん、ご本尊様にもご報告できた。詳しくは戻ってから話すね、お腹すいちゃった。お母さんによろしく」

自宅に戻ると父の姿はなかった。
「今日はふたりとも疲れたろうから仕事は休みなさいと言って出て行ったわよ。」と母が言いました。

・・・・・

拝み堂から朝帰りしてきた菊里と堅哉は、午後の3時を過ぎても起きてきませんでした。
母は心配になり菊里の部屋を覗きます。二人は全裸で狭いベッドに絡み合ったまま寝ています。
堅哉は菊里を横抱きにし、背後から左の乳房を掴み、菊里は左足を堅哉の膝にのせて股を開き、その茂みの奥には黒くて長い陽根が収まっています。
母の気配に目を開けた菊里は、堅哉の顔を引き寄せキスをしました。堅哉は差し込んだ陽根をゆっくりと動かし始めましたが、菊里の母に気づき飛び起きました。「おはようございます」裸で正座して頭を下げます。
菊里が落ち着いた声で「お腹すいちゃった」と言うと母は一言もなく慌てて部屋を出てゆきました。

丁度現場から父が帰ってきました。妻の様子から、ただ事ならぬ何かを感じて、入れ替わりに部屋に入ってきました。
「おっ、子づくり中か」と言いドカッと座り込んだ。「ほら、菊里、起きろ、お前ら、座れ。」と言いました。
 二人は、ノロノロとシャツとパンツをはいて、父の前に正座した。
「堅哉君よお、おめえ、立派なマラしてんなあ。」
「おとうさん、どこ見てんの」と菊里は顔を赤らめた。
「俺はなア、こいつが行かず後家になるとを覚悟していた。なんせ、騎龍瀬織津媛の命(キリュウセオリツヒメノミコト)が憑依して姫巫女になっちまう。普通じゃないからな、男はみんな気味悪がって逃げ出すんだ。幼馴染の高野も腰が引けてよ。
堅哉君よ、菊里が跡取りを産んでくれたら嬉しい。堅哉君が結婚してくれたらもっと嬉しい。だがな、無理はしなくていい、君は若いし、他にいい女が出来たら、素直に言ってくれ、潔く身を引かせるから。子どもができても心配するな。俺たちが付いている。とにかく今はおめえの若い活きのいい子種を沢山仕込んでくれ。夜叉姫様にも喜んでもらったそうじゃねぇか、めでたい。ウナギのかば焼きを買ってきたから、これで精力つけろ、邪魔したな。」と上機嫌で立ち上がりました。

父の公認もあってか、母が部屋に入ってきても、絡み合ったまま「あっ、お母さんありがとう」などと言います。汚れものが散らかったまま、片付けの時間も惜しんで互いを貪る。そんな様子を見たくない母は、二人の留守時を見計らって、部屋の空気を入れ替え、食器や食べ残しを下げ、洗濯をし、掃除をするようになりました。シーツは堅哉の体液と菊里の出血混じりの愛液が沁みつき、キッチンは殆ど使った形跡がありません。
「それにしても」と母は思います、娘の変貌には不快や不安と言うより恐怖を感じます。
男たちの留守を狙って、菊里に話しかけました。
「姫巫女様に言うのもなんなんだけどね、近頃、お前と堅哉さんは朝から晩まで夜叉姫様に取りつかれたみたい。私が見ていても気にしていないし、外にドンドンと響いて賑やかで寝不足になっちまうだねぇ。せめてリビングや事務所でイチャイチャするのはやめてくんないかねぇ」と訴えると「お父さんは、認めてくれているよ」と言い返しました。

「奥の院のお堂で舞と秘儀を奉納したのは13歳だった。奉納舞を初めて見たとき、鳥肌が立った。私も舞ってみたい。踊っている千代子さんと目が合って気持ちが通じたの。舞終えて声をかけてもらって、お母さんはものすごく反対したけど、お千代さんへ稽古に通った。祭礼の本番前に秘儀の手ほどきをお千代さんに授けていただいて、気持ちよかったってお母さんに話したら、お母さん泣いてしまって、あの時は何故泣くのかわからなかったわ。
祭礼で重役さん3人と秘儀を営んで、そのたびにお腹から血が流れ出て、男とのセックスはこういうものだと思ってきた。…でも、それって本当のセックスじゃなかった。奉納の日だけは依り代になって交合するけど、終われば『お疲れさまでした』って仕事仲間の普通のおじさんみたいな関係。
堅哉と愛し合って、あっこれが本当のセックス、こんなに快感、初めて分かったの。」
「だからって、淫乱、男狂いして良いってものじゃないでしょう。周りに示しがつかない。磯貝の娘がこんなんじゃ、世間に顔向けできないのよ。死にたいくらい。絶対やめて。」
「もう少し、聞いて、お母さんにしか話せない。堅哉に触れ、堅哉に触れられるだけで体の奥が熱くなって、中から幸せが泉のように湧いてくるの。拝み堂に行かなくても、この部屋に、夜叉姫様が来てくれて、一緒に堅哉を求めあって、抱き合って、交尾して、心がとろけて、そして突然、堅哉が激しくなって、光が貫いて真っ白になる。
留どめなく、幸せの泉が奥からあふれて、堅哉はそれを吸って、私のさねを舐めて、とろけるような浮遊感が来て、激しい感情が爆発して、また真っ白になるの。                                夜叉姫様と私、一つになって、堅哉を貪る。夜叉姫様は私たちに憑依しているのでない、堅哉も一緒に、性愛の世界にいる。

いまある秘儀ではなく、本当に求めているのはこれだよ…と。
祭礼の奉納舞も秘儀も、本当にご本尊様、キヌ様、ヤエ様が望むものではなかったと分かったの。
いつも初めて…いつも新鮮な気持ちで、外から見ると荒淫の極みに見えるかもしれない。けど、拝み堂と祭礼は分かちがたく一つのもので、磯貝家の誇り。
今、お堂の建物管理者と祭礼の姫巫女を私が兼ねていることも御心、堅哉との出会いも御心。世間がどう思うかなど御心の前には些細な事よ。私たちは今、仏神の望むままにある。分かって、お母さん」

「わからない、分かりたくもない、それってただの淫乱、妄想。お前も堅哉君もが狂ってる。お母さんは恥ずかしくて買い物にも行けない。若い男たちが、お前たちの痴態を覗いたり録画しようとしてうちの周りウロウロしてるんだよ。サカリの付いたケダモノみたいな真似はやめて。窓はしっかり占めて、カーテンもおろして、お前が年上なんだからしっかりして頂戴」と言って、泣きながら部屋の片づけを始めました。

・・・・・
菊里さんは先代の姫巫女千代子さんと住職に奥の院拝み堂の祭礼は堅哉を供儀として行いたいと相談しました。堅哉の希望を容れて、彼の卒業を待って婚姻届けを出すことも約束しました。

ところが、高校に復学した魅寿紀は色々な理由を付けて菊里と堅哉の部屋に顔を出し「お取込み中のところ申し訳ないけど…」と邪魔をしたり、事務所や作業所で「先生」と呼びかけて親しげに体を寄せてきます。
菊里さんには目障りでした。堅哉とは10歳も年上な30過ぎの自分。4歳年下で、無神経で無鉄砲な積極さ、若い肢体の魅寿紀。その上男体験も菊里さんよりはるかに豊富。その上、磯貝の里子になって1年以上男を寄せ付けていないことも怖かった。

菊里は高野に「なんとかならないかな」と呟きました。
高野の行動は素早く、その足で魅寿紀の住む離れに向かい、彼女と強引に関係を結びました。そして、母屋に行き「社長、今日から魅寿紀は俺のアパートで暮らすことにします」と言ったのです。
離れからの物音で、何があったのか察しがついていた社長は「魅寿紀、お前は本当に承知か?」と問いかけました。
「お義父ちゃん、誘惑したの私ではありません。組長がいきなり襲ってきました。びっくりしたけど、すっごく嬉しかった。お義父ちゃんの言いつけを守って我慢して頑張ってたら、組長が俺の女になれって言ってくれてました。もうすぐ里子でなくなるけど、今度は組長の女なんて夢みたいです。捨てられないように頑張る。義母ちゃん、菊ねえもこれからも相談に乗ってください」といって俯いて泣いていた。
その日の夜から、二人は同棲を始め、直ぐに高野の子どもを宿していることが分かりました。大きなおなかを抱えて通学する彼女を高野は会社の軽トラで送迎し、教科書も買い込んで魅寿紀と一緒に勉強を始めました。
美寿紀は女児を産んだ。菊理が名付け親になって瑞葉と命名しました。通学中は学校の相談室にベビーベッドを持ち込み、そこで授乳しながら授業を受けました。そして順調に単位を取得し、卒業時には「努力賞」を校長から手渡されました。

高野は菊里たちと合同結婚式を企画しました。親戚や親兄弟などの縁の薄い堅哉や魅寿紀に配慮し、社内の内輪での結婚式。社員や善卓寺の住職のほかごく内輪でささやかな披露宴パーティーを磯貝工務店のプレカット工場を使って行いました。

堅哉側には親代わりとして、ひまわり学園の園長と課長が出席しました。課長は園長の娘の佐々木敦子。3歳になる下の娘を連れて参加してくれました。
敦子は「堅哉君は園の自慢の卒園生です。よろしくお願いします。」と深々と頭を下げ、堅哉には娘を見せて「この子は堅哉君が卒園した後にできたから、初めてだよね。ほら、沙哉加ご挨拶しなさい」と言って、子どもに挨拶をさせました。

菊里さんは彼女が堅哉に男女の手ほどきをしたことを知っていましたので、この女の子は堅哉の子?とも思いましたが…「先生には、夫が何から何まで親身になって、お世話頂いたと聞いています。末永く、よろしくお願いします。」と深々と頭を下げました。
その日、魅寿紀は高野魅寿紀、堅哉は磯貝堅哉となりました。

話を元に戻します。
磯貝社長は菊里と堅哉を離しておかないと仕事にならず、周りにも迷惑なことから、卒業して結婚するまでは高野組に預けることにして(後に結婚が早まったものの)大学に行かない日は高野組に客分として預かってもらうことにしました。
当初、菊里さんの愛人と言うことで職人達から警戒されたりしましたが、仕事の覚えが早く、先輩を立てるので組仲間とすぐに馴染みました。

そんなある日、高野に誘われて彼のアパートに行きました。高野は一升瓶をテーブルにおいて、茶碗に酒を注ぎ、一気に飲むと…
「お前、お嬢さんが、姫夜叉様に取りつかれた女だって知ってんだろう。恐ろしくなかったのかよ」
「それも含めて俺、お嬢さんが全部好きです。初めて会った時、ヘルメットに作業衣だけど、良い匂いがして、ドキドキしました。メチャ惹かれました。」
「お前、拝み堂の祭礼の夜に、お嬢さんが男たちとやっていることを承知したうえで、言っているのか」

「知ってます。ものすごく妬けるけど、僕も燃える。負けない。このまま死んでもいて思うくらい、攻めて、攻められていたいです。最近では菊里先輩と一緒にいると、夜叉姫様を感じられるようになってきました。僕も供儀として少しは認められたのかなと、うれしく思っています。」

「お前、御開帳の夜の秘儀を覗いたことあるか、俺は覗きに行った。塀を乗り越えて、写真屋の息子の吉岡が泣きながら見てたので、追い出したけどね。格子窓の細い隙間から見た。薄闇の中で、アダルト映画どころじゃねぇ、男が入れ代わり立ち代わり後ろから、激しく突いて、ウォーって…お嬢さんはすぐに俺の目に気づいて、こっちを見つめて目が合って…おっさんのチンポをネットリしゃぶりながら、ニコッと笑いかけてきた。後ろからチンポをパンパンと突っ込まれ…
俺ね、お嬢さん好きで、子どものころから好きで、磯貝工務店に就職したのもお嬢さんがいるからだ…だけどね、無理だ、夜叉姫相手では気が狂っちまう。でね、秘儀の次の日に会ったときは全く普通で、俺のこと気づかなかったみたいで。それ以来、毎日、あの秘儀の夜を妄想してしまう。
お嬢さんが祭祀を司る姫巫女になったとたん、学校中が変な雰囲気になって、出欠確認の時名前を読み上げない教師まで出てきて、俺が文句言うと名前を口にするだけで穢れが移るとか抜かすから「てめー、もう教育者失格だ、センコーやちまえ!」って殴った。職員室にも乗り込んだ。
姫巫女になる前は学校でも人気者だったんだぜ。それが、わざわざお嬢さんの前に来て、ウェ!気味悪い女!とか抜かすやつが出て、追っ払って、お嬢さんを虐める奴から、俺なりに必死に頑張って守ってきた。
高校進学してからも途中仕事サボって校門まで送り、帰りも校門で待ち構えて、ボディガードだ。誰も近づかないように、空手や剣道も齧って…お嬢さんは高校でも友達は一人もできなかった。
でもな、どんなに嫌がらせにあってもお嬢さんはいつも堂々としていた。いつだったか帰り道に4人位の他校の生徒に絡まれてな、さすがに俺もバットでボロボロにやられた。お嬢さんは手を合わせて呪文みたいなものをブツブツ唱えながら、顔色も変えず見ていた。
デカい奴が、卑猥なことを言って、お嬢さんの手を掴もうとしたら、そいつの小指がクニュツと変な向きに曲がって、ギャッで悲鳴を上げてよ、どうやったかわからねえが、あっという間だった。
「お巡りさん!あっちです。喧嘩です助けてください!」と誰かが叫んでな。そいつら慌てて逃げた。…お巡りさんなんか居やしなかった。お嬢さんを、陰ながら助けてくれる人はいたなぁ。
俺に「大丈夫?ごめんね、ありがとう」と言ってくれ、俺に肩を貸してくれた。通りかかった車が医者のところまで連れて行ってくれた。それからは変な連中に絡まれることもなくなった。

お嬢さんには信念があるんだ。正直その深いところはわからない。イザというとき自分の身を守る度胸と技もある。
俺は今でも、夜叉神様がお嬢さんに取りつくことをやめさせてェと思っているが、お嬢さんは姫巫女に誇りみたいなものがある。
俺は、本当は何もできない。お嬢さんの近くにいて、しっぽを振り振りして、吠えまくる番犬だ、でもそれでいいと思っている。
もうすぐお前の嫁だ、お前はすごいねぇ、夜叉姫様も含め、お嬢さんの全部を受け止めて、自分も供儀を務めると言ったそうじゃねえか。本当にすごいよ。お嬢さんのこと、ホント、よろしく頼むわ。これからも俺が、きくちゃんの番犬を続けること、認めてくれ。」と言って頭を下げ、泣きました。

・・・・・

祭礼が近づくと、3人の重役と菊里そして住職が恒例で打ち合わせをします。
いつもは住職が前回の反省などを踏まえて話を進めるのだが、今回は初めて、最初に菊里さんがが口を開きました。
「私、菊里は夜叉姫様から、騎龍瀬織津媛様の秘儀について、今泉堅哉を供儀として執り行ことを下命されました。重役御三方、長い間、供儀のお役目ご苦労様でした。拝み堂の祭祀は永久に続きます。これからもご支援をよろしくお願いします」と切り出しました。

参加者は、顔色を変えました。住職を覗いて…
「その今泉堅哉とはよそ者ではないのか、騎龍瀬織津媛様と所縁のない者がいきなり祭祀で供儀を司るなど、承知できん」と副住職

「菊里さんは、若い男の肉欲に溺れて狂ってしまわれたようだな」と総代

住職は「騎龍瀬織津媛様の秘儀の儀は、もう町衆で知らんものはない。とうに秘儀ではなくなっとる。ただ、表立って口にせんだけじゃ。世の中も変わった。そろそろ潮時じゃ。御重役の皆さんこそ、姫巫女様の体に溺れて、色ボケしておると陰で誹られていることお分かりなされ」

会計司は「近頃、菊里さんが堅哉なるよそ者と人目もはばからずキスをしたり、昼間から家の外まで嬌声が漏れ、聞こえるそうじゃないですか、嘆かわしい限りです。どうか姫巫女様の常道に立ち返り、私たちとの精進の道にお戻りください。」と言いました。

住職は「先代の姫巫女が年とって、お前様たちの相手がおぼつかなくたった時、年端も行かぬ女子中学生を依り代に仕込んで、ここに至ったのじゃ。今では街を歩けば男が振り向く色香溢れる美人に育ち、気立ても良く、仕事も男勝りだが、爺さんたちの皺腹と使い古したマラで姫巫女の秘儀を務めておられる。お前たちが、一生嫁に行けぬ体にした。もう行かず後家で決まったと思った。そこに突然、若い男が現れたのじゃ、夢中になるのも当然じゃ。姫巫女様は磯貝の一人娘ぞ、磯貝家が絶えてしまえば、だれが寺社の修復をしてくれるのか。良い機会じゃ、夜叉姫様は良く仕えてくれる姫巫女様に本当の女の悦びと思し召しなされて堅哉という若者を与えたのじゃ、それに従うしかなかろう。」と言いました。

総代が「ご住職こそ、元々東堂(=副住職の妻、住職の娘)様が次の姫巫女と決まっていたところを、強引に副住職殿を婿養子と決めて、姫巫女の後継問題をひっくり返したではないか。そもそもの原因は、住職殿ではないか、無責任の極みぞ、偉そうに何をぬかすか!」と怒鳴りました。

話し合いは決裂です。

二度目の打ち合わせは総代と会計司が参加を拒んだため、住職、副住職と菊里、そして新たに堅哉が参加して4人で行いました。
住職は若い人にも親しまれる寺になりたい、拝み堂の舞も祟り神のイメージを振り払い、若い人も集まってくれるような、騎龍瀬織津媛様が人々に安寧と生きる喜びと勇気を授ける仏神であること、そんな祭りに刷新したいと提案しました。
菊里は、それこそ夜叉姫様二柱、騎龍瀬織津媛様の御心と喜びと同意した。副住職は反対し、その後の会合には顔を出さなくなった。住職は祭礼に向けて菊里が微笑みながら舞うカラーのポスターを町中に貼りだしました。

重役が奉納舞への参加を拒んだことから、住職は、先代の姫巫女千代子さんに、堅哉一人で供儀を勤めることから、秘儀も夫婦の営みをご本尊に奉納するものに、改める振り付けを、依頼しました。

「寺に残る古文書を改めて調べたところ、この地では元々、かがい(嬥歌)の習慣があってな、春と秋、満月の夜、城山の頂にあった広場(月見の岩倉(磐座/イワクラ))に舞台を設けて四隅に篝火を置いて、巫女たちが舞い、男たちが歌を歌い、その回りを善男善女が囲み、村の安寧と豊作を祈っておったらしい。興がのると歌いの男たちが巫女たちを襲い次々に交合し、巫女が歓喜の声を上げる。
舞台を見守る男女も興奮し相手かまわず、あるいは示し合わせて夜が白むまで抱き合っていたそうじゃ。
人も花も生きとし生ける全ては雌が雄と交合し、子種を宿し、老い、死を迎え、また子となって成長し、子種を宿し、老い、死を迎える。
命は、魂は、女子の腹で育まれ、産みだされ、育ち、老い、死してまた女子の腹に帰る。女子の腹は赤き血を湛え、男子が発する白い液と混じり合い、混じり合う中で命の種が再生してゆく。
後には武士たちが嬥歌の広場に物見櫓を立てた。かがい(嬥歌)の習わしは、今の拝み堂のあたりに追いやられたようだ。
拝み堂の建立から明治の初めころまでは、姫巫女の夫や家族が拝み堂内で一夜を明かし、村人たちは拝み堂の周辺や、滝つぼのあたりに集まって好みの男と女が契りを交わしておったようじゃ。
拝み堂の秘儀は夫婦の契りの確かなことをご本尊様にご覧いただき、この地の安寧をおすがりするものだった。だから、まあ、元の姿に戻すだけじゃ。元に戻すのがよかろう」と笑った。

菊里はそのような古文書など見たことも聞いたこともなく、疑問に思ったが、喜んでご住職に騙されて、千代子さんの指導のもと、堅哉と舞の練習を重ねた。

・・・・・
いよいよ
祭礼の当日、二人は早朝に滝行を行い、本堂で東堂様が用意した朝飯をいただき、休息をとったのち、拝み堂に向かう。
奉納舞は午前11時から1時間、拝み堂の奥、本尊騎龍瀬織津媛の仏壇の脇、青龍に、仙台平を着た堅哉が胡坐をかいて控え、舞楽と共に、菊里(姫巫女)は金銀の組みひもで髪を後ろにまとめ、滝行で使う白衣(行衣 ぎょうえ)に緋袴のいで立ち。右手朱雀から静々と堂の中央(麒麟)に滑るように進み、向きを変えて舞台 (白虎)に。
ゆったりとした動きで右手に鈴をもちサラサラと鳴らし続けながら舞台で反時計回りに回り続ける。左手は堅哉が手渡す白扇、般若面、小面を次々と取り上げて舞台中央に戻り、観衆に示すしぐさをする。舞は一時間ほどだが、舞う菊里に向かって若い女どもが手を伸ばし、あるいは手を合わせて首を垂れる。
菊里は舞台の縁先に立膝して笑顔で真言、オン・キリカク・ソワカを唱え、一人ひとりの頭や手のひらの上にサラサラと鈴の音を響かせる。今回からは、午後4時から2回目の奉納舞を執り行った。
1回目も2回目も、いずれも住職の目論見通り、若い女性が増えて、舞終えてもなかなか人波が去らず、好評・盛況で華やかな祭りになった。

その夜の拝み堂での秘儀は、菊里と堅哉の二人だけて執り行われた。江戸期の秘儀の再現を目指した千代子さんの指導で、燈明を消し、全ての格子窓を固く閉め、漆黒の堂内で行うことになった。
二人は袴を取り、本尊に手を合わせ、
「これより、騎龍瀬織津媛様への奉身の儀を行います」と菊里が宣し、共に般若心経と真言を唱えて始まる。

菊里は立ち上がり明かりを消す。真の暗闇の中、手探りで堅哉に向かう。
「姫巫女様」と堅哉が囁き、声の方に菊里が進む。手が堅哉に触れ、手を伝って頭髪を確かめ、顔に触れる。衣の前を開き堅哉の後頭を押さえながら顔に陰部を押し付け「吸え」と言った。堅哉は菊里の両太ももを掴んで繁みを探り、甘い艶めいた匂いをたどる。舌を使って双丘に分け入り、滲み出す愛液をその舌ですくい、舐め取る。そのピチャ、チュル、チュルと微かに響く堂内…菊里の膝が崩れ、股に堅哉の顔を挟んたまま彼を押し潰すように倒れ、陰部を押し付けて腰を振る。
「アッ、アッ、イイ、イイ!」菊里の吐息が堂内に広がる。

「夜叉姫様は後ろから入れと申されている。」と告げると、彼女の双丘を陽根の先で探りながら入り口から、迷うことなくスルリと子宮に当てた。
「あっ!いい、いい、ゆっくりがいい、姫様に伝わるように…押して、引いて…ゆっくり、あっっ暑い…」
崩れ落ちる菊里の腰を支えながら、後ろから体を重ね、帯を解き、帷子を脱がせていった。

手指や皮膚、漏れる吐息や体液のぬめりを頼りに全身を舐め、互いに確かめ、横から突き、前から、後ろと陽根を咥え込んだまま交合を続けた。
堅哉が胡坐して菊里が跨って彼の長い陽根を腹に収め、抱き合い、口を吸い、腰を揺らし、突き上げ、吐息と呻き声を交わす。愛液と精液が菊里からあふれ、滴り、飛び散る。
暗闇は感覚を研ぎ澄ます。気配、手探り、柔らかな肌、密着し、絡まり、時に転寝し、乳首を舐め、吸い、膣を締め、腰を振る。吐息が漏れ、かすかに笑う。

・・・・・

外が白み始めたことを格子窓の僅かな隙間が教えていた。
まだ、薄暗い中、裏戸を開いて手をつなぎ滝つぼに向かい、互いの体に水を差して清めた。堅哉の陽根の先や括れには沢山の小さな傷ができていた。そっと触れながら「痛くない?」と聞いた。
「痛い。でも姫巫女様も血を流しておられた」と返えした。
二人は微笑みながら軽くキスをして、抱き合った。

東堂様(副住職の妻、住職の娘)が岩の上に置いた桐箱を開けて、さらし布を取り、互いの体をぬぐい、畳まれていた作務衣を身につけた。
拝み堂に戻ると、すでに堂内は片付け整理されており、箱膳が二つ置いあった。
二人で経文、真言を唱えて、冷えた粥と汁、香の物を喫し、仏壇を閉じ、施錠して坂道を降りてゆく。歩くことがままならない菊里に堅哉が肩を貸し、寺の駐車場に向かった。高野が待ち受けていた。

拝み堂の奉納舞はタウン誌や地方紙に掲載された。住職が「夫婦舞」と称して紹介したことも好感がもたれたようだ。

翌10月の御開帳の祭礼には屋台が出たり、狭い坂道に人が詰めかけるなど混乱し、急遽、整理券を出して入場制限を行い、境内で鐘突き行事、お守りの授与所を開くなど対応に追われた。御本尊開帳や奉納舞も午前と夕刻に更に午後を加え計3回行って捌いた。
その後奥の院拝み堂への坂道も市の助成を受けて拡幅整備された。
御開帳と奉納舞は回を重ねるごとに参観者が、特に若い女性が増え、姫巫女だけでなく供儀の堅哉にもファンができるなど、華やかなものになった。

供儀の代替わりから3年がたった春の祭祀は、菊里が妊娠5か月のふっくらしたお腹で、白衣の上に千早を羽織り、舞を披露した。
若い女性たちから姫巫女様!と声が飛び、舞が終わると舞台縁に出て、手を伸ばす女性たちにお腹を触らせてあげるなどしたため。興奮して殺到する女性群を堅哉が舞台を飛び降りて整理に任るほどであった。

・・・・・

そして、事件が起きた。その日…
以前から堅哉の卒業制作「奥の院拝み堂のレプリカ」が極めて精緻であり、付属の卒業論文も優秀であることから、F大から寄贈の要請があった。その日は贈呈式と「奥の院拝み堂の構造と祭祀」と題する記念公演会が開かれた。堅哉は奥の院拝み堂の構造特性を講演し、大学からは特任講師の辞令を受けた。妊娠7か月だった菊里は参加をあきらめたが、父、母、高野が出席した。

 記念式典の後、家族と別れた堅哉から大学関係者と会食・懇談をし、夜9時過ぎに駅に着いたと連絡があったものの、いつまでたっても帰ってこなかった。
菊里は不安になって、家族や高野にも相談し、徹夜で街中を探し続けた。

早朝、大川の河原に暴行を受けて倒れている堅哉を通行人が見つけ、警察と消防署に通報した。病院に搬送された堅哉は全身に打撲痕があり、顔は膨れ上がって出血し、頭蓋骨陥没、両腕と肋骨に骨折あり、意識不明、危篤状況だった。
病院に駆けつけた菊里はあまりの無残な夫の姿を目にし、衝撃のあまり意識を失ってその場に倒れ、そのまま破水・出産した。子どもは助からなかった。
菊里は翌朝、病院を抜け出し、東堂様に支えられて拝み堂に籠り、騎龍瀬織津媛に堅哉の回復を祈った。
お籠りして3週間目の夜、堅哉は意識を取り戻し、後遺症もなかった。医師は奇跡だと言った。堅哉は事件前後の記憶がなかった。背後から襲われたと思われ、暗闇での出来事でもあり、犯人が特定できない。駅を出たところまでは防犯カメラで確認できるのだが、それ以降の堅哉の映像がない。人通りもあったはずが、目撃者も現れなかった。

 この事件から1か月後、副住職が水深僅か30はンチの寺の池でおぼれ死んでいるのが見つかった。その翌日、総代が自宅裏山のがけが崩れて岩の下敷きとなって圧死した。同日深夜、会計司が警察に出頭して犯行を自供した。自分も姫巫女に呪い殺されてしまうから、警察に保護してもらおうと思って、出向いたと言った。

 会計司の供述は、あの日、三人の重役達は、料理屋の離れを借り切っていた。自分たちが拝み堂の祭礼から手を引いたにもかかわらず、ますます賑わっていること、堅哉が今日、奥の院拝み堂について大学で表彰され記念公演までしたことは許しがたいなどと、話が盛り上がり。姫巫女をたぶらかした堅哉が諸悪の元だ、天誅を加えよ、懲らしめてやろうとなった。
密かに料理屋の離れを抜け出し、会計司の車で駅に向かい、駅裏で待ち伏せしたところ堅哉が丁度、改札を出てきた。
近くの工事現場から拾ってきた鉄パイプで背後から襲った。ところが頭からの出血が大量で、慌てて車に押し込み、大川の河原に捨てた。その後料理屋の離れに戻り、深夜まで酒を飲んで、帰宅したと供述した。
 警察は、供述と事実関係に矛盾があるものの、全容が明らかになったとして記者会見しテレビや新聞で大きく報道された。

菊里も警察で事情聴取を受けた。姫巫女の祟りの噂、真偽を確かめるためだ。
菊里はご本尊様も夜叉姫様もこの土地を守る仏神で、祭礼の奉納はこの地の平安に感謝を示すものであること、そのご本尊様が祟りなどするわけもなし、ただの偶然の事故であり、私に、祟る力があるとかは、まったく馬鹿々々しことだと説明し「会計司様まで巷の噂に惑わされるとは残念。とはいえ夫の暴行障害事件の犯人が分かったこと、ホッとしている」と語った。 

このニュースに飛びついたのか、祟り神を退散させるとか、菊里に取りついた悪霊を除霊するなどと山伏、祈祷師などと称する者たち、新興宗教の教祖を自称する者たちが拝み堂だけでなく会社や自宅にまで押しかけてくるようになった。
事務所の前で幾つかの祈祷師や除霊のグループが鉢合わせをして騒いだ時、魅寿紀が幼い瑞葉を背中に括り付け、事務所の2階屋根にはしごをかけて登り、棟に跨った。そして、勢いよくホースで水を吹きかけた。
「菊ねぇに悪霊なんて付いてない、拝み堂もあんたたちの年の何倍も昔から、うちらが守ってきているんだ。勝手なこと言うな!馬鹿野郎ども!」と怒鳴った。 ずぶ濡れになって彼らは逃げ出したが、屋根に登った魅寿紀は恐ろしくて降りることができず、社長夫妻に救助された。それ以降、この手の騒ぎは次第に沈静した

姫巫女や供儀がいない祭礼は成り立たないことから御開帳は年に一度、祭礼は「当面、中止」となった。
堅哉はリハビリに励み次第に事件の前のように回復していったが、菊里の方は、もう以前の菊里ではなくなった。疲れやすく、寝込むことが増え、愛液が枯れ、あれほど狂おしく求めていた二人の営みが苦痛になり、生理もなくなった。
医師にも原因はわからなかった。

物語 奥の院拝み堂の床下  姫巫女 菊里さんの悦び その1

…これはフィクションです。どこかで聞いたようなと思っても、それは勘違い…

4,5年前「ねぇ、高野、私子ども欲しいんだけど、高野はキクちゃんに協力してくれないかなぁ」と誘惑したことがあった。

彼は血相を変えて「俺なんか…太刀打ちできる相手じゃねえ。夜叉姫様に八つ裂きにされちまう。お嬢さんが姫巫女様だ。触れることもできません。まして…俺、昔から「キクちゃんの番犬」だし、番犬がご主人様と…八犬伝の伏姫と八房じゃないよ、無理です。」と言って泣いた。

別に、本当の犬じゃないのに、お前は人間だろ!とも思ったが、確かなことは菊里が高野に振られたということ。で、その時以来、高野はキクちゃんだったのに、お嬢さんに呼び名を変えてしまったのだ。

奥の院拝み堂の夜叉姫に取り憑つかれていると、幼馴染で何でも言うことを聞くはずの高野でさえ怯えるようでは、誰も私と結婚しようとは思わないな。

高野遵とは同じ年で、彼の父親が菊里の父が経営する磯貝工務店の出入り大工だったことから、一緒に遊び、小学校から中学まで(各学年2、3クラスだったが)ズーっと同じクラス。菊里より成績も良くて、分からないところは高野に教わっていた。

工務店のプレカット工場の隅で柱や板などの端財を使って犬小屋(犬は飼っていない)や鳥小屋(鳥は苦手)を一緒に作ったり、高野は機関車や飛行機なども作るなどした。キクちゃん、高野と呼び合い、作業場の職人達と仲良く昼飯を食べたりしていた。
彼は昔から「キクちゃんの番犬」と陰口をたたかれ、菊里の言うことはなんでも聞く、喜んでパシリする、菊里に嫌がらせをする奴らには必ず復讐に来ると思われており、実際その通りだった。

そんな高野が中学3年の秋、突然、高校進学を拒否し、親や担任ともめにもめた末。磯貝工務店に就職した。父親が大怪我で働けなくなったからか、菊里と離れたくなかったからか、彼の言う一流の宮大工を目指したためかは分からない。突然事務所に現れ、菊里の父、磯貝社長に向かって「おっちゃん、俺はここに就職することに決めたからな。四月からよろしく。」と言って、走って帰ったのだった。

それから15年、すっかり父の右腕となり、今じゃ工務店の3つの組のひとつ、高野組の組長だ。菊里さんも父の会社で、住宅の設計、施工を行い、その傍ら周辺地域の寺社の維持管理者として働いている。中でも県重要無形文化財である善卓寺奥の院拝み堂は代々磯貝家が維持管理に努めてきた。誇りだ。

高野は若いが、組長として、腕利きの宮大工として、彼女の仕事を支えてくれている。バーやスナック、居酒屋の女達にももてるようで、特に小料理屋「出雲」の女将は高野の筆おろしをしたとか、余りの巨根で痛かったなどと自慢・吹聴しているし、他にも何人も関係をもったようで、中には菊里との関係に探りを入れてくる女もいた。でも高野は特定の女はいないようだった。だから、菊里が子どもを欲しいと言えば、喜んで尻尾を振って襲ってくるだろうと思い込んでいた。
しかし…


あれは中三の夏の祭祀、深夜、あの時、やっぱり高野が拝み堂の秘儀を覗いていたのだと確信した。菊里を会計司様が後ろから激しく攻め、出血し飛び散っていたとき、両手で総代と副住職の男をしっかり握ってしごきながら「えーえー、いい!いい!もっと、もっと攻めて!」と幼さの残る声で必死に叱咤していたとき、ふと見上げた格子窓の僅かな隙間に目があった。その目、あれはやっぱり高野の目だったのだ。にこっと笑って返したけど、直ぐに消えたあの日のあの目。

拝み堂の祭礼は、前日の滝行から始まり、祭りの当日、秘仏の御開帳、夕刻には真言と奉納舞を参拝者に披露している。参拝者が去り、拝み堂が闇に包まれる頃から秘儀が始まり、外が白みかかるころまで、秘仏の前で執り行う。
供儀の重三役が交代で秘仏の前に座り、般若心経と真言(オン・シラバッタ・ニリウン・ソワカ、オン・キリカク・ソワカ)を唱え、一人は背後から姫巫女の菊里を抱き留め、乳を揉み、口吸いし、一人は姫巫女の菊里の双丘奥のサネを舐めて聖水(尿)を飲み、交合し、精液を巫女の体に振りかける。姫巫女は両手で自身の体にそれを塗り込むのだ。供儀たちは乳揉みと口吸い、読経、性交・射精を順番に執り行うとやがて姫巫女の双丘の奥から血が飛び散って床布を赤く染める。
夜叉姫の依り代である菊里は痛みを忘れて、ひたすら重役たちの陽茎を双丘奥の秘部に導き、交尾し、歓喜を夜叉姫様に捧げる。

菊里は奥の院拝み堂の建物の維持管理者でありながら、奥の院拝み堂の本尊、秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)の依り代となり、昔、この街の安寧と繁栄のために人柱となった足軽弥平の娘キヌ様と遊女ヤエ様の霊を慰める。年に3回、重三役を供儀として奉納舞と秘儀仕切る姫巫女を続けている。中学2年生の13歳からもう16年間になる。

祭礼との出会いは、中学1年生の春。拝み堂を守ることは磯貝家の大切な伝統のはずが、何故か父も母も、祭礼の日は忙しいと言って、一度も連れて行ってくれなかった。だからズーっと気になっていた。その日、一人自転車に乗って姫巫女の舞を見に行き、美しさに引き込まれ、姫巫女の千代子さんと目が合ってその場で弟子入りし、毎週稽古に通った。所作・礼儀作法、滝行や経文・読経、舞仕草の意味、独特の滑るような歩き方など優しく丁寧に教えてくれた。春の祭礼で、二人舞を披露することを目標に、千代子さんの道場に泊まり込みで稽古をし、夜は千代子さんから女の悦びを教えられ、男の模型を互いに挿入しあい、陽根を咥えた時の扱いかた、男の欲情を刺激する声の出し方などもしっかり学んで、当日に臨んだ。

当日、引き合わせされた重役様三方は顔見知りのおじさんんたちだった。
お千代さんと二人舞を終え、読経が始まるとすぐに夜叉姫様が降りてこられた。秘儀では快感はなくて、出血もしたが、痛いとか苦しいとか感じなかったし、大過なく務めることができたとお千代さんに褒められた。

夜叉姫様が菊里の体を通じて交合の悦びを感じていることも伝わってきて、幸せな気持ちになった。そして姫巫女の位をお千代さんから引き継ぎ、修練を重ね、今がある。

拝み堂に行くには善卓寺の池の脇の坂を10分ほど登る。祭礼の日を除くと殆ど人気のない道だが、菊里さんには通いなれた道だ。
善卓寺奥の院拝み堂は前庭を含め周囲を高さ2メートルほどの漆喰の塀に囲われており幅四間(3.6m)の棟門(むねもん)からお堂まで20mほどが広場になっている。門扉は今、壊れているため開けっ放しだが、その代わり入り口には高さ60センチくらいの鉄格子柵が置かれて、立ち入り禁止の札が立っている。

その普段は人気のないはずの拝み堂に、その日は珍しいことに先客がいた。
若い男性で学生のよう、首からカメラをぶら下げ、入り口の鉄格子にへばりつく様にしゃがんで一心にお堂のスケッチをしている。

菊里さんは何気なく、そのスケッチを覗きこむ。緻密で、細かい部分もしっかりと書き込まれている。
そのスケッチを見つめていると、いつもの職人たちの加齢臭や酸っぱい汗臭さとは別の若い男の匂いが鼻をかすめ、思わずクンクンと吸い込んでしまった。
その時、若者も大きく鼻で胸いっぱいに息を吸って、チラリと菊里さんを見て、顔を赤らめ、下を向いたのだ。

小声で耳元に「お上手ね」と伝えると、「えっ!」青年は飛び上がるほど驚いて、菊里さんを見返り、口を開けたまま声が出ません。

「ただ…ここの梁と柱の組方はちょっと違うかな。こっちは抜けない押しつぶされない木組みで、華奢に見えるけど、強風や地震、大雪でも、一度も倒れることなく三百年以上も持ちこたえている。」
「すごい、どうしてそんな細かいところまで知っているんですか」
「それは、このお堂を先祖が立てて、代々守り伝えてきたからよ。今は私が棟梁代理。」
「すごい、女棟梁ですか…ここからは遠すぎて細かなところがわからないです。立ち入り禁止なので、カメラの望遠機能で細かいところを見て書きこんでいたんです。」
「あなた、学生さんですか」
「はい、F大学の建築科3年生です。学生証持っています。見せますか。古建築物に興味があって、休みを利用してあっちこっち出かけています。」
「あら、F大なら後輩ね。大崎先生はお元気ですか。」
「大崎先生の授業は受けたことないのでわからないけど…」
「F大では古建築の講座は組まれていないけど、先生の講義だけ日本と北欧の木造古建築について触れているはず、少なくとも私の時はそうだったわ。どうしてF大?」
「受かったのがF大だけで、大学のことあまり知らなかったから、古い建物について教えているかどうかは考えたことありませんでした。そうか、来年は大崎教授の講義とってみようかなぁ」

「では、この素晴らしいスケッチに応えて、特別内覧させてあげる。本当は部外者立ち入り禁止だけどね。今日は、私の臨時アシスタントと言うことで、ああ内部の撮影、スケッチはだめよ。その代わり、修理箇所を指摘するから、そのスケッチブックに書き留めてくれる?」
「有難うございます。やります。是非」二人は、棟門の柵を開いて堂内に入った。
「庭には草木がありませんねぇ」
「年に二回、除草剤を撒いているの。人手がなくって、騎龍瀬織津媛様には本当に申し訳ないんだけど…」

「拝み堂の本堂の内部には柱が一本もありません。奥の祭壇、須弥壇と言うけど、そこに天井に届く大きな仏壇があるでしょう、その中にご本尊様が置かれています。普段その扉は閉まっている。天井はいわゆる唐笠天井で中心の丸い木組みから和傘のようにたくさんの骨組みが周囲の大壁にむけて放射して、屋根を支えている。」
「お堂の祭礼では舞が奉納されます。堂内は舞を妨げないように柱を立てない造りです。最初から奉納舞をするための建物として作られている。実は、その舞も私が奉納している。建物も祭礼も両方ワタシ。ホント、人手不足。」
菊里さんが天井の骨組みの1本を指さして「これは私が作ったの、高1の時だった。父に鎗鉋かけを褒められてね・・・」などと、一心に説明をしているが、学生さんは菊里さんの顔に見とれて上の空でした。

ふいに「そういえば名前聞いていなかったわね。教えて」
「今泉堅哉(タツヤ)と言います。先輩…棟梁のお名前は?」
「棟梁は私の父よ、私は棟梁代理の磯貝菊里(キクリ)よ。棟梁は私の何倍も知っているわ。会って話を聞いてみる?」

堂内は薄暗く二人は顔を見合わせる。菊里は、青年が自分に欲情していることに気づいた。そして、自分も…青年の放つ男の匂いに少し酔っている。体が若者に引き寄せられていく。…10歳くらいも年下の男が自分を求めてくれている…お堂の中に若い男の匂いが満ちてきている。菊里さんの心臓が高鳴る。

そんな気持ちを振り払うように、彼の視線をそらし「ちゃんとメモしてね」と早口で補修箇所を指さし指摘していった。

「お腹も空いてきたでしょう。一緒にお食事でもいかがですか」
堅哉は「すみません、つい、すみませんでした」と訳の分からないことを口走りながら何度も頷いた。

・・・・・

「そうか、F大か、菊里の後輩だな。建築か、そりゃあいい。で、何で古い建物に興味もつたの?」父は上機嫌だった。
「お世話になっていた先生が僕たちを民家園とか古い寺や神社に連れて行ってくれて、色々説明してくれたりして、自然と興味を持ったのかなと思います」
「うんうん、その先生は良い先生だな。小学校の先生とか?」
「お父さん、そんなプライベートなこと、失礼よ」
「あっ、構わないですよ、棟梁にはたくさん教えてもらったので、僕、ひまわり園という児童養護施設にいたので、そこの理事長先生が寺社や古民家の見学に連れて出してくれました。今、棟梁のお話聞いていて、卒業制作は古社寺の木組み雛形を制作しようかと…」
「えっ、親はどうした。」
「母子家庭だったけど、母の再婚相手と上手く行かなくて、母がイスラムになっちゃって、今は全く連絡なくてイランだかイラクだかそんなところに引っ越したらしいです。」
「そうか、身寄りはないのだな。実はな、俺は児童民生委員をやっていて、今、自宅に女の子を預かっているんだが、高校中退してね、復学したいと言っているんだ。それで施設に預かってもらうべきか児童相談所とも話し合っているが迷っている。君の意見を聞かせてほしい。」
「そうですねぇ、できたら棟梁や奥さん、菊里先輩のような方が里親として支えてくれる方が施設よりずーっとましだと思います。年長の子は馴染むのが大変だし」
「編入試験とかあるらしいから、試験勉強も見てやらなくちゃなんねえ。お前さんまだ現役だから勉強みてやれねぇか。」
「お父さん、そんな言い方、そんなこと、いきなり失礼でしょ」と母。
「そうよ、さっき会ったばかりの人に…遠くて無理でしょう。」と菊里。
「いや、僕、週一なら来れます。ただ、交通費と飯代くらいは欲しいです…」
「よし、昼と晩の飯を付けよう。1回5千円でどうだ」と棟梁が請け負った。
今泉堅哉は毎週土曜日の昼前に来るようになり、菊里は古建築や木の種類と特性、大工道具の使い方を教えた。かれは学業の合間、磯貝工務店の建材プレカット工場を手伝ったり、菊里さんの部屋で曾屋魅寿紀(そやみずき)という少女の勉強を見、社長宅に泊めてもらい日曜日の夕方、F大近くのアパートへ戻っていくようになった。そんな日がひと月ほど過ぎて。磯貝社長が堅哉と菊里を呼び、ご馳走をしてくれることになった。

「堅哉君、菊里もここからF大に通っていた。通えない距離じゃない。引っ越してきてはどうか。離れの一間空いている。アパート代が浮くしよ、なっ、卒業制作だって学校より、うちの作業場を使わせてやるし、寺に掛け合えば拝み堂をモデルにできるぞ。俺も菊里も付いているから捗るし、質の高いものになるぞ。魅寿紀ちゃんの受験準備も熱心に取り組んでくれて、最近あの子の顔つきが変わってきた。実はなあ、菊里が男を連れてきたのはオメェが初めてなんだ、菊里は気に入ったんだよ。俺はうれしかった、その上、建築勉強していて、古い建物が好きで…身寄りもねえんだ。願ったり叶ったりだ。このひと月様子を見て、俺も気に入った。ほら、結構美人で色気もあって、お前さんよりちょっと年食っているが、稼ぎもある。いっそこの家に住み込んで…」

「お父さん、怒るよ、勝手言わないで、」と菊里が大きな声を出すと堅哉は急に手をついて「お願いします」と頭を下げた。
「アパート代が払えてないんです。3か月分溜まって、不動産屋には出てゆくように言われました。学費以外の出費が予想したよりすごく大きくて、奨学金やバイト代では賄いきれなくて、ひまわり園にも相談して学資ローンを組んだけどもう限界なんです。ここに来ているときだけ、ちょっと幸せというかホッとしているというか、不安を忘れる…菊里先輩と何とかなんてとんでもないけど…僕を卒業させてください。卒業したら必ず恩返ししますから」と言って涙をポトポトと落した。交通費の節約のため、週末帰郷する同級生の車に同乗してこの街に落としてもらっていることも告白した。

社長が公園で拾ってきた女の子、曾屋魅寿紀(そやみずき)は17歳。親からの虐待が切っ掛けで家出を繰り返し、高校も無断欠席で退学、公園のトイレに寝泊まりをしていた。社長は児童・民生委員だった経緯から、虐待を受けて逃げ出したときの避難場所に自宅の離れを提供し、保護するなど警察や児童相談所と連携して面倒を見ていた。出歩くと義父に拉致される恐れがあり、作業場で下働きをしたり、建築現場に自転車で出食事を届けるなどの「バイト」をさせ、菊里も母とともに彼女が自立できるよう、日常生活の挨拶やマナー、調理、洗濯、部屋の片づけなど一緒に暮らす中で教え、慕われ、菊ねェと呼ばれていた。しかし、高校の編入試験となると勝手が違った。

引っ越してきた堅哉は菊里の隣室をあてがわれた。互いを仕切る壁は襖に手を加えたもので薄い。

ほぼ毎日約1時間、魅寿紀の部屋に行って勉強を見、菊里は二人に夜食や飲み物を提供した。魅寿紀は堅哉が自分のために(も)引っ越をしてまで教えてくれていると好意を見せるようになった。

堅哉は学力の偏りや近隣の学校では公園暮らしの時を知っている人いることから、すこし離れた地域の単位制の高校への編入することを彼女に勧めた。運転免許を持たない堅哉に代わり、磯貝工務店 高野組組長、高野が幾つかの学校訪問に同行した。さらに高野が関わっている子ども太鼓蓮や子供会のバーベキューに連れ出して人の交流範囲を広げていった。

「俺は、中卒で就職したけど、お前は高校生になって、立派に卒業しろよ」と励ました。魅寿紀は彼を「組長」と呼ぶようになった。ちなみに堅哉は「先生」だ。魅寿紀の成績は急速に良くなり無事、編入試験に合格し、高校生となった。

・・・・・

夏、奥の院拝み堂の祭りを控えて、お堂の縁側と一体化した舞台が前庭にでき、本堂脇から拝み堂への道の整備を進めるなど、社員たちが汗を流す。堅哉もその中にいた。

菊里が善卓寺本堂を借りて、奉納舞のおさらいをしていると、近所の人たちが前庭に集まってくる。その中にも堅哉の姿があった。

祭り当日は秘仏の公開が行われ、須弥壇の仏壇は手向けの白百合でいっぱいになった。
奉納舞は夕方4時から始まる。昔は楽師が奏でた舞楽だが、今はラジカセだ。舞台の南北西に重役が座る中、東(青龍)たる堂奥から金銀の組みひもで髪を後ろにまとめた菊里が滝行で使う白衣(行衣 ぎょうえ)に緋袴の姿で、ゆっくりと滑るように舞台中央に出てゆく。右手に鈴をもちサラサラと鳴らし続けながら、静かに回り続ける。左手には介添えの重三役が白扇、般若面、小面を差し出す。それを次々と取り上げて、観衆に示すしぐさをし、介添え役に戻す。その繰り返しなのだが、観衆は見とれて声も出ない。

舞は一時間ほどで終わり、読経と真言が響く中、菊里は奥、須弥壇の裏手へと去って行く。日が傾き始める中、観衆は引き、社長や堅哉、高野が外付けの舞台を手早く解体し、庭を掃除し、門は閉ざされた。菊里と重役3人の秘儀が始まる。

翌夕刻、拝み堂での秘儀を務め、戻ってきた菊里には、祭祀をやり遂げたいつもの高揚感がなく、感じたことのない疲労で、そのまま3日間寝込んでしまった。

引っ越してきた堅哉(タツヤ)の部屋と菊里の部屋の薄い壁からはお互いの微かな物音が聞こえてしまう。祭祀を終えてからは神経が研ぎ澄まされ、深夜、隣のかすかな気配を感じて浅い眠りから目覚め、心臓が高鳴り、もう寝付けない。菊里は堅哉が忍んでくることを妄想して、さねの火照りを指で慰めた。
そんな日が1週間ほど続いて、思い立って、真夜中に軽トラックで拝み堂に向かい、お堂の裏手にある小さな滝に打たれて、心と体を鎮め、ようやく寝付く日が続いた。
満月に近いある夜、いつものように小走りに奥の院に向かい、拝み堂で滝行衣に着替え、獣道を通り滝つぼの池に足を入れた。冷たい感触にホッとして、それから行衣を脱ぎ、岸辺の岩の上に畳み置き、池の中ほどに進み手桶で水を汲んでは体にかけていると、背後に人の気配を感じた。振り向いて、岸辺に黒く人影を認め、「キャ!」と叫んだが、影は固まったままだった。菊里は堅哉だと確信した。
「堅哉君?堅哉君でしょ、付けてきたのね。そんなところにいないで、もっとこっちに、近くに来なさい」。
堅哉は「はい」と答えて滝つぼの池の畔に来た。
「いけない子ねぇ、こっそり覗いていたのね。この責任取りなさいよ。さあ一緒に滝行して心身を鎮めましょう」と言いながら胸と下腹部を手で隠し岸辺に近づいた。
笑顔を作って「ほら、あなたも裸になって、私だけなんてずるいわ。さあ脱いで、脱いで」といってズボンを脱がせ、パンツに手をかけた。菊里はさりげなく手の甲で若い男の陽根に触れた。上を向いて固く起立した陽根は初めてだった。そのうえ、重三役より、お千代さんの模型よりも明らかに長い。

平静を装い彼の手を引いて滝口に導いた。
「じゃあ堅哉君も一緒に滝行なさい。私をまねて、合掌して…」
堅哉は直立した陽柱を手で覆いながら滝の下に向かった。しかし、滝に打たれて、1分もしないうちに、様子がおかしくなり、倒れかかった。
「堅哉君、早く上がろう、急いで!」と菊里が叫んで手を引いた。

岸にたどり着いて冷え切った堅哉を抱き留め「ごめんね、ごめんね」と言い、濡れ髪を滝行衣でなで拭き、体を密着させ、紫色の唇を吸った。冷え切って縮んでしまったペニスを握り、温め。「ごめんね、ごめんね」と耳元で囁いた。
やがて堅哉の震えが収まり、血の気が戻って、ペニスが硬くなると菊里は手早く中に導いたが、双丘の奥のさねに射精してしまった。菊里は重ねた唇のまま「大丈夫、大丈夫」と言い陽柱を優しくなでていると再び固くなった陽根が菊里に押し入ってきた。「そこ、そこ、そのまま押して」囁いた。
菊里の体の中に迷わずするりと入り、すぐに射精した。初めてじゃなかった、女の体をよく知っている。驚きと、手ほどきをした女の存在を感じ、すこしの嫉妬と、安堵感が交錯した。

「ごめん」
「ううん、私よ、私が望んだの、ずーっとあなたが欲しかった。」
岩の上に置いてあった晒し布の滝行衣を差し出して「ほら、拭かせてあげる。丁寧に隅々まで水を取るのよ。おっぱいも、下の割れ目も。軽くポンポンと押すように、手で触ってもいいのよ、胸も下も…」
堅哉は「は、はい」と何度も頷いて、丁寧に水を取って、乳房、下腹部に触れ、太ももを流れ落ちる自分の精を指で確かめている。
菊里も彼の体、とりわけ陽根、袋、その周りを丁寧に拭いた。彼のペニスは再び固く、長く上を向いた。「これぞ、陽根!」と心でつぶやいた。
二人は裸のまま手をつないで奥の院拝み堂の裏木戸に向かった。
真っ暗な堂内を手探りで入って行き、菊里がランタンを灯した。
奥から敷き布を出してきて、須弥壇の前に敷き、寒いでしょう。これを着て」と新しい滝行衣を取り出して堅哉に掛け「座布団がないから敷布に座りましょう」と促した。待ちきれない彼は、菊里を抱きしめ押し倒してきた。
「待って!ダメ!ちゃんと座って!」と抵抗した。

堅哉は菊里に馬乗りになり肩を抑えた。
「お嬢さん、初めて会った日、白百合の強い匂いがして…百合の化身かと思いました。眩しくって、艶めかしくって、抱きしめたい衝動を抑えるのに必死でした。今、滝壺で受け入れてくれた。僕は我慢できない。もっともっと…お嬢さん」と堅哉の呼気が菊里の唇にかかる。
「離して、ここは夜叉神様のお住まい、お祀りのところよ。私も堅哉君に初めて会った時から、惹かれた、好き、いくらでも好きにしていいけど、でも、ここではだめ、落ち着いて話を聞いて。」といって、堅哉が手を緩めた隙に体を起こし、須弥壇の仏壇に向けて手を合わせ「堅哉君も一緒に拝んで」と言った。

「以前も説明しましたが、ここ奥の院拝み堂のご本尊は、秘仏騎龍瀬織津媛の命(ヒブツキリュウセオリツヒメノミコト)で、私はその依り代、巫女です。それからこの床下には愛する人と結ばれることなく人柱となった悲しい女性二柱の骨が再納されている。お堂全体が二柱の供養塔、お墓でもある。というか、お二人の供養のために騎龍瀬織津媛の命が建立されました。お顔正面は観音菩薩様、左手には足軽弥平の娘女キヌ様、右手には遊女ヤエ様の顔の写しが彫り込まれており、三位一体のお姿を夜叉姫様とも言います。一般に騎龍観音様は龍の上に座っていたり、立っていたりしているけど、拝み堂のご本尊は龍が腰に巻き付き、交合しているとか一体となって当地を守ることを表しているとか言われています。」
「この奥の院で男と女が一つになると、女は夜叉姫様が憑依した巫女に、男はその巫女に仕える供犠つまり夜叉姫様への捧げものの生贄になる。堅哉君も一生、私から離れられなくなって、私の舞を支え、秘儀に励み、悦楽を夜叉姫様に捧げることになる。私、分かる。すでにあなたは気に入られている。堅哉君はまだ若いし、これからたくさんの素敵な女性と出会うはず。だから、ここで滝つぼの続きをしてはいけない。帰ってからね、君の人生を縛りたくないの」

「僕は、菊里先輩となら地獄でも喜んで付いてゆく。だから秘儀も、舞の支えにも僕がなりたい…先輩があの爺さんたちと秘儀をやるなんて、気が狂いそうです。初めて会ったあの時から、ずーと好きだった。引っ越して、隣同士になって、微かな気配が伝わってくると胸が苦しく切なくなって、眠れませんでした。」

「私、夜叉姫様の依り代だよ、あなたも巻き添えになるのよ。覚悟できているの?」堅哉はしっかりと頷いた。

二人は本尊、騎龍瀬織津媛に手を合わせた。
「堅哉君、これから騎龍瀬織津媛様の秘儀を行うけど、この秘儀を共にしたら後へは引けないよ。ほんとうにいいのね。今ならまだ…」
「出会ったのがこの拝み堂。運命。菊里さんと一緒なら生贄だって喜んで引き受けます。これ僕の望みです。」と答えた。

「始めます」と言って菊里が読経し、隣で堅哉は手を合わせた。
菊里は姫巫女になった。
読経を終えて立ち上がり、堅哉に向かって白衣の前を開き陰部を堅哉に押し付け「吸え」と言った。堅哉は菊里の太ももを掴んで舌を使って双丘を分け入り、滴る尿を聖水として飲む。菊里は堅哉の顔を太ももで押さえて、そのまま床に押し倒して、陰部を口元に押し付けて腰を振った。

「夜叉姫様が後ろから入れよと申されている。尻穴の下に…指で確かめて、堅哉の精が流れ出ている…そこそこ!あっ、入った、いい、いい、ゆっくり、ゆつくり、夜叉姫様にも伝わるように…出して、出して、違う、外さないで、中に出して…ゆっくり、あっっ気持ちいい…」
堅哉は暗い堂内でも、菊里の説明はいらないほど手慣れて、迷わず膣に挿入してきた。彼の長い陽根を咥え込んだまま、前に後ろに横に体位を変えながら堅哉を射精に導いた。
「堅哉君、とても上手ね。男と女の事、良い人に教わったね。」
「卒園前に、園の先生が変な女に騙されないようにと言って教えてくれました。」
「でも、10箇も年上のおばさんに捕まっちゃったね。私は、その方に感謝だわ、夜叉姫様もお前様のこと大層気に入られたようで、温かい御心が私の中に広がってくるの。今後の秘儀のこと、お前様と執り行いたいが、覚悟はよいですか。」
「はい」
「ならば、私からあふれ出ている、お前様の精を拭き取りなさい」と須弥壇の方に顔を向け、ティッシュボックスを示した。あらかじめ菊里が置いておいたのだ。菊里の太ももを伝う桃色の精を拭き取りながら「お嬢さん、血が!」と小さく叫んだ。
「お嬢さんではなく、姫巫女と言え」と言って、にっこり笑い、出血については答えず、彼の顔をギュッと抱きしめた。

お堂の格子窓の隙間から明かりがさし、外はすっかり明るくなっていることに気づき、二人は我に返った。

物語 [ルミカが公園でおじさんに拾われ捨てられ再会する件]  

…これは、フィクションです、どこかで似たようなことがあったとしてもそれはあなたの勘違い…

冴子がアポも取らずに訪ねてきた。でも、要件はあのことだ。分かっている。ドアを開け入るなり、

「私、この年になって赤ん坊の弟とか妹なんかいらないんだけど…」

「・・・」

「年下の義理の母なんて、絶対嫌なんだけど・・・」

「大丈夫です。大丈夫、妊娠なんてしていませんから。それに、美人の奥様がいらっしゃるのに、ブスの私が、追い出して後釜に座る気なんて恐れ多い、とんでもないことです。大丈夫です。」

「庶務課の厚子があんたの母子手帳見ちゃったんだけど、顔を真っ赤にして報告に来たわ」
「なんかの、勘違いですよ。私、妊娠なんてしていないし」

「先月位、昼休みにトイレでゲーゲーやっていたのを経理の正美さんが見たって。しらばっくれないで、お願いだから堕してよ。」

「妊娠なんかしていません。社長とはそんな関係じゃないって言っているでしょう」

「じゃ、どんな関係なのよ」

「だから、冴子取締役から命令された配線図の案を見てもらったり、新素材や部品の特性を教えてもらったり、組み合わせのアイディアもらったり…社長はそういう話大好きで、目がキラキラするんですよ。少年ですよ、少年。知ってますよねぇ。」

「そのあとは…」

「だからそのあとはビール飲んで、ポテトスナックやら得意のカップ焼そばとか一緒に食べてると、眠くなるからそのまま寝ちゃうんです。社長も年だし清らかなもんです。心配ないです。」

「あんたの、ウソ話聞きに来たんじゃないの。何よ、ここに吊るしてあるエロい下着。こんなランジェリー付けてるくせに、私が付いて行ってあげるから、早い方がいい、明日朝、一緒に産婦人科に行こうよ」

「しつこいですねぇ、冴子さんみたいな美人には分からないかもしれないけど、不細工な女はせめてエロい下着でもつけていないと男に捨てられちゃうかもしれないって、いつも不安なんです。」と言いながら急いで洗濯物をハンガーから外してタンスにしまいだした。

「私と社長のこと認めてくれて、とても感謝してるんですよ。父親の恋人なんて本当は不愉快なのに、そのうえ年下で、部下のくせに…それなのに、優しく厳しく指導してくれて、おかげで先輩たちに虐められることもなく、一応エンジニアとしても認めてもらえました。

パートから正社員にもしてもらえて、給料も増えました。ボロアパートからここに引っ越してこれました。

でもね、万一妊娠していたとしても私の子どもですからね。社長の子どもだっていう証拠はないでしょ。冴子さんの妹っていう証拠もないし、私だけの子どもです。心配しないでください。」

「ふーん、女の子なんだ。社長はあんたのこと公園で拾ってきたって言ってたけど…それってルミカちゃん、まだ中学生だったんじゃない。お爺様が死んで、それで母が家を飛び出してそのままフランスで画家と同棲始めて、私も何だか分からないまま一緒にパリに連れられて行ってしまったから、お父様、大変なショックで…辞任するって…そんな心の隙をついて、あなた、自分の父親より年上の男を手玉に取るなんて、大した中坊よねぇ」

「心の隙に割り込んだって話ですね。野良猫みたいに私が…何度も聞きました。ちょつと違うと思うけど…社長は哀れな可愛い子猫を拾ったのに、すぐポイ捨てしたんですよ。もっといい猫になったら飼ってやってもいいみたいなひどいこと言って。だから私だって、頑張って、頑張ったんです。今でもカツサンドが美味しいと涙が出てくる」

「美人で、一流大学出て、仕事はスマートで、みんなに好かれて、出戻りだけど男たちがうんざりするほど言い寄ってくる冴子さんには分かりませんよ。とにかく今日は帰ってください。今日は社長も来てくれないから、1人飯してビール飲まなくちゃならないし、出張先に電話して社長に女が近寄ってきていないか探りをいれなきゃいけないし、冴子取締役から命令された回路設計のコンセプトも明日までにコスパを計算してパワポにしなくちゃならないので忙しいのです。妊娠していたら嬉しそうに報告に行きますって、残念ながらそこまで行ってません。もう、おかえりください。」

そう言って何度もぺこぺこと頭を下げながら、いきなり背伸びして下唇を軽く何度か吸って、冴子の首に手をまわし口を塞いだ。彼女の弱点は分かっている、どんなに気が昂っていても、ルミカに舌を入れられると力が抜けて大人しくなる。

そのまま玄関の方に押し戻し、手を放して「明日ね」というと「ルミカ、あなたのこと嫌いじゃないのよ、でも、これだけは譲れない。分かってね。」と言って帰った。

冴子常務はひどいファザコンだけど、社長とは本当の親子ではない。パリに住む画家が彼女の父親だ。社長も冴子さんも騙されていた。苦しんでいることはよくわかっているつもりだ。もし、社長と血のつながった子が生まれて、それが女の子なら、その子に父の気持ちが行ってしまうと不安なのかもしれない。

常務と私と社長とみんな仲良く愛しあえるなら、こんなプレッシャーなくなるのに、なにか作戦考えなくっちゃ…そうだ、私たちの隠れ家に常務にも来てもらってぇ…等と考えをめぐらすルミカだった。

・・・・・

蒸し暑い!あの夕方。
家を飛び出して、駅の方歩きながら、母から来たメールを開いたとき
…いろいろ誤解があったみたいだけど、とにかく不二夫さんに暴力、怪我をさせたのはいけない。あなたらしくない。早く家にもどってきなさい。そして謝りなさい。…
あの時、駅前で「お母さん助けて!」ってスマホしたら返ってきた返信メールは忘れられない。涙が止まらなかった。母はあの男の方が大事なんだ。私はもう捨てられたんだとはっきりわかった。スマホの電源を切って、そのまま電車に飛び乗って東京に向かった。

繁華街からすこし外れた公園に来て4日目だった。お腹も空いたし、ザキミちゃんとコンビニでパンを買って二人で食べたら、残りは60円。ザキミちゃんはゼロ円。

もうやるっきゃないし、でもドキドキして声が出ない。今度こそおっちゃんが来たら声をかけよう!と何十回も決心したのに、ルミカのお尻は公園のガードにくっ付いたまま。公園は何本かの街灯とその先に見える街中のお店の灯りだけ。

ザキミちゃんはさっき男の人とラブホ?に行っちゃった。・・・いいか、よく見とくんだよ、1回しかやらないから。こいつヤバい奴かどうか一瞬で見分けなくちゃだめだよ・・・そう言って小太りの中年のおっさんに走り寄り、笑顔で声をかけると、腕を組んで振り返り、ニヤッと笑いかけてそのまま行っちゃったザキミちゃん。今夜はとうとう独りぼっちになっちゃう。

ルミカは「今度こそ!」と言い聞かせて街灯りの方を見詰めた。公園の少し先にある高級そうなレストランから四人のおじさんが出てくるのが見えた。三人のスーツを着たおじさんがジャンパーみたいなものを羽織ったおじさんに「社長、社長!」と袖をつかんでペコペコ頭下げてた。それから肩を落として街灯りの方に歩いて行った。ジャンパーおじさんだけが公園の脇の道をルミカに向かってゆっくりと歩いてくる。
`社長か…それならヤバくないかもしれない…ルミカはザキミちゃんの教えてくれたことを頭の中で激しくシミュレートする。心臓がバクバク言っている。

・・・立ち上がった。
「あのう、私お腹空いてるんですけどお金もなくって」
おじさんはじっと私を見た
「あのう、泊まるところもなくって、良かったら泊めてもらえませんか?」

「家出?」
「はい」

「そっか、じゃあ付いてきなさい」といってスタスタ前を歩いてゆく。・・・えっ!ザキミちゃんこのおじさん、ヘラリ顔でないし、腕組んで歩かないよ。そんな雰囲気じゃないし、大丈夫かなぁ。

もう他のおっさんを探す気力も残ってないょ!お腹空いてるよう!泣きたいよう、おじさんの持っている紙袋から美味しそうな匂いがしているし・・・

おじさんは24時間パーキングの前まで来ると、そこに在った自販機でお茶を買った。それから、トラックみたいな大きな車(ルミカはその時まだオフロード車というものを知らなかった)の助手席のドアを開けて、乗れと顎で合図をした。

よじ登るようにして助手席に座るとおじさんも運転席に回って紙袋とお茶を渡してくれた。それは予想通りカツサンドだつた。

「食え」
「はい」
「うまいか」
「う、うまいです。こんなおいしいカツサンド初めてです。」・・・止まらなかった、ガツガツ食べた。食べながら涙が出てきた。・・・

「泣いているのか。」
「はい、嬉しくって。」
「家まで、送ってやろうか。」
「いやです。帰れません。お願いですから泊めてください。」

「そうか、これからちょっと遠くへ行くけど構わないか?」
「はい、このカツサンド美味しすぎです。こんな美味しいもの見ず知らずの人間にくれるなんて、あなたはきっといい人ですね」というが返事はなく。
車は走り出した。

「ところで、君の名前は?というかなんと呼べばよいの?」
「ザキミです。ザキミと呼んでください」
「ザキミちゃんは初めてか、家出は…そんな気がするが」

「初めてじゃダメですか」
「・・・」

「お母さんが結婚したおっちゃんがゲロで、いつか必ずあいつに犯られる。私の部屋に入ってきて抱き付いたり胸触ったりする。お母さんに言えないし。だから掃除機のホースで思っきり叩いて、叩いて、逃げてきたの。いつかは絶対あいつにやられちゃうこと覚悟してるけど、初エッチはあのゲロじゃなくて、おじさんにお願いしたいけど、カツサンド美味しかったし…私の処女買ってください。ダメですか?もう60円しかお金ないんです。」
おじさんは前を向いたまま返事をしなかった。

途中、小さな道の駅でトイレ休憩をした。人影はなく車は数台しか止まっていない。既に売店や食堂が閉まって暗かった。

トイレで鏡を見ると髪はゴワゴワ、ブラウスも薄汚れている。・・・こんな汚い女じゃ嫌われるよねぇ。泣いたせいか目の周りが黒いクマになっている。顔をごしごし洗って、汚れたハンカチで拭いた・・・車に戻るとおじさんがニッコリ笑いかけてきた。「ザキミちゃんキスしたことある?」「あります」(ほんとうは経験無いけど) 「じゃあ、おじさんとキスしよう」といった。

「はい!」ルミカはザキミちゃんのアドバイス通り、運転席にいるおじさんに飛びついて、首に手を回して唇を突き出し、目を閉じた。心臓の音がやかましい。
おじさんは唇をやさしく舐めて、下唇を吸ってきた。おじさんのなすままに任せた。体が熱くなった。

・・・めっちゃ、気持ちいい。キスってこんなに良いものなんだ。なんだかぼーっとしてくる・・・おじさんはルミカの腕を外して、

「ザキミちゃん、続きは別荘でやろう、おじさんはもう止まりません。」と言うと車を走らせた。ルミカはおじさんに膝枕してすっかり寝込んでしまった。

突然、ガタンガタンと車が揺れて目が覚めた。車は暗い林の中の山道を登っていた。しばらく行くと林道の少し開けた空き地の奥にログハウスがたっていた。車が玄関前の駐車スペースに入るといきなり照明が点いてまぶしい。ログハウスの窓にも灯りが見える。

家の中に入るとおじさん軽くキスをしてくれた。それから風呂に入れ言った。不思議なことに、すでにお風呂は沸いていた。「着てるものは全部洗濯だ。脱衣所の洗濯機に入れてスイッチを入れたらあとは自動だから…」「あのう、着替えないんですけど、どうしましょう」

「乾くまで、ザキミちゃんは全裸ですよ。」「きゃぁ!」ルミカは悲鳴を上げた。
風呂に入っているとおじさんも入ってきてシャワーをした。それから、ルミカの体を優しく洗ってくれた。母と二人で風呂に入っていたことを思い出させる洗い方だった。

おじさんはガウンを持ってきてすっぽりとルミカの体を包んだ、抱きかかえてベッドへ運び、唇、乳房、臍まわり、下腹部のまばらな繁み、そして割れ目に舌が入り込んできて。
ルミカの頭は真っ白になった。

「いれるよ、力を抜いて」とおじさんが言った。ギリッギリとルミカの中に入ってくる男のモノ。「痛い」「ほら痛いから力を抜いて」ゆっくりと少しずつ固いものが上下しながら入ってきた。

美味しそうな匂いがして目が覚めた。おじさんはキッチンで肉を焼いている。「おっ目が覚めたかい」とにっこり笑ってルミカを見た。

いつの間にか、ルミカは黒と緑の横じまのラガーシャツ?を着ていた。下はすべすべした肌触りのグレーのトランクス。大きすぎ。立ち上がってみるとシャツはワンピースみたい。

…寝ている間におじさんが着せてくれたのかしら、全然覚えていないけど、他に何をされていたのかも分からない。あんなこと、こんなこと…キャ、妄想しちゃう…

「今、何時ですか?」
「もうすぐ12時かな」
「ええっ、そんなに寝てたんだ」
「セックスの最中に寝てしまうとは、いい度胸しているよ」
「わたし、痛かったけど、おじさんに触られているのが気持ちよかったりして、だんだん分からなくなって…おじさん、わたし、本当にバージンだったんですよ、信じてください。」

「確認しましたよ。」とおじさんが言う。シーツにはオレンジがかったシミが広がっていた。「きゃっ!恥ずかしい」と言いながらしっかり見つめていた。
「おなかすいてるだろう。でもその前にシャワーしてきなさい。」

その丸太小屋(おじさんの別荘)で3日間セックスして食事して、寝て、またセックスをして過ごした。

3日目、初めてベランダに出た。森の木々に囲まれた湖が見降ろせる。おじさんはデッキチェアに裸で寝そべって、少し疲れている様子だった。ルミカはおじさんのガウンを纏って、男のモノの頭をやさしく撫ぜて固くして、唾液をたっぷりたらし、キスをした。

「おじさん、頑張って、疲れたでしょう。今度は私がやってみる。おじさんは動かなくてもいいからね」と言って、おじさんに跨ると手を添えながら男のモノを割れ目の中に入れ、ゆっくりと腰を振った。

しばらくすると入れたときの痛みが遠ざかって、気持ちが良くなってくる。体がもっともっと快感を引き出そうと腰が勝手に前後に動く。アッ、アッと声がでて仰向けに倒れ込んで、デッキチェアから床に落ちた。膣から外れたペニスから精液が飛び散って、ルミカの胸や顔にも落ちてきた。

・・・・・

「帰りたくないです。公園に戻るのもいや、ずっとこうしていたい。」

「家に帰りなさい。おじさんも仕事が待っているからここは引き上げなくちゃいけない。」
「帰ったら、怒られるし、ゲロ親父に犯られちゃう。考えただけでも吐き気がしてくる。おじさんの側にずーっと居たい。そうだ!愛人にしてください。お願い。」と言って涙を流しておじさんに抱きついた。
「おじさんの愛人になるには、それだけの値打ちちゅうもんがないとな。なるにはまだ勉強が不足だなぁ。修行が足りない。でも、ザキミちやんのおかげて、私の気持ちの整理ができたことは感謝している。ありがとう」と言って、おじさんはルミカの頭をポンポンとした。

「愛人の勉強なんて聞いたことないよ。」とふくれた。

「おじさんの愛人として皆から認められるくらいの、ザキミちゃんなら納得って思うくらいの女になってからだなぁ。今は、逃げ回っているところだからなぁ。もっと現実と立ち向かえるようにならないと、一度セックスしたくらいで愛人にはなれません。」そう言って、おじさんはルミカの手を自分の睾丸の袋に導いた。

「義理のお父さんが襲ってきたら、思いっきりここを握ってやりなさい。」「こう?」「いたた!イタイイタイ手を放して!」「ごめんなさい」「いや、その調子で、もっと力を入れて握ってやれば、君のお父さんも諦めると思うよ。そのくらい急所なんだ。」
「わかった」と言って、ルミカは睾丸の入った袋を軽く引っ張ったり、おじさんのモノを舐めたりした。変な形をしているけど、なんだか愛おしい。

「そろそろ、引き上げるぞ」とおじさんが言った。
ルミカは帰りたくない。「もう少し待って」と言って、まだ柔らかいおじさんのモノをルミカの中に押し込んで腰を振った。

「おじさんとお別れなんだね。私、おじさんと、この感じ、忘れないよ。」
おじさんのモノが膣の中で固くなっていった。

車のエンジンをかけておじさんは山道を降りかけた。
「おじさん、鍵を閉めないの?それに、電気もつけっぱなしだし。山奥でも不用心だよ。」

「いいんだ、おじさんが居なくなればセンサーが働いて自動施錠、電源も切れる。」

「えっ、それって私の部屋も自動施錠で、ゲロ親父が入れなくできるかなぁ。ゲロ親父を撃退できる、なんか武器みたいなものもあれば、帰れるかも。」

「少し、考えてみるか。乗りかかった船だ。」
「うん、お願いします。」

「一旦戻ろう、センサーやロックの部品があるから、プレゼントしよう。」と言ってまた戻った。いろいろな部品をいちいとりだしてルミカに説明してくれるが言っていることの半分も分からない。

「おじさん、私、難しいこと分からない。子ども科学館の理科クラブのレベルだから、もっと分かりやすく説明して」というと
「おお、リケジョだったか」と言って、笑った。
そして紙を取り出して、図面を書きながら改めて説明を始めた。

山を下りながら、ルミカとおじさんは部屋のロック、センサーの取り付け、模様替えについての話で盛り上がった。おじさんは東京の秋葉原にある電気屋の名前と地図を書いて、足りない部品はここに行けば手に入るから…と言った。おじさんがくれたデイバックにもらった部品と説明書き、記念にとラガーシャツとグレイのトランクスを入れて、おしゃべりを続けながらお尻に敷いていた角封筒も入れた。宛名に会社の住所と相手氏名が書いてあったし、別荘の表札と宛名が同じだったので、おじさんと会社の名前だろうと思ったのだった。おじさんは軍資金だといって10万円くれた。

おじさんと駅前で別れてから、スマホのスイッチを入れた。ものすごい数のメールとすこしの留守電が入っていた。
友達からのメールでは義父との近親相姦で妊娠して家出をし、山の中で自殺したことになっていた。…メールの初めの方は学校中大騒ぎだよ、死んじゃダメ!とか、あのときとっても痛いっていうけどどんな感じ?近親相姦ってルミカが誘ったって聞いたけどホント?妊娠しちゃったってホント? 私のお母さんつわり大変だったって言ってたことあるけどルミカはどうなの?
皆、こんなに心配してやっているのに返事くらいしなさいよ、それとももう死んじゃったのかな?高取山に入って自殺したらしいというチャット、えっキモイ、もう高取山公園には行けない。などとかってに盛り上がっている。…多分、悩みを打ち明けた香苗が皆に話をして、そこから妄想が広がったのだろう、私を死んだことにして楽しんでいる…もう、学校にも行けないと暗い気持ちになった。
そんな友達に交じって父の姉、伯母からも電話とメッセージが入っていた。

・・・・・

ルミカは家に帰る前に伯母さんに相談しようと閃いた。
伯母とは2,3年会っていないが、父が元気な頃は良く遊びに行った。正月にはお年玉をもらえてうれしかったことを思い出す。父からは家が貧しかったので、伯母さんは中学を卒業してすぐ看護師の学校に通い働きながら資格も取り、父の学費を送ってくれたと何度も聞かされた。母はそのたびにシスコン!と呼んだが、父は否定しなかった。

伯母に連絡を取って大きな駅に降り、教えられた17番のバスに乗った。指定されたバス停を降りて記憶をたどって行くと、見覚えのある古ぼけた「あいりんクリニック」の案内板を見つけた。確かこの看板の脇の道を行くと3階建ての診療所があって、その裏手に2階建ての大きなボロい家がある。もとは診療所だったその家で伯母は1人で暮らしているはずだが、街灯もなくて暗く、少し怖い気がする。
表通りに引き返して伯母の指定したファミレスで夕食を食べ、ドリンクバーをはしごして時間をつぶしていると、雨が降ってきた。しばらく眺めていたが、ふらっと外に出て空を見上げた。口を開けると雨粒が入ってくる。そのままぼんやりしていると背後から「ルミカちゃん?」と伯母の声がした。

振返ると、傘を持った白衣(本当はピンクのナース服)の伯母が立っていた。「久しぶりだねぇ。大きくなって、伯母さん見違えたよ。どうしたのこんなにずぶ濡れになって。
・・・お母さんが電話をくれたんだけど…何があったの?家出したの?・・・まあ、話したくなかったら言わなくていいから。」やさしい声だった。伯母は傘を差しかけた。「おばちゃん、おばちゃんのところに今日泊めてもらえませんか?」
「う~ん、汚くしているけど我慢できるかな?あんたずぶ濡れだねぇ、風邪ひいちゃうよ。」
「もう公園で寝たくないし…」
伯母は母に電話でルミカが見つかったので落ち着くまで預かると伝えて電話を切った。

父が生きている時、よく聞かされていた。伯母は中学を卒業すると直ぐに見習い看護師として働きながら准看の試験を通り、さらに正看になって、学費や生活費を稼いでくれた。おかげで大学にも行けた。足を向けて寝られない。すると母が、また貧乏くさい、お涙頂戴かい、聞きたくないわ、本当にあんたは二言目には姉ちゃん、姉ちゃん、シスコンなんだからと切り返す。そして時々激しい口論になる、それはとても恐ろしく感じた。あのころから母と伯母は仲が良くなかったように思う。
そういえば、父が倒れたときも伯母に連絡せず、死に目にも会わせないとか、伯母と母が火葬場でけんかしていた。

クリニックの裏手に回ると駐車場になっていて、その奥に見覚えのある庭の広い伯母の家があった。
「おばちゃんは仕事に戻らなくちゃいけないの、とりあえずお風呂に入って体温めてね。お腹空いてる?」
「いいえ、ファミレスで夕食済ませましたから」
「そう、今日は夜勤なの、人手不足でね、夜勤が多くて…風呂は沸かしてあるからね。着替えある?」
「あっ、はい」
「今日は、和室に寝てね、布団敷いておいたから」
「すみません」
「じゃあ、行くわね。」というと、雨の中小走りで出て行った。

・・・・・

「ルミカちゃん、ルミカちゃん」
「ああ、伯母さんだ、おはようございます。寝坊しちゃった。」
「寝坊じゃないのよ、私も今帰ったところ」
「さあ、お父さんにお線香あげましょうね」
振り向くと食器棚の上に仏壇があった。伯母さんは位牌の一つを指さして、
「これがお父さんの位牌よ。こっちがお爺さんで、この少し小さいのはおばあちゃん。」
「伯母さん、この位牌前に見たことがある。」
「そうねぇ、以前はあなたの家においてあったから、お父さんの3回忌の時に、あなたのお母さんが持ってきたから預かったのよ。」
言われてみれば、家にも食器棚の上に小さな仏壇が置いてあったが、扉は閉まったままで、手を合わせた記憶もなく、いつの間にか無くなっていた。
ルミカは伯母さんのまねをして、仏壇に向かって手を合わせ、線香を立ててリンを鳴らし、また手を合わせた。なぜか、気持ちが落ち着いた。

「本当なら、夜勤明けは休みなんだけど、人が足りないから遅番でお昼にはまた病院に行かなくちゃならないの、だから悪いね。起こしちゃった。」   ダイニングに行くと、女性が二人食事をしていた。伯母さんが「これが、私の姪のルミカ。こちらは看護師のケイちゃんと事務のミイちゃん。二人はこの奥に住んでいるのよ。二人とも可愛い私の姪に悪いこと教えちゃだめよ」
「婦長さんの姪御さんに悪いことなんか教えるはずないじゃないですか、良いことだけ教えますよ。」「それもダメ。ルミカ、この二人は要注意だからね。悪だから。」というと二人も意味深に笑い、ケイがミイの大きな胸を軽く撫ぜながら「婦長さん、心配しないで、大丈夫です。」と言った。ミイが「婦長さん、もう時間ですよ」と言うと「そうねぇ、ほら!ケイちゃん、その手、それがいけないっていうの。」
「アッ!いけない、つい癖で…」
「あんたたち、ルミカに手を出しちゃだめよ、まだ中学生なんだから」と言い捨てて出て行った。
「さあ、一緒に食事しましょうね。ここはねぇ、クリニックの看護師も事務員もみんな来て、休憩したりおしゃべりしたりするのよ。みんな婦長さんのこと好きだし、落ち着くし、それとね、食事のことだけど、ひとり一品持ち寄りで、皆勝手に作って、あと冷蔵庫にあるものを勝手に食べていいのよ。夜勤専門の看護師でとっても料理上手な林さん。あと、事務の美恵子さんとそのお子さんの健一君、もう一人医療事務でお婆さんの長谷部さんも来ると思うから、驚かないでね、長谷部さんは門倉組の会長さんのお姉さんだけど普段はとっても優しいから心配しないでね。あと飯島ってすごい美女もいるけど本当は男だから。」と言った。
朝食は、ホウレン草のバター炒めと、カレイの煮つけ、茹で卵、目玉焼き、里芋の煮物、豚汁とメニューが多くてとりとめもない。だけど、どれもが美味しい。
「さて、私も仕事に行かなくっちゃ。ケイ、後片付けお願いね」といってミイちゃんは玄関前で深呼吸をして出て行った。

「ルミカちゃん、ミイちゃんはいくつ位だと思う?」とケイちゃんが言った。
「そうですね、25歳くらいですか?」
「はずれ、42歳」
「ええっ、ウソ!めっちゃ若く見えます。」
「身長153センチ、体重44キロ、バストD。どうせ分かることだから今のうちに話しておくから、信じられないかもしれないけど覚えておいてね。ミイちゃんは診療所とこの家の敷地から外へは出ることができないの。とってもつらいことがあってね。私なんて、ちょっと女好きで男が苦手なだけでたいしたことないんだけど、まあそのせいで女子高から女の職場と思って看護職を目指したの。でもどこの病院でもレズの癖が出て務まらなくて、たまたまここで診察を受けに来て、ミイちゃんと目が合ってピンときて、看護婦募集してませんかって言ってみたら、人手不足で困っているというから雇ってもらったんだけど、おかげでミイちゃんと一緒になれて幸せなの。分かってね。」
「はあ、つまりお二人はレズビアンということですか」
「そうだけど、ミイちゃんはお母さんが離婚して、ここら辺は家賃や物価が安いと聞いて引っ越してきたのよ。そして、南高校に転校したの、ほら市内一番の低辺高。当時は今よりもっと荒れていてひどかったらしい。そこで、たちまち学年で成績一番、スポーツも得意で、今も美人だし…、目立ったらしい。それで、当時三年生だった札付きのキチガイ野郎に目を付けられて、学校帰りに追いかけられて、ナイフで頬を刺されたらしいよ。今でも右頬に傷あとがかすかに見える。そのまま家に連れ込まれてキチガイ野郎のお母さんの見ている前で、強姦されて、臍の下にナイフで男のイニシャルを入れられたのよ。何日かして警察が来て、ミイちゃんは助けられてこの診療所で膣の裂傷と腹部の切り傷の治療を受けたって、キチガイは俺の女と家で何しようが関係ねぇとか言い張って、未成年だったことから数日で帰されたんだよ。キチガイの母親は止めに入った時に殴られてその時に足の骨を折ったりして仕事を首になって、息子が少年刑務所に行ったこともあって、首つって自殺未遂やったらしい、」
「うっそう!ここはそんなに治安が悪いんですか」
「今はずいぶん良くなったけど今から25年位前までは大変だったようだよ。それでね、警察も警戒してキチガイの家は見張っていたらしいけど、まさか被害者宅へ直行するとは思っていなかったらしい。キチガイは警察から真っ直ぐミイちゃんの家に押しかけて、鉄パイプでドアをたたいてノブを壊して、それでも開かないものだから、外に回ってベランダを伝って3階まで登って掃き出し窓をたたき壊して侵入したんだって、お母さんは仕事で留守だったし、傷も癒えてなく寝ていたし、じっとしていれば何とかなると思っていたのね。鉄パイプ握って恐ろしい顔で寝室に入ってきてお前は俺の女なのにこんなところで寝たふりなんかしてんじゃねぇって言ったらしい。あとは恐怖で覚えていないって。
傷口の包帯やガーゼや縫合部分を手で引きはがして、また強姦よ、強姦。警察が何人も来て、鉄パイプ振り回すから取り押さえるのに大変だったみたい。ミイちゃんはまたここで治療よ。縫合した部分が引きちぎられて動脈出血もあって死にかけたって、ミイちゃんのお母さんも気がおかしくなって入院した。ミイちゃんは妊娠した。子宮外妊娠そして中絶。行き場もなくなって婦長さんが引き取って一緒に暮らしながら、医療事務の資格を取らせて、そのままここで働いているわけよ。」
「すごいですねぇ、伯母さんも尊敬しちゃう。」
「だけど、これで終わりじゃないんだよ、キチガイが少年のムショから出てきて、診療所の入口で俺の女を返せといって暴れたんだと、そしたら長谷部さんが門倉組に連絡入れてね、すぐ若いもんが何人か来てキチガイを取り押さえてね、お前のここが悪いといって、おちんちんを短刀で切り取ってしまったらしい。血だらけだったそうよ。大先生が飛び出してきて、外科は専門じゃないけどさ、何でも引き受けていたから道具はそろっている。応急処置でくっ付けて救急車に乗っけた。その後で、門倉の組員がキチガイに診療所の敷地には絶対近づかないことを約束させたのよ。ミイちゃんはここの敷地から出ないし、トラウマから出られない。

キチガイ野郎は駅近の飲み屋街あたりでマガリチンの兄貴って呼ばれて、組のパシリをしているらしいよ。」
「ミイちゃんはレズッ気はあるけど、男が怖いっていう方が強いと思う。患者さんや患者でなくとも付き添いとか言ってミイちゃん目当てで来院する男の人がいる。モテるのよ。最近も息子の嫁にと言ってきたおじさんもいた。ミイちゃんの年を聞いて驚いて帰って行ったけどさ。ミイちゃんは私じゃなくても優しく抱いてくれる女なら誰でもいいんだと思うよ。特に、フラッシュバックが起きたときなんか、私の前は婦長さんと一緒に寝ていたこともあるし。」
「伯母さんは、レズだったのですか!」
「何言ってるの、大先生が大好きで、だからこの診療所からどこにも行かなかったのだと思うよ。いろんなところから誘いがあったらしいけど、二人の仲は皆知っていたもの。今は、若先生の女だけどさ…」「えっ、大先生と若先生てことは親子ですよねぇ、伯母さん二股ですか…」
「いろいろあってさぁ、若先生がこの診療所を引き継ぐとき、あんたの伯母さんを譲ってくれって大先生に条件つけたの、それで今は若先生の女。夜勤の日、帰ってこないでしょう昼まで、婦長さんは若先生の仮眠室で仲良ししてるよ。」
「うっそ~」
「あんたの伯母さんも、とっても苦労してきたのよ」

荷物を取りに伯母が借りた軽トラックで自宅マンションに来た。
マンションの入り口に立つと急に気分が悪くなり、体中に赤い発疹が出た。
「ダメ、入れない」
「分かった、伯母さんが代わりに行くから、車の中にいなさい」
車に戻った。寒気がして震えていると窓をたたく音がした。母がのぞき込んでいた。
「ルミカ、どっかで死んでしまったのかもと思っていたのよ。大丈夫?伯母さんは看護婦だから安心よねぇ。落ち着くまで、伯母さんのところにいなさい。お母さんも泥棒猫はいらない。」
口元だけ笑って、冷たく睨みつけている母の目。体が硬直してしまった。
「何してるの?あんた母親でしょ、そんな車の中を覗き込むような真似をしてないで、抱きしめてあげるんじゃないの?」と背後から荷物を抱えた伯母が静かな声で言った。
「あっ、ああ」と言いながら母がドアノブに手をかけた。ルミカは慌ててドアをロックした。
「この子、恥知らず、こんなに迷惑かけておいて、謝るどころか車の中に閉じこもって出てこないみたいね。バスタオル1枚巻いてうろついてお義父さんを誘惑する、色気づいちゃって、やましいことがあるから出てこられないんでしょ、母親の目を盗んでさ」
「あんた、昔から男なしでいられないよね。娘が邪魔になったんでしょ。子どものせいにしないで、正直に言いなさいよ。淫乱女」
「その言葉、あんたにそっくり返してやる。妾奉公の行かず後家のくせに。偉そうに。」
「ルミカは私が貰って行くから。ほら、どけなさいよ、引越し手伝う気もないくせに、邪魔、邪魔。」
・・・その日が最後、ルミカは二度と母と会うことはなかった。やがて夏休みも終わり、2学期から伯母の家の近くの学校に転校した。スマホは廃棄して、新しい電話番号とメールアドレスになった。

・・・・・

ルミカは封筒の住所を頼りにおじさんの会社のホームページを探した。ホームページを見ると、その会社は工作機械の精密部品を作っていた。伯母さんの家からは約2時間程、工業団地の中にあった。社員募集のページを見ると採用実績に近くの工業高等専門学校の名前があった。ルミカはそこを目指すことにして勉強を始めた。
事務のミイちゃんが受験勉強を手伝ってくれた。ミイちゃんは高校中退で年は40を過ぎているけど凄く判りやすく教えてくれる。勉強が楽しくなってきた。成績もどんどん良くなってきて担任は市内の公立進学校を勧めてくれたけどルミカの意思は変わらなかった。ミイちゃんの不得意な古文は長谷部さんが教えてくれる。そしてケイちゃんが夜食の用意をしてくれる。夜は3人でレズっこしながら寝る。伯母さんは若先生と楽しくやっているようだ。

ルミカは合格した。この学校は5年制だがルミカの精密機械工学科は全部で女子は6人しかいなかった。そのうち5人は女子寮、一人は通学だった。ルミカは入寮した。
時々、おじさんの会社の様子を見に出かけた。近所の人が散歩でもしているように前の通りを歩くだけだが…
あるとき本社ビルの入口に通りかかると、黒塗りの大きな車が横付けになった。運転席からすらりと背の高い美しい人、グレーのスーツ、プリーツスカート、イヤリングやネックレスが小さいのにチラッと光ってカッコイイ!!後ろのドアを開けて立っている。
おじさんは美女さんに軽く会釈して乗りこんだ。おじさんはやっぱりここの社長だ。とうとう発見! 胸が高鳴った。
それにつけても凄い美人が側にいるなんて…ルミカの気持ちは真っ暗。そんなことで諦める気にはなれない。でも勝てそうにない。

そんな気持ちのまま教官や何人かの男子学生に誘われてセックスしたが、おじさんのセックスとは比べ物にならない。皆せっかちで、乱暴で、ルミカが気持ちよくなる前に終わってしまう。
つまらないのだが、ルミカに近寄ってくるが男を拒むことはしなかった。
寮の先輩が心配して「あんたねぇ、男の子たちがサセコって言っているの知ってる。初めてこの寮に来た時、あんた言っていたわよね。好きな人がいます。その人の愛人になりたいと言ったよねぇ。私驚いたけど、感心したよ。そこまで思い込んでこの学校選ぶなんて、良い、悪いでなく凄いって思ったもの。でも、今のあなたがその人に選ばれると思う?」
「その人のことなんですけど、そばに凄い美人で、優秀って感じの人がいるってわかったんです。とても無理、歯が立たない、近づくこともできそうにありません。」
「いいじゃない、愛人その2になれるように頑張ってみなさいよ。ところでその人、本当に愛人かどうか確認したの?違うかもよ、例えば子供だったり、すでに他の人の奥さんだったりするかもね。」
「そうか」
「調べもしないで、今は、逃げ回っているだけでしょう」
「ああ、私、また現実から逃げている。そう、向き合わなくっちゃですよね」
「あんた、いろいろ大変だったのに、ここまで頑張ってきたんだもの。それでね、あんたの体から精液の男の臭いが時々する。嫌なの。あんたのせいでこんなになったのよ。だから、男はやめて私だけにしてね」と言って、優しくキスをしてくれた。ルミカもキスを返し、彼女のシャツのボタンをはずし始めた。

・・・・・

冴子は2年前にも本社工場を訪ねて、工場長に直談判した。その時も予想通り簡単に断られてしまい「お嬢さんたまには生産ラインでも見て帰りませんか」と言われた。
工場長も営業部長も赤ん坊のころからの私を知っている。誰も取締役企画室長なんて言わない、お嬢さんとか、総務の厚子さんなんか今でも冴子ちゃんと呼んでいる。
…実績がない、悔しい、入社以来大きなヒットが一つもない。だれも私を会社の戦力として期待していない…養子を迎えること、お母さまのように、役員の名刺を持ってあっちこっち顔を売って…工場長なんかは、昼休みに抱っこしていたらおもらしされちゃったなんて赤ん坊の時のこと、嬉しそうに話すのだ。…今日も、企画書(案)を携えて、協力をお願いに来たけれど…
「お嬢さん、ウチは超微細金属加工の部品メーカーですよ。完成品なんか作っても、どこに売るんですか、作れるかもわからん、開発予算もわからん、デザインも異質、第一女心の分かる奴なんてお嬢さんしかいないんです。話になりません。私も暇じゃない。まあ、せっかく来たんだから、たまには工場内を視察してくださいよ。新しい機械装置が入って、ライン変換もやりました。

みんなお嬢さんに期待してるんだから、お父さんみたいな優秀な技術者兼経営者を捕まえてきてくださいよ。この前みたいに直ぐ別れなくても良い人、私はあの方も家柄も、人としてもとってもいい方だと思っていたのですが、惜しかった。冴子お嬢さんみたいな美人で教養もあって、優しいお方はいませんよ。ウチのみんなの自慢ですよ、一緒に歩いていると若い男は皆、お嬢さんの方を振り向く、私まで晴れがましく、嬉しくなる。企画書なら婿取りの企画の方が千倍うれしい。社内にお嬢さんに相応しい奴がいたらなぁ。」
そんなうんざりする話を我慢しながら案内に従っていた。そのとき、見たことのない若い女工がラインに立っていることに気づいた。牛の涎のように続く工場長の話を逸らしたいこともあって、話題をその子に振った。
「あの人、若い女工さんねぇ、ほらメーターをチェックしている。居たっけ?」
「ああ、あの娘は3月末に採用したんですが、新卒採用試験に応募してきてねぇ、M高専からの応募で、ウチは新卒女子は採用していないと断ったら、パートでもいいから働かせてほしいと、高専からの応募者は貴重で断ると、回してもらえなくなることを危惧していたので…喜んでパートとして採用しました。そのかわり時給は他のパートの1.5倍。とにかく、優秀、めちゃくちゃ飲み込みがいい。さすが社長の母校M高専。若い男たちに見習えって言ってやっているんです。特例で正社員にとも思っているんですが、内規どおりならあの娘1人のためにロッカールームやトイレなどを作る必要があるとか、総務部の厚子がゴネて話が進まない。」
「彼女の履歴書ありますか?あの子と面談したい。3時ころまた来るからあの子の時間空けておいて。」
「お嬢さんの企画にあの子を巻き込むつもりですか…」

・・・・・

「発光ダイオード扱ったことある?ウェアラブル乾電池は?」
「発光ダイオードは扱いましたが、ウェアラブル乾電池はありません。極小バッテリをテープに埋め込んだことはあります。」
「それ何に使ったの」
「その時は学園祭で、LEDライトと一緒にテープに貼って暗幕を降ろした教室のあっちこっち貼ったり、吊るしたりしたんです。」
「なんで、そんなことしたの」
「主展示物が、暗いところでなくちゃダメなものだということで、すこしでもお客さんに注目してもらおうということで、いっそ異次元天体空間とか名前つけちゃって…すっごくお金かかった割に評判良くなかった。」
「それょ!ねえ、このデザイン、これを10分の1にして、アクセサリーとして販売したいと思っているの。あなた、毎日メーターとにらめっこしているより、こっちの方が楽しいと思わない?」
「うーん、楽しいですけど、売れるかなぁ、LED光って安っぽいし、量産するとみんな飽きちゃいますよ1~2年で」
「あなた、気に入ったわ!そうなの!そこよ!今は色数が少なく、照度も一定だから単純で直ぐ飽きちゃうかもしれないけど、当社の得意技、金属微細加工技術の職人芸で1つとして同じものがない、天然の宝石みたいなアクセサリーを開発したいのよ。ティアラ、イヤリング、ネックレス、ブローチ、腕輪、指輪、ヘアピンなんかも…パーティーに出かけて夜になって秘密のスイッチを入れたら、その人だけきらきら輝くの!ほかの女性は暗く沈むの。面白いでしょう。」
「原価だけで何百万円もかかりそうですね」
「安物なんて開発してもすぐ真似されるだけでつまらないでしょ。中東のお姫様とか、国際的に有名な女優さんとか、そんな人に使ってもらうのよ。当社は、今は無名だけれど、そのときは世界中の女が当社の名前を頭に刻み込むようになるのよ!だから、明日から、私の部下ね。開発室は工場と違ってトイレもロッカーも心配ないから、私のところでこの子を引き取ります。問題ないでしょう。工場長。」
「お嬢さん、じゃなかった、開発室長、こうゆうことはちゃんと筋を通してやらなくちゃ、もうウチも家内工業じゃないんですよ。私も優秀な若手を失うのだから、それなりに補充とかしてもらわんと…」
「じゃあ、一時異動と言うことで、とりあえず1週間、お願い、レンタルさせて。後のことは厚子さんと相談してみます。」
・・・冴子はその時、チビで色黒でどこか憎めないこの女、実はとんでもない爆弾を抱え込んだとは夢にも思わなかった。ただただ、新規事業の突破口ができたと有頂天になっていた。・・・

本社工場と開発室のある本社別館とは約2キロ離れている。本館と別館は道路向かいにあたる。

翌朝、ルミカが開発室のドアをたたくと冴子取締役ひとりしかいない。開発室には決まった部下は1人もいないのだった。早速、二人は庶務の厚子のところへ今後について話を詰めに向かった。

工場長となつかしいおじさんの大きな声が聞こえ、気配を背後に感じた。そのとき、
「ザキミちゃん!ザキミちゃんだね」とおじさんの声がした。
「社長、紹介します。この娘は下山ルミカさんといいます。今はパートで組立ラインにいますけど、勿体ないほど優秀で…」と冴子が言いかけた。
「いや、この娘はザキミちゃんです。下山ナニガシっていうのは詐称ですね。懲戒に当たります。工場長にも責任がありますよ。スパイかもしれない。後で…来客が帰ったら社長室に連れてきなさい。直接尋問します。」と言って、去っていった。

「いやぁ、先月位かなぁ工場の前を通りかかるとザキミちゃんがウチの作業衣を着て門から出てきたので驚いたんですよ。それから暫く様子を見ていたけど、君から何のアクションもないから。久しぶりですね。探していたんですよ、すっかり大人なって。今、会社の近くのアパートで独り暮らししているようですねぇ。」

「あのとき嘘の名前を使ったことはお詫びします。ごめんなさい。本名言えませんでした。あの後ずっと、おじさんの側に行きたい思って調べました。そうしたらこの会社の社長だって知って、だから、おじさんの役に立つ人間になって少しでも恩返ししたいと思って高専に行って勉強したり、でも女は採用しないって面接も受けさせてくれなくて、仕方ないのでパートに応募しました。」

「年齢も、詐称していましたね。あのころ未だ中学生だったようですね。どうしましょうねぇ、これから…」

「すみません、できることなら、首にしないでください。このまま、いままで通り働かせてください。本当の年を言ったら、バージン貰ってもらえないかもって、サバ読みました…ごめんなさい。」

「そうはいきません。もう、我々は社内の噂の渦に落ちました。そうですねぇ、あなたは私の抱えた爆弾のようなものだから傍に置いておかなくては安心できません。とりあえず今日付で総務部の庶務係に異動して社長室の受付をやってもらおうか。冴子の部署も兼務と言うことで…」

「えっー、嬉しい、頑張ります。何でもします。よろしくお願いします。」

「それから今週の土日、何か用事ありますか、もしなければ久しぶりに私の隠れ家にご一緒しませんか?」

「嬉しいです。なんでもします。それから今日も、用事はないです。」

「今日は残念ながら、所用でね、しかし冴子室長が、君への尋問の時間をたっぷりとっているようだよ」といっておじさんは笑った。

定型発達症候群という我らの病を障害者に押し付けるな

自分は健常者だと思っている私たち全員が抱える「ある重い障害」それが定型発達症候群です。それは、以下のような症状を抱えており、こうした障害がない人たちに自分たちの行動様式や思考方法を押し付けます。
この症状を改善に導いてくれる医者もカウンセラーもいないため、人類の95%がかかっています。
残念ですが福祉関係者や障害者家族にも普遍的に見られる障害です。

定型発達症候群の方には以下のような症状が見られます

1.対人関係
・他人の気持ちを自分のことのように感じるという幻想をもっている
・暇なときはなるべく誰かと一緒にいたい
・初対面の人とでも、それなりに話ができる

2.集団
・社会慣習には、まず従うべきだという価値観。周囲になじむことを最優先。
・所属集団の中で自分の地位を高めること、自分をよく見せたり、賢いふりをする
・集団の和を乱すものは許せない
・同じ定型発達症候群の友人をもつことへのこだわり、自分とはちがう人を理解し、友人関係を築くことが困難

2.コミュニケーション
・率直なコミュニケーションが苦手、本音より建て前を優先
・会話の内容を伝えるのに声の大きさ、視線や表情、しぐさなどを多用する
・論理を欠いても平気で一貫性がなく、状況で対応をコロコロ変える
・ことばを正しく使うことができない。あいまいな表現を多用する。平気でウソをいう

3.気づき・こだわり
・ものごとの細部に気づくことができない
・機能的ではないもの、高額品やブランドなど威信財へのこだわりやあこがれを持つ
・部屋の花瓶の位置が少しズレたなど、環境の変化に気づくことができない

4.感覚機能
・長時間座ったり、ダンスや縄跳びなどができる
・大きい音や蛍光灯など強い光に鈍感である
・気圧の変化による不快や過呼吸などの経験がない
・自分の経験する世界が唯一、正しいものとみなしている

5.正常バイアス
・メガネをかけている人は視覚障害者などと言うとビックリして慌てて否定しようとする
・自分は「健常者」であると思っていて「障害者」が彼らのしきたりを学んで、それらしく合わせて振舞うようになること自立してきたとか成長したと喜ぶ。

定型発達症候群とはアスベルバーガー症候群の人たちが突き付けた「健常者」の病理現象です。
この記事を読んで、どこが病理なのかさっぱりわからない。と思ったあなたは相当深刻な定型発達症候群の患者です。「津久井やまゆり園」で入所者ら45人を殺傷した植松被告との差は紙一重かもしれません。この事件の判決が3月16日に言い渡される予定です。

新しいブログ始めました

不定期で更新していきますのでどうぞよろしくお願いします

 

このブログは「一期一会」と題したが、これはお茶の世界の言葉のようだ。徳川幕府の大老井伊直弼の著書に出てくるのが最初らしい。意外と新しい言葉のようだ。

毎日顔を合わせる友人や家族や仕事仲間であっても、 言葉を交わすその一瞬一瞬は「一期一会」である。 相手を思いやり、出逢えたことに感謝をしなさい。 というような意味 ととらえるのがオーソドックスのようだが…cameは人との出会いだけでなく、五感に触れる全てを「一会」と広くとらえようと思う。

「一期」とは、私たちの生涯のこと、 「一会」とはただ一回の出逢いということだというが、cameは

出会を人に限らず、雨の音や庭のムクドリ、アブラムシを潰した時の感触なども「一会」と思って、つれづれのままに書きとめてゆくつもりです。